入院中の強度行動障害者への支援・介入の専門プログラムの整備と地域移行に資する研究

文献情報

文献番号
202317021A
報告書区分
総括
研究課題名
入院中の強度行動障害者への支援・介入の専門プログラムの整備と地域移行に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22GC1019
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
會田 千重(国立病院機構 肥前精神医療センター 統括診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部))
  • 市川 宏伸(日本発達障害ネットワーク 調査研究委員会)
  • 井上 雅彦(鳥取大学 大学院医学系研究科)
  • 日詰 正文(独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
  • 成田 秀幸(国立知的障害者総合施設のぞみの園 診療部)
  • 根本 昌彦(独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
  • 高橋 和俊(社会福祉法人侑愛会)
  • 山下 健(独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター 医局)
  • 吉川 徹(愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 障害システム研究部門)
  • 児玉 匡史(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 医療部)
  • 田中 恭子(国立病院機構菊池病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)多職種向けの「強度行動障害チーム医療研修」プログラム作成と医療者育成、2)精神科病棟における「強度行動障害者への入院治療プログラム」の整備と、3)「強度行動障害者への入院治療プログラム」を用いた介入研究(非盲検無対照試験)、4)「入院中の強度行動障害者の地域移行に向けた地域移行パス」の作成と地域モデルの検討、5)「長期在院知的・発達障害患者アンケート」による専門医療普及に向けての実態調査を目的とし、加えて6)分担研究者による関連課題についての研究を行った。
研究方法
1)多職種向けの「強度行動障害チーム医療研修」による医療者育成について、各介入施設で視聴する研修動画は、Challenging Behaviorや自閉スペクトラム症に対し治療の第一選択とされる「特性に応じた心理社会的介入」を実施できるよう、国立病院機構で2015年度から実施している「強度行動障害チーム医療研修」を参考に、医師・看護師・心理士等多職種による10講義を作成した。
2)精神科病棟における「強度行動障害者への入院治療プログラム」の整備
3)強度行動障害者の入院治療による介入と効果判定(非盲検無対照試験)
 治療プログラムは、国立病院機構の多施設先行研究にて効果検証した12週間の治療介入プログラムを基盤に、一般精神科病棟も含め般化しやすいよう留意し作成した。かつR4年度の介入やSV連絡会議での意見を踏まえて補助的な記録シートの内容などを再検討した。
4)「入院中の強度行動障害者の地域移行に向けた地域移行パス」の作成と地域モデルの検討(分担研究者:山下健ら)
 集積事例を通じて、処遇困難となる可能性がある強度行動障害児者の地域移行を円滑にするための適切な地域移行パスを作成した。また強度行動障害児者を支援する地域関係機関らに仮想ケア会議、質問紙法を用いて、適切な地域移行モデルを検討した。
5)「長期在院知的・発達障害患者アンケート」
下記の対象・方法でアンケート調査を行った。
《対象》
 全国児童精神科医療施設協議会35施設、日本公的病院精神科協会95施設、公精協のうち国立病院機構で強度行動障害治療病棟のある精神科病院9施設、日本精神科病院協会1181施設。

結果と考察
1)多職種向けの「強度行動障害チーム医療研修」について、治療スタッフアンケートでは理解度・必要性とも高かった。
2)3)精神科病棟における「強度行動障害者への入院治療プログラムⅠ」(基礎編:3週間)は、障害特性に応じたコミュニケーション支援や環境調整、クライシスプラン作成、TEACCH®自閉症プログラムに基づく構造化、などを含み、精神科病棟における「強度行動障害者への入院治療プログラムⅡ」(応用編:12週間)は、それに加え応用行動分析(機能的行動アセスメント)導入、ストラテジーシート作成、などとした。治療プログラムⅠの29例の統計解析でABC-J興奮性サブスケール、ABC-J多動サブスケール、ABC-J無気力サブスケール(他者への反応や活動参加の乏しさを示す)は介入前後で有意に低下しており、BPI-S自傷行動(頻度)、BPI-S自傷行動(重症度)、強度行動障害判定基準(合計)、BPI-S 攻撃的/破壊行動(頻度)、BPI-S 攻撃的/破壊行動(重症度)、行動関連項目(合計)も介入前後で有意に低下しており、治療プログラムの効果・有効性が示された。
4)「入院中の強度行動障害者の地域移行に向けた地域移行パス」の作成と地域モデルの検討により、強度行動障害パス(入院クリニカルパス)として3ヶ月の「急性期」「開放観察期」「地域移行期」を想定し、「退院後支援体制計画書」や「クライシスプラン」作成、月1回の「地域ケア会議」で介入方法を地域と作り上げていく手法が提唱された。
5)「長期在院知的・発達障害患者についてのアンケート調査」では、全体・在院機関がより長い患者・身体拘束がほとんどまたは全く必要ない患者・医療上入院管理が必要でない患者での退院促進が進んでいることが示唆され、TEACCH®自閉症プログラムまたは行動療法(応用行動分析)の導入について、割合が極端に低かった日精協群での増加も認められた。一方で2015年と今回の日精協データと比べると、精神科・身体科入院の受け入れ先について「現状の受け入れ体制で不十分」とする率が、いずれも大幅に増加していた。

