精神科救急医療、特に身体疾患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究

文献情報

文献番号
200935009A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科救急医療、特に身体疾患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 尚(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 平田 豊明(静岡県立病院機構 静岡県立こころの医療センター)
  • 八田 耕太郎(順天堂大学医学部)
  • 小林 孝文(島根県立中央病院)
  • 上條 吉人(北里大学医学部)
  • 粟田 主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 岸 泰宏(日本医科大学武蔵小杉病院)
  • 内村 直尚(久留米大学医学部)
  • 大竹 眞裕美(福島県立医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
22,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般救急医療体制と比較して整備の遅れている精神科救急医療体制、対応不十分である身体合併症医療、および増加する認知症疾患について、それら3点を統合する視点での短期的施策および中・長期的に構築すべきシステムの提言が全体の目的である。
研究方法
特定地域の全数調査や構築モデルの介入研究による検証といった科学性的手法の下、8つの研究組織を編成して研究を実施した。
結果と考察
精神科救急のシステム論では、①精神科救急事業の地域差がミクロ救急の機能などを反映していること ②応急入院の適応基準にも地域差が見られ、制度運用上の基準の要因があることが明らかになった。また、精神科救急入院料病棟群の主な指標の年次推移を示した。また、ランダム化多施設共同試験を実施し、抗精神病薬の治療反応の早期予測と置換の可否について明らかにした。
さらに、精神科救急、身体合併症、認知症のいずれの面からも総合病院型精神病床の機能分化が必要であることについて、一般病院連携精神医学専門医に対するエキスパート・コンセンサス調査で強い支持が得られた。また、総合病院勤務の精神科医および閉鎖病棟で身体合併症看護を行う看護師の時間外勤務は有意に長いことが明らかになった。認知症疾患医療センターを核とする統合的救急医療モデル構築には、①認知症疾患医療センターに専従の医療相談室設置 ②地域包括ケアシステムの構築を推進するための事業の自治体レベルでの稼働 ③身体合併症・周辺症状に対する急性期入院医療を行っている認知症疾患医療センター病棟の看護配置適正化のための精神病床入院基本料改訂 ④認知症疾患医療センターの業務を担うことができる医師の育成 の必要性が明らかになった。
結論
精神科救急のシステム論については、非自発入院制度の将来像、および全国共通データベースの構築による医療の質の担保システムを提言した。ランダム化臨床試験の成果は、精神科救急医療ガイドライン出版につながった。身体合併症医療の面では、総合病院型精神病床の機能分化の必要性、診療報酬上および人員配置上の配慮の必要性が裏付けられた。認知症のための統合的救急医療については、本研究成果に基づく国からの指針提示が望ましい。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

文献情報

文献番号
200935009B
報告書区分
総合
研究課題名
精神科救急医療、特に身体疾患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 尚(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 平田 豊明(静岡県立病院機構 静岡県立こころの医療センター)
  • 八田 耕太郎(順天堂大学医学部)
  • 小林 孝文(島根県立中央病院)
  • 上條 吉人(北里大学医学部)
  • 粟田 主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 岸 泰宏(日本医科大学武蔵小杉病院)
  • 内村 直尚(久留米大学医学部)
  • 大竹 眞裕美(福島県立医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
整備の遅れている精神科救急医療体制、身体合併症医療、認知症疾患対策について、統合的視点から、都道府県の今後の精神科救急医療システム構築、身体合併症医療の診療報酬上評価すべき診療行為または補助金事業として考えられる機能、認知症対策の中での精神科医療の役割の提言を行う。

研究方法
8つの分担研究班を編成して成果を統合した。疫学デザインによる検証、構築モデルの介入研究、ランダム化臨床試験の実施に基づくガイドライン作成といった科学性が従来にない特色である。

