思春期精神病理の疫学と精神疾患の早期介入方策に関する研究

文献情報

文献番号
200935011A
報告書区分
総括
研究課題名
思春期精神病理の疫学と精神疾患の早期介入方策に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岡崎 祐士(東京都立松沢病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西田淳志((財)東京都医学研究機構)
  • 原田雅典(三重県立こころの医療センター)
  • 谷井久志(三重大学大学院医学系研究科)
  • 藤田 泉(医療法人居仁会(四日市市笹川通りクリニック))
  • 小澤寛樹(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 今村 明(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 長岡 和(医療法人カメリア)
  • 宮田雄吾(大村共立病院)
  • 下寺信次(高知大学医学部)
  • 針間博彦(東京都立松沢病院)
  • 糸川昌成((財)東京都医学研究機構)
  • 水野雅文(東邦大医学部)
  • 松井三枝(富山大学医学薬学研究部(医学))
  • 松本和紀(東北大医学部)
  • 生野照子(浪速生野病院)
  • 林 直樹(東京都立松沢病院)
  • 大久保善朗(日本医科大学)
  • 笠井清登(東京大学大学院医学系研究科)
  • 伊澤良介(東京都立墨東病院)
  • 伊藤弘人(国立精神神経センター精神保健研究所)
  • 野中 猛(日本福祉大学)
  • 横山和仁(順天堂大学医学部)
  • 伊勢田堯(東京都立松沢病院)
  • 市川宏伸(東京都立梅が丘病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
24,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、①思春期精神病理の疫学研究、②精神病理体験をもつ思春期児童の発見と早期支援策やシステムの開発、③早期支援や入院医療から地域医療への転換を実現する精神保健と精神医療システムの改編とコストの節減策、④併せて、早期支援思春期対象者の縦断的病態研究を企図するものである。
研究方法
本年度は以下の方法で研究を行った。
①思春期精神病理の疫学調査:第2年度までに行った中・高校生3万人調査の解析。
②学校と地域における早期支援システムの開発:津市学校ベースモデルの普及と新モデル開発。
③普及・啓発の方法と資材の開発
④早期支援技術開発・研修・資材開発
⑤早期支援を軸とする精神保健・精神科医療再編政策研究
⑥早期支援対象者で同意を得た精神病初回エピソード患者の縦断病態研究等
結果と考察
①30000人疫学調査の解析により、精神病様症状体験(PLEs)若者のうち、支援の必要性の高い一群を 抽出し特徴を解明。家族支援の重要性に鑑み、家族会と協力し、家族ニース質問紙調査を行い約 1500人の協力を得た。
②民間病院主導の四日市モデル開発、松沢病院早期支援システムも開始した。
③リーフ、パンフレットから本の出版(絵本含む)、ラジオ、テレビ番組までメディアが拡大
④研修会2回(ケースメネージャー研修、英国講師による早期支援のためのCBT,家族支援研修)
⑤英国視察情報を参考にし、わが国における政策化の中で、英国のNWW(New ways of working)な ど人材養成に焦点を当てた検討を行った。
⑥東大病院のこころのリスク外来による統合失調症早期病態縦断研究開始し、松沢病院症例から、カ ルボニルストレス系異常型統合失調症の亜群(全体の10%強)を発見した(糸川ら)。ビタミン摂取で予 防の可能性が期待される。
結論
3万人疫学調査の解析によってによる思春期病理の詳細を明らかにしつつあり、それに対応する学校ベースの早期支援のモデルシステムが2箇所以上で開発した。早期支援の啓発資材もリーフレットからラジオ・テレビ番組へと拡大、精神保健・医療政策課題へと発展、研究班が中心となった「こころの健康政策構想会議」を組織し、厚生労働大臣への提言を行った。縦断的病態研究も礎が出来、始まった。
全体として、所期の目的をほぼすべて達成し、大きな成果を上げた。

