急激に社会問題化している心身症の克服モデル

文献情報

文献番号
200935013A
報告書区分
総括
研究課題名
急激に社会問題化している心身症の克服モデル
課題番号
H19-こころ・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
福土 審(東北大学 大学院医学系研究科・行動医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 谷内 一彦(東北大学 大学院医学系研究科・機能薬理学分野)
  • 田代 学(東北大学 サイクロトロンラジオアイソトープセンター)
  • 本郷 道夫(東北大学 大学病院・総合診療部)
  • 青木 正志(東北大学 大学院医学系研究科・神経内科学分野)
  • 金澤 素(東北大学 大学院医学系研究科・行動医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 国民の健康を左右する要因としてストレスの比重が急激に高まっている。その代表的な病態が過敏性腸症候群(心身症)、摂食障害であり、共通する心理機制として失感情症を持つ。本研究では、内臓知覚と認知過程に焦点を当て、末梢信号からの情動、心理形成の過程を検討した。
研究方法
 過敏性腸症候群の脳内プロセシングを機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて検証した。陽電子断層撮影法(PET)による脳ヒスタミンH1受容体画像を用いて心理ストレス時の変化を検証した。摂食障害の脳内神経処理過程をfMRIで分析した。受容体画像の日内変動を検出した。セロトニントランスポーター遺伝子多型とストレス病態の関連性を分析した。過敏性腸症候群患者の日常の内臓知覚を決定する要因を検索した。
結果と考察
 過敏性腸症候群では健常者に比べて右背外側前頭前野の活動がルール変更時に有意に低く、左島皮質の活動が有意に高かった。PET脳画像上のH1受容体結合量は心理ストレスでは変化しなかった。神経性食欲不振症では、ルール変更課題実施中に右楔前部、右上前頭回、左被核、右中前頭回で有意に健常者よりも活動が低かった。脳ヒスタミンH1受容体結合は前帯状回でのみ午後よりも午前に高かった。セロトニントランスポーター遺伝子多型は腹部膨満感と失感情症に関連した。過敏性腸症候群の臨床的腹痛重症度は、特性不安ならびに検査中の腹痛閾値と有意な相関を示した。腹痛閾値は、高感度CRPと有意に相関した。
結論
 内臓知覚と情動が関連するという仮説が支持されたことを嚆矢とし、ストレス関連疾患の克服に繋がる知見を得た。過敏性腸症候群では急な環境の変化に直面した時の脳内プロセシングが異常であること、内臓知覚と脳ヒスタミンH1受容体画像に影響する因子、摂食障害における脳反応、セロトニントランスポーター遺伝子多型とストレス病態の関連性が明らかにされた。これらの要因から心身症を克服する方法の更なる展開が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

文献情報

文献番号
200935013B
報告書区分
総合
研究課題名
急激に社会問題化している心身症の克服モデル
課題番号
H19-こころ・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
福土 審(東北大学 大学院医学系研究科・行動医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 谷内 一彦(東北大学 大学院医学系研究科・機能薬理学)
  • 田代 学(東北大学 サイクロトロンラジオアイソトープセンター)
  • 本郷 道夫(東北大学 大学病院・総合診療部)
  • 青木 正志(東北大学 大学院医学系研究科・神経内科)
  • 金澤 素(東北大学 大学院医学系研究科・行動医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 国民の健康を左右する要因としてストレスの比重が急激に高まっている。その代表的な病態が過敏性腸症候群(心身症)、摂食障害であり、共通する心理機制として失感情症を持つ。本研究では、内臓知覚と認知過程に焦点を当て、末梢信号からの情動、心理形成の過程を検討した。
研究方法
 過敏性腸症候群の脳内プロセシングを陽電子断層撮影法(PET)ならびに機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて検証し、失感情症の影響をみた。PETによる脳ヒスタミンH1受容体画像を用いて摂食障害患者と心理ストレス負荷時の変化を検証した。摂食障害の脳内神経処理過程をfMRIで分析した。セロトニントランスポーター遺伝子多型とストレス病態の関連性を分析した。過敏性腸症候群患者の内臓知覚を決定する要因を検索した。
結果と考察
