強度行動障害のある人の豊かな地域生活を実現する「地域共生モデル」の理論の構築と重層的な支援手法の開発のための研究

文献情報

文献番号
202317029A
報告書区分
総括
研究課題名
強度行動障害のある人の豊かな地域生活を実現する「地域共生モデル」の理論の構築と重層的な支援手法の開発のための研究
課題番号
23GC1007
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
野澤 和弘(植草学園大学 発達教育学部発達支援教育学科)
研究分担者(所属機関)
  • 内山 登紀夫(福島学院大学)
  • 八木 淳子(岩手医科大学医学部 神経精神科学講座)
  • 田中 義之(東京大学 大学院工学系研究科附属キャンパス・マネジメント研究センター)
  • 鈴木 さとみ(福島学院大学 福島こどもと親のメンタルヘルス情報・支援センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,560,000円
研究者交替、所属機関変更
分担者の脱退:福田真清(20957790) 所属機関の退職に伴い、分担者から脱退することとなった。分担していた研究項目については他の分担者(鈴木さとみ)が引き継ぐため、研究計画に支障はない。

研究報告書(概要版)

研究目的
強度行動障害に対して,就労やアートなどの創造的活動・地域社会に関わる活動を通して豊かな地域生活の実現を図るための理論の構築を目指す。併せて家族や支援者側の意識の変容によって行動障害の予防や悪化の回避を図る「シナジー・プログラム」の日本版作成,トラウマと行動障害の関連を明らかにし,トラウマインフォームドアプローチによる強度行動障害支援の指針を策定する。さらには日中活動や街の環境とストレスを研究し,建築や環境から行動障害の予防や軽減を図る。これらの四つの研究の連携によって重層的な支援手法の開発を行い,当事者の豊かな地域生活の実現を目指す。
研究方法
本研究は障害者福祉,児童精神医学,建築をベースに四つの研究項目で構成される。強度行動障害に対して重層的な支援手法の開発を行い,当事者の豊かな地域生活の実現を目指す。
結果と考察
「地域共生モデル」は強度行動障害の人を支援する計19法人と個別に打ち合わせを行い、強度行動障害のある計31人をリストアップ。地域共生の活動を通して改善効果のある構成要素の分析を行った。
 調査項目は、成育歴・家族関係/問題行動(行動障害)の内容/問題行動がどんな時に起こるのか、どんな時に落ち着いて楽しんでいるか/支援者が考える行動障害の原因/どんな支援があれば豊かな生活を送れるか、地域生活が豊かになるか/法人での職員養成の方法/支援チームの作り方や取組方法についても聞いた。
 調査からは、強度行動障害の判定項目である「不安定な行動」「不適切な行為」「突発的な行動」等の類型に包含するのが難しいほど多様な行動障害の実態が明らかになった。現在行われている支援の多くが施設内での行動障害像に基づいたものであり、地域で暮らしている行動障害の人への支援の在り方、支援者に求められるスキルは本質的に異なる可能性がある。実際、音などの刺激に過敏と言われていた人が、自分の役割を得て地域の人々と交流したり、就労やアートなど創造性のある活動を体験することで行動障害の改善に繋がっている事例が複数示された。ただ、支援者が受けるストレスは大きく、各法人は支援者養成やバックアップ体制の確立に苦労しながら様々な工夫が行われていた。
 「シナジー・プログラム」は支援者に内在するバイアスの自覚を促し,より深い理解に基づいた行動障害の予防を図るものである。本年は同プログラムの開発者であるリチャード・ミルズ博士の研修内容を短縮したオンライン講義を依頼し、研究班で講義資料の翻訳と字幕つけを行った。行動障害の予防や改善だけでなく、支援者にとっても自分自身の気づかぬバイアスが利用者の行動障害を引き起こし・エスカレートさせる要因になっているのを自覚することは、支援者自身のストレスや負担感の軽減につながる可能性がある。
 「トラウマ研究」は行動障害のある人の家族約10組にインタビューし、本人や家族のトラウマ体験・症状の特徴、二次的な心理社会的問題に関する質的調査を行った。
 強度行動障害を当事者の発達特性や性質に起因する問題として捉えるのみならず,周囲との関係性や環境との相互反応による結果としての症状と理解することの重要性はこれまでも取り上げられてきているが,トラウマ反応としての行動障害の側面を詳細にアセスメントし,トラウマを理解したうえでのケアの視点が加わることは,当事者/家族,支援者双方にとって,新たな方法論での介入や支援を工夫する可能性をもたらすものと期待される。
 「日中活動・街の環境研究」は強度行動障害の支援における先進的な社会福祉法人8法人、39施設の見学及びインタビューと補足アンケートの調査を実施した。平面図から建築的な工夫についての分析も行った。「地域共生モデル」の調査対象と重なっているが,いずれも地域との関係,建築のハード面,インテリア面でさまざまな工夫がなされていることがわかった。強度行動障害について地域の活動や創作的活動による支援で改善につなげ,豊かな地域生活を実現するためには,建築や環境による影響が大きいことを示唆している。
結論
強度行動障害の人が地域社会と関わることで充足感や生活の質向上をもたらし、結果的に行動障害の改善に繋がる可能性がある。施設では<支援者-障害者>の構図で支援は完結するが,地域では<支援者-地域住民-障害者>の3者が互いに影響し合って行動障害の悪化や改善がもたらされている。地域住民の障害に対する意識をポジティブなものに変えられれば,障害者本人の解放感や自己有用感を高めることに繋がり,支援者や家族の意識もポジティブになるという相乗効果を生む。
 強度行動障害の特性をよく理解した上でリスクに配慮し危機対応ができる支援者を養成することが必要だ。「シナジー・プログラム」や「トラウマインフォームドケア」が支援者の意識変容、より適切な支援方法の開発に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-06-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202317029Z