公開日・更新日

公開日
2010-08-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200935011B
報告書区分
総合
研究課題名
思春期精神病理の疫学と精神疾患の早期介入方策に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岡崎 祐士(東京都立松沢病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西田淳志((財)東京都医学研究機構)
  • 谷井久志(三重大学大学院医学系研究科)
  • 原田雅典(三重県立こころの医療センター)
  • 小澤寛樹(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 今村 明(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 長岡 和(医療法人カメリア)
  • 宮田雄吾(大村共立病院)
  • 下寺信次(高知大学医学部)
  • 針間博彦(東京都立松沢病院)
  • 糸川昌成((財)東京都医学研究機構)
  • 水野雅文(東邦大学医学部)
  • 松井三枝(富山大学医学部)
  • 松本和紀(東北大学医学部附属病院精神科)
  • 生野照子(浪速生野病院)
  • 林 直樹(東京都立松沢病院)
  • 大久保善朗(日本医科大学)
  • 笠井清登(東京大学大学院医学系研究科)
  • 伊澤良介(東京都立墨東病院)
  • 伊藤弘人(国立精神神経センター精神保健研究所)
  • 野中 猛(日本福祉大学)
  • 横山和仁(順天堂大学医学部)
  • 伊勢田堯(東京都立松沢病院)
  • 市川宏伸(東京都立梅ヶ丘病院)
  • 野津 眞 (東京都中部総合精神保健福祉センター)
  • 西園マーハ文((財)東京都医学研究機構)
  • 倉知正佳(富山大学)
  • 原田誠一(原田メンタルクリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、以下の5点を研究目標として出発した。
1.精神疾患の発症に先立つ思春期精神病理体験の疫学調査
2.精神病理体験を有する思春期児童の早期発見と早期介入方策
3.諸外国の早期介入方策の調査とわが国への導入の検討
4.早期介入の導入による精神保健医療システムの再編政策
5.早期支援児童の縦断的病態研究
6.その他の個別病態の疫学、早期病態の調査、介入
研究方法
1. 思春期児童疫学調査は、倫理委員会で承認の後、教育委員会、学校、父母に説明同意を得
た学校について、児童の任意協力で実施。全体は無記名質問紙調査。津市の1校では、面接調査と追跡調査を実施した。
2.分担研究者が所属する施設や地域の特徴や資源を考慮した多様な早期介入方策の実現を目指した。
3.初年度オーストラリア、2、3年度英国の早期介入の視察を行った。
4.早期介入の臨床と共に早期病態の解明と治療法の開発を試みた。

結果と考察
1.津市、長崎市、高知県及び愛知県、東京都の中高校生を中心に約3万人の思春期精神病理調査を達成した。14%前後の思春期児童が精神病症状様体験を報告、ニュージーランドの11歳時調査とほぼ同じであった。2%強の緊急な支援が必要な子どもの存在が明らかになった。
  発達障害と思春期精神病症状様体験は無関係であった。また、統合失調症早期に重度の自殺関連行動が認められ、早期介入が自殺予防上必須であることが分かった。
2.学校ベースの早期介入(保健室支援、学校全体の精神保健教育、早期治療チームの医療的支援等)が有効と思われた。その他、地域ベース、クリニックベースの早期介入等多様な介入がわが国には必要と思われた。
3.多様な早期介入啓発手段と教材を開発した。啓発本、ラジオやテレビ番組も企画した。
4.外国調査結果や家族ニーズ調査結果等を総合すると、早急にアウトリーチを含む早期介入の導入、及び精神科保健医療システムへの改編が必要である。
5.統合失調症の縦断的早期病態研究の体制を確立することができた。
結論
思春期児童3万人調査や学校ベースの早期介入システムの開発など、本研究の所期の目的はほぼ達成された。
これらの取り組みは、新聞、ラジオ、テレビ等でも何回も取り上げられ、一定の話題となった。また、学術誌への論文化は現在7編であるが、準備中を含め、なお多数の発表予定がある。