 過敏性腸症候群では健常者に比べて右背外側前頭前野の活動がルール変更時に有意に低く、左島皮質の活動が有意に高かった。大腸刺激下の膝周囲部前帯状回、島皮質、中脳水道周囲灰白質の賦活化は失感情症で有意に多かった。神経性食欲不振症では、ルール変更課題実施中に右楔前部、右上前頭回、左被核、右中前頭回で有意に健常者よりも活動が低かった。セロトニントランスポーター遺伝子多型が大腸刺激下の前帯状回活性に影響し、腹部膨満感と失感情症にも関連した。過敏性腸症候群の臨床的腹痛重症度は、特性不安ならびに検査中の腹痛閾値と有意な相関を示した。腹痛閾値は、高感度CRPと有意に相関した。
結論
 内臓知覚と情動が関連するという仮説が支持されたことを嚆矢とし、ストレス関連疾患の克服に繋がる知見を得た。過敏性腸症候群では急な環境の変化に直面した時の脳内プロセシングが異常であること、内臓知覚と脳ヒスタミンH1受容体画像に影響する因子、摂食障害における脳反応、セロトニントランスポーター遺伝子多型とストレス病態の関連性が明らかにされた。これらの要因から心身症を克服する方法の更なる展開が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200935013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
過敏性腸症候群や摂食障害などの心身症の脳内神経伝達の病態解明に焦点を絞り込んで研究を行い、当初の目標以上の成果を達成することができた。過敏性腸症候群や摂食障害などの心身症の脳内神経伝達の研究は数が少なく、極めて高い学術的価値を持つ。
臨床的観点からの成果
 本研究の成果である脳腸相関現象が一般臨床医も共有する臨床的知識となったことから、過敏性腸症候群をはじめ、多くの心身症において、脳科学的な見方で診療を進める背景が得られた。また、本研究成果をもとに、診断治療ガイドラインにも好影響が及び、高い臨床的波及効果を得た。
ガイドライン等の開発
 本研究の成果は、心身症診断治療ガイドラインにおける過敏性腸症候群の診断・治療ガイドラインのアップデート作業において用いられ、「今日の治療指針」その他の医学書において頻回引用され、医薬品医療機器総合機構における2008年11月20日の審議においても参考にされた。
その他行政的観点からの成果
 2008年1月9日、内閣官房内閣情報調査室経済部内閣参事官藤和彦氏から本研究に関して直接の高い関心が寄せられ、国家的政策に反映させたい旨の発言と電子メールが到着した。ストレス関連疾患を重視する最近の政策の源流となる成果を生み出した。
その他のインパクト
 新聞、雑誌、テレビ放送、ラジオ放送でそれぞれ報道され、一般市民の高い関心を呼んだ。また、公開シンポジウムでも本研究の成果の成果を公表し、話題を得た。本研究により、研究代表者には2009年のアメリカ消化器病学会マスターズ賞が授与され、DDWニュース(米国学会新聞)ならびにNeurogastroenterology and Motility誌(学術誌)上で受賞の様子が報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
インパクトのある論文を公刊した。
その他論文(和文)
10件
一般臨床医向けの解説によって本研究を反映させた。
その他論文(英文等)
2件
重要概念を含む論文を公刊した。
学会発表(国内学会)
6件
一般臨床医向けの解説によって本研究を反映させた。
学会発表(国際学会等)
25件
インパクトのある研究を発表し、日本の厚生労働科学研究費による成果を世界的にアピールした。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
過敏性腸症候群重症度判定システム(版権)
その他成果(施策への反映)
2件
最近の政策の源流となる成果を生み出した。
その他成果(普及・啓発活動)
18件
新聞、雑誌、テレビ放送、ラジオ放送でそれぞれ報道され、一般市民の高い関心を呼んだ。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shinozaki M, Kanazawa M, Fukudo S, et al.
Effect of Autogenic Training on General Improvement in Patients with Irritable Bowel Syndrome: A Randomized Controlled Trial.
Appl Psychophysiol Biofeedback  (2010)
原著論文2
Kanazawa M, Hamaguchi T, Fukudo S et al.
Site-specific differences in central processing of visceral stimuli from the rectum and the descending colon in men
Neurogastroenterol Motil , 22 (2) , 173-180  (2010)
原著論文3
Suzuki H, Watanabe S, Fukudo S, et al.