結果と考察
精神科救急医療体制を検証するため全国の精神科救急入院料病棟の運用実態を調査した結果、平均48日で66%が自宅退院していた。都道府県・政令市の精神科救急医療事業運用実績は、地域間格差と共に実態把握の不十分さが判明したため集計システムを構築した。さらに、精神科救急入院料病棟標準化のため臨床データ集約・フィードバックシステムを構築した。実証的な精神科救急医療の構築に関しては、精神科救急多施設共同試験にてエビデンスを蓄積した。身体合併症に関しては、東京都の全数調査(前向きコホート)にて、精神疾患・身体疾患ともに入院水準の患者の発生は年間人口10万対25、在院日数メジアン28、日本の年間発生件数約3万、必要病床数2,310と推計し、地方(島根県)でも裏付けた。さらに、総合病院型精神病床の機能実態の明確化と機能分化促進へのエビデンスを示した。認知症疾患に対する統合的救急医療モデルに関する研究では、総合病院型認知症疾患センターに求められる機能を明確化し、医療・介護資源の機能・分布の調査にて連携促進のための認知症対策推進事業を提言した。社会一般の受療行動上のニーズ調査からも精神医療の機能分化の必要性が明確化され、身体合併症医療の勤務実態調査からも、機能分化の必要性、診療報酬上および人員配置上の配慮の必要性が裏付けられた。
結論
提言した精神科救急医療事業の運用実績の集計システム様式は平成20年度から国・自治体の制度に組み込まれ、推計した精神疾患・身体疾患ともに入院水準の患者の人口比発生率(罹患率)は平成20年度新設の精神科救急・合併症入院料の根拠となり、提言した認知症疾患医療センターは平成20年度に事業化されるなど、行政施策に貢献できた。精神科救急多施設共同試験の成果は平成21年度に精神科救急医療ガイドラインとして出版し、この領域の統合的発展に寄与している。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200935009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
疫学デザインにより推計した精神疾患・身体疾患ともに入院水準の患者の人口比発生率は、国際的にも初めての成果であり、3報がPsychiatric Servicesなどの国際誌に掲載された。この疫学的手法に基づく調査は、定期的に特定地域で実施して行政施策の成果検証を可能にする。救急・急性期の精神病性障害に関するランダム化臨床試験の成果は、4報がSchizophrenia Researchなどの国際誌に掲載され、精神科救急の多施設共同試験ネットワーク (JAST study group)を構築できた。
臨床的観点からの成果
統合失調症の急性期薬物療法における未解決の課題 ①薬剤選択、②適量の選択、③薬剤反応の評価、④開始した抗精神病薬を効果不十分と見切るまでの期間、⑤著しい興奮に対する最適な薬剤、⑥多剤併用は有効か?のうち、本研究におけるランダム化臨床試験は①③④⑤に関するエビデンスを生み出し、それを基に作成した精神科救急医療ガイドラインは現場の臨床の指針となっている。
ガイドライン等の開発
精神科救急医療ガイドライン2009年版(2)薬物療法(八田,2009)
精神科医療に関する研究会:身体合併症(平成21年3月17日)
その他行政的観点からの成果
提言した精神科救急医療事業の運用実績の集計システム様式が、平成20年度から、自治体から国に報告する様式として採用された(平田)。
推計した精神疾患・身体疾患ともに入院水準の患者の人口比発生率(罹患率)は平成20年度新設の精神科救急・合併症入院料の根拠となった(八田)。
提言した認知症疾患医療センターは平成20年度に事業化された(粟田)。
その他のインパクト
認知症疾患医療センター提言の根拠となった本研究の解析結果(粟田)は、朝日新聞の平成20年7月6日朝刊第1面、および毎日新聞の平成21年12月20日朝刊第3面に掲載された。
第20回日本総合病院精神医学会総会で発表した「身体合併症医療の実態と展望1:東京都における前向き全数調査から」(八田)はベストポスター賞を受賞した。
東京都の前向き全数調査に基づく身体合併症の実態と提言(八田)は、毎日新聞平成23年1月18日朝刊・社会面にて報じられた。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hatta K, Kurosawa H, Arai H
Hospitalization for medical comorbidities among psychiatric patients in Tokyo
Psychiatric Services , 58 (11) , 1502-1502  (2007)
原著論文2
Hatta K, Kawabata T, Yoshida K, et al
Olanzapine orally   disintegrating tablet  versus risperidone oral solution in the    treatment of acutely  agitated psychotic   patients
General Hospital  Psychiatry , 30 (4) , 367-371  (2008)
原著論文3
Hatta K, Nakamura H, Usui C, et al
Medical and  psychiatric comorbidity at psychiatric beds in general hospitals: a  cross-sectional study in Tokyo
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 63 , 329-335  (2009)
原著論文4
Hatta K, Sato K, Hamakawa H, et al
Effectiveness of second-generation antipsychotics with acute-phase schizophrenia
Schizophrenia Research , 113 , 49-55  (2009)
原著論文5
Hatta K, Nakamura M, Yoshida K, et al
The prevalence of intravenous thiopental use in psychiatric emergency settings in Japan
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 63 , 658-662  (2009)
原著論文6
Hatta K, Usui C, Nakamura H, et al
Open wards versus locked wards of general hospitals in the treatment of psychiatric patients with medical comorbidities: a cross-sectional study in Tokyo
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 64 , 52-54  (2010)
原著論文7
Hatta K, Nakamura M, Yoshida K, et al
A prospective naturalistic multicenter study of intravenous medications in behavioral emergencies: haloperidol versus flunitrazepam
Psychiatry Research , 178 , 182-185  (2010)
原著論文8
Hatta K, Nakamura H, Usui C, et al
Utility and sufficiency of psychiatric inpatient units in general hospitals: a cross-sectional study in Tokyo.
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 64 , 642-644  (2010)
原著論文9
Kishi Y, Kurosawa H, Morimura H, et al
Attitudes of Japanese nursing personnel toward patients who have attempted suicide.
General Hospital  Psychiatry  (2011)
原著論文10
Hatta K, Otachi T, Sudo Y, et al
Difference in early prediction of antipsychotic non-response between risperidone and olanzapine in the treatment of acute-phase schizophrenia.
Schizophrenia Research  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-