公開日・更新日

公開日
2010-08-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
200935011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
中・高校生3万人調査によりわが国の思春期児童の約15%が生涯、約8%が6ヶ月間に精神病症状様体験が陽性であることが分かった。体験児は、非体験時よりも精神的不調、自傷行為や希死念慮等のリスクが高いことが分かった(国際誌3編発表)。
統合失調症初回エピソードでは脳内グルタミン酸濃度が高いが、慢性期へかけて低くなる可能性が見出され、また、統合失調症に原因疾患がないのに終末糖化産物(AGEs)が蓄積するカルボニルストレス系異常を示し、ビタミンB6低下を示す全体の10%強に存在することを見出した。
臨床的観点からの成果
過去6ヶ月間に精神病症状様体験がある5.1%の児童の内、精神的苦痛を伴い精神的不調を感じながらも相談していない約2%の児童は自傷行為体験、希死念慮のリスクが高く、支援の必要性が高いことが判明したその38%が過去1ヶ月間に保健室に、28%が身体的愁訴で医療機関を受診していた。保健室、医療機関を含む学校―地域精神保健早期発見・支援システムの必要性が判明した。それに応えるため三重県で、アウトリーチを含む学校と地域ベースの早期支援システムを開発した。
ガイドライン等の開発
2009年度:学校精神保健教育教材の開発:三重県津市中学校他、全国の10数校で、精神保健教育に使用された(合計200部以上)。早期介入技術研究教材の開発、精神疾患クイックガイド(長崎県の中学生全員に配布)、教育現場における摂食障害の早期発見・早期支援のパンフレット(大阪府養護教諭へ配布)など。
その他行政的観点からの成果
中・高校生の約15%が精神病症状様体験をしており、種々の心理的・社会的・医学的リスクが高いことは強い関心を呼び、新聞等で報道された。世田谷区議会では代表質問で調査や対策の必要性が審議され、精神保健対策の強化が検討中。研究班が中心となった「こころの健康政策構想会議」の思春期精神病理への早期介入対策を含む精神保健・医療改革の提言が厚生労働大臣に提出され、厚生労働省内検討チームにおいて検討されるなど、班研究の成果が、行政施策にも大きく反映されつつある。
その他のインパクト
マスコミ報道は、統合失調症早期支援(2009年11月、NHK教育、西田淳志)。英国精神保健改革・アウトリーチ、自殺予防の成果等を報道(NHKクローズアップ現代、2009年12月、岡崎祐士)。精神障害者家族会との共同早期支援家族のニーズ調査報告会(2010年3月4日、TBS21時ニュース)。中高校生向け精神保健絵本出版(長崎新聞、宮田雄吾)、「こころの病気クイックガイド」県内中・高校生に配布(西日本新聞、長岡和)など。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
14件
思春期児童における精神病症状(PLE)の有病率、PLE陽性者は希死念慮、自傷・暴力等が高いこと、DUP調査結果、統合失調症のカルボニルストレス系異常亜群の発見等を報告。
その他論文(和文)
58件
思春期精神病理の疫学知見、学校ベースの早期介入、わが国への早期介入の問題点等を報告。
その他論文(英文等)
1件
同上
学会発表(国内学会)
49件
思春期精神病理の疫学知見、学校ベースの早期介入、わが国への早期介入の問題点等を報告。
学会発表(国際学会等)
9件
思春期児童における精神病症状(PLE)の有病率、PLE陽性者は希死念慮、自傷・暴力等が高いこと、DUP調査結果、統合失調症のカルボニルストレス系異常亜群の発見等を報告。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
自治体で1件。班研究の成果が反映した「こころの健康政策構想会議」の提言は、厚労省内検討チームで、議題に取り上げ検討された。
その他成果(普及・啓発活動)
18件
リーフ、パンフ、ハンドブック、本、絵本等の発行、各種のマスコミ(ニュースレター、新聞、ラジオ、テレビ)での報道。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishida A, Sasaki T, Nishimura Y et al.
Psychotic-like experiences are associated with suicidal feeling and deliberate self-harm behaviors in adolescents age 12-15 years
Acta Psychiatrica Scandinavica  (2010)
原著論文2
Oshima N, Nishida A, Fukushima M et al.
Psychotic-like experiences (PLEs) and mental health status in twin and singlestone Japanese high school students
Early Intervention in Psychiatry,  (2010)
原著論文3
Imamura A, Nishida A, Nakazawa N et al.
Effects of cellular phone e-mail use on the mental health of junior high school students in Japan
Psychiatry and Clinical Neuroscience (letter) , 63 , 703-703  (2009)
原著論文4
Miyakoshi T, Matsumoto K, Ito F et al.