Brain activation associated with changes in heart rate, heart rate variability, and plasma catecholamines during rectal distention
Psychosom Med , 71 (6) , 619-626  (2009)
原著論文4
Fukudo S, Kanazawa M, Mizuno T, et al.
Impact of serotonin transporter gene polymorphism on brain activation by colorectal distention
Neuroimage , 47 (3) , 946-951  (2009)
原著論文5
Yoshizawa M, Tashiro M, Fukudo S, et al.
Increased brain histamine H1 receptor binding in patients with anorexia nervosa
Biol Psychiatry , 65 , 329-335  (2009)
原著論文6
Shinozaki M, Fukudo S, Hongo M, et al.
High prevalence of irritable bowel syndrome in medical outpatients in Japan
J Clin Gastroenterol , 42 , 1010-1016  (2008)
原著論文7
Hamaguchi T, Fukudo S, Kanazawa M, et al.
Changes in salivary physiological stress markers induced by muscle stretching in patients with irritable bowel syndrome
Biopsychosoc Med , 2 , 20-20  (2008)
原著論文8
Fukudo S
Role of corticotropin-releasing hormone in irritable bowel syndrome and intestinal inflammation
J Gastroenterol , 42 , 48-51  (2007)
原著論文9
Tayama J, Sagami Y, Fukudo S, et al.
Effect of alpha-helical CRH on quantitative electroencephalogram in patients with irritable bowel syndrome
Neurogastroenterol Motil , 19 , 471-483  (2007)
原著論文10
Watanabe S, Hattori T, Fukudo S, et al.
Role of histaminergic neurons in hypnotic modulation of brain processing of visceral perception
Neurogastroenterol Motil , 19 , 831-838  (2007)
原著論文11
Kano M, Hamaguchi T, Fukudo S, et al.
Correlation between alexithymia and hypersensitivity to visceral stimulation in human
Pain , 132 , 252-263  (2007)
原著論文12
Kanazawa M, Drossman DA, Fukudo S, et al.
Translation and validation of a Japanese version of the irritable bowel syndrome-quality of life measure (IBS-QOL-J)
BioPsychoSoc Med , 1 , 6-6  (2007)
原著論文13
Tana C, Umesaki Y, Fukudo S, et al.
Altered profiles of intestinal microbiota and organic acids may be the origin of symptoms in irritable bowel syndrome
Neurogastroenterol Motil , 22 (5) , 512-519  (2009)
原著論文14
Saito-Nakaya K, Hasegawa R, Fukudo S, et al.
Corticotropin-releasing hormone receptor 1 antagonist blocks colonic hypersensitivity induced by a combination of inflammation and repetitive colorectal distension
Neurogastroenterol Motil , 20 , 1147-1156  (2008)
原著論文15
Kakizaki M, Kuriyama S, Sato Y, et al.
Personality and body mass index: a cross-sectional analysis from the Miyagi Cohort Study
J Psychosom Res , 64 , 71-80  (2008)
原著論文16
Tashiro M, Kato M, Miyake M, et al.
Dose dependency of brain histamine H(1) receptor occupancy following oral administration of cetirizine hydrochloride measured using PET with [11C]doxepin
Hum Psychopharmacol , 24 , 540-548  (2009)
原著論文17
Kanazawa M, Palsson OS, Thiwan SIM, et al.
Contributions of pain sensitivity and colonic motility to IBS symptom severity and predominant bowel habits
Am J Gastroenterol , 103 , 2550-2561  (2008)
原著論文18
Fukudo S, Terui T, Watanabe S, et al.
Changes in brain function by hypnotic suggestion in patients with irritable bowel syndrome and healthy subjects
Psychosom Med , 70 , 100-100  (2008)
原著論文19
Watanabe S, Hattori T, Fukudo S, et al.
Gamma oscillation reflect the dysfunctional visceral sensory processing and modulation in irritable bowel syndrome
Gastroenterology , 134 , 557-558  (2008)
原著論文20
Tana C, Umesaki Y, Fukudo S, et al.
The Effects of Bifidobacterium breve On Gastrointestinal Symptoms, Cytokines, Fecal Microbiota and Organic Acids in Irritable Bowel Syndrome
Gastroenterology , 136 , 420-420  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23