Application of the Comprehensive Assessment of At-Risk Mental States (CAARMS) to the Japanese population: reliability and validity of the Japanese version of the CAAR
Early Intervention in Psychiatry , 3 , 123-130  (2009)
原著論文5
Mizuno M, Suzuki M, Matsumoto K et al.
Clinical practice and research activities for early psychiatric intervention at Japanese leading centres
Early Intervention in Psychiatry , 3 , 5-9  (2009)
原著論文6
Arai M, Yuzawa H, Nohara I et al.
Enhanced Carbonyl Stress in a Subpopulation of Schizophrenia.
Arch Gene Psychiatry  (2010)
原著論文7
Takei et al.
Disrupted integrity of the fornix is associated with impaired memory organization in schizophrenia
Schizophr Res , 103 , 52-61  (2008)
原著論文8
Takei et al.
Structural disruption of the dorsal cingulum bundle is associated with impaired Stroop performance in patients with schizophrenia
Schizophr Res , 114 , 119-127  (2009)
原著論文9
Takizawa et al.
Association between sigma-1 receptor gene polymorphism and prefrontal hemodynamic response induced by cognitive activation in schizophren
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 33 (3) , 491-498  (2009)
原著論文10
Takizawa et al
Association between Catechol-O-Methyltrasferase Val108/158Met Genotype and Prefrontal Hemodynamic Response in Schizophrenia
PLoS ONE , 4 (5) , 5495-  (2009)
原著論文11
林 直樹,五十嵐 雅,今井淳司 他
自殺関連行動を呈する精神科入院患者の診断と臨床特徴:都立松沢病院入院例の検討
精神神経誌: , 111 (5) , 502-526  (2009)
原著論文12
林 直樹,五十嵐 雅,今井淳司他
若年期から自殺関連行動を呈している精神科入院患者の臨床的特性:松沢自殺関連行動研究から
精神医学  (2010)
原著論文13
Ken Inouye, Hisasi Tanii, Yukika Nishimura et al.
Current state of refusal to attend school in Japan (letter)
Psychiatry and Clinical Neuro- sciences , 62 , 622-  (2008)
原著論文14
R Yamazawa, M. Mizuno(6番目)et al
Association between duration of untreated psychosis, premorbid functioning, and cognitive performance and the outcome of first-episode schizophrenia in Japanese patients : prospective study
Australian and New Zealand Journal of Psychiatry , 42 , 159-165  (2008)
原著論文15
HKobayashi, M.Mizuno(8番目)et al.
A self-reported instrument for prodromal symptoms of psychosis: Testing the clinical validity of the PRIME Screen-Revised (PS-R) in a Japanese population.
Schizophr Res , 106 , 356-362  (2008)
原著論文16
Nishida A, Tanii H, Nishimura Y et al.
Associations between psychotic-like experiences and mental health status and other psychopathology among Japanese early teens
Schizophr Res , 99 (1) , 125-133  (2008)
原著論文17
白井有美、崎川典子、岡田直大 他
豪州MindMattersにみられる精神保健増進における学校の役割
東京精神医学会誌 , 27 (1)  (1010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-