結論
今後地域の強度行動障害者に対して精神科医療機関が有効な支援を行うために、①行動療法や構造化といった専門的支援・治療技法修得の普及とリーダーとなる多職種チーム人材育成のための上級者向け研修会開催、②感覚過敏等の患者特性に配慮した安全な治療環境の整備、③効果的な支援を継続するための地域の福祉・教育機関との連携強化、④強度行動障害者に適時に対応するために必要な診療報酬上の配慮などが必要である。

公開日・更新日

公開日
2024-07-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-07-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202317021B
報告書区分
総合
研究課題名
入院中の強度行動障害者への支援・介入の専門プログラムの整備と地域移行に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22GC1019
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
會田 千重(国立病院機構 肥前精神医療センター 統括診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部))
  • 市川 宏伸(日本発達障害ネットワーク 調査研究委員会)
  • 井上 雅彦(鳥取大学 大学院医学系研究科)
  • 日詰 正文(独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
  • 成田 秀幸(国立知的障害者総合施設のぞみの園 診療部)
  • 根本 昌彦(独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 総務企画局研究部)
  • 高橋 和俊(社会福祉法人侑愛会)
  • 山下 健(独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター 医局)
  • 吉川 徹(愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 障害システム研究部門)
  • 児玉 匡史(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 医療部)
  • 田中 恭子(国立病院機構菊池病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
入院中の強度行動障害者の専門治療・研修プログラム整備と地域移行に向けた福祉・教育等との連携ガイドラインの検討のため、1)多職種向けの「強度行動障害チーム医療研修」プログラム作成と医療者育成、2)強度行動障害者の入院治療による介入と効果判定(非盲検無対照試験)、3)入院中の強度行動障害者の専門治療プログラムとして「精神科病棟における強度行動障害入院治療プログラム」整備、4)「入院中の強度行動障害者の地域移行に向けた地域移行パス」の作成と、5)「長期在院知的・発達障害患者アンケート」による専門医療普及に向けての実態調査を目的として研究を行った。
研究方法
1)多職種向けの「強度行動障害チーム医療研修」による医療者育成
 各介入施設で視聴する研修動画は、Challenging Behaviorや自閉スペクトラム症に対し治療の第一選択とされる「特性に応じた心理社会的介入」を実施できるよう、国立病院機構で2015年度から実施している「強度行動障害チーム医療研修」を参考に、医師・看護師・心理士等多職種による10講義を作成した。各講義関係職種1名は動画視聴することとし、「概論」「看護」「行動分析によるアセスメント」「環境調整・介入」「構造化」「保護者の話」は介入スタート前に必須とした。治療介入開始後も多職種・多部門で共有できるよう提供し、かつSV連絡会議でも内容を補足した。
2)精神科病棟における「強度行動障害者への入院治療プログラム」の整備
3)強度行動障害者の入院治療による介入と効果判定(非盲検無対照試験)
2つの入院治療プログラムを3週間・12週間の介入スケジュールに沿って実施し、介入効果を判定し、代表者施設にデータを集約し解析した。
4)「入院中の強度行動障害者の地域移行に向けた地域移行パス」の作成と地域モデルの検討
 本研究におけるモデルケースを含む介入エントリー事例を用いて分担研究者のいる地域における有識者らと仮想ケア会議を行い、円滑な地域移行に必要な事柄について検討した。また地域における強度行動障害者の支援を行う者らに質問紙法を用いて、得られた結果について考察した。
5)「長期在院知的・発達障害患者アンケート」
研究協力者との計4回のWeb会議で、先行研究の概要や調査目的、調査方法の確認を行い、アンケート調査を行った。
《対象》
 全国児童精神科医療施設協議会35施設、日本公的病院精神科協会95施設、公精協のうち国立病院機構で強度行動障害治療病棟のある精神科病院9施設、日本精神科病院協会1181施設。
《方法》
 精神科病院で在院日数が長期(先行研究と合わせて2年間と規定)となっている患者の中で、知的・発達障害患者の実態、精神疾患や身体疾患の合併の有無、行動障害の内容、退院困難である要因、過去の先行研究との変化等について、別紙のアンケートを作成し、郵送(紙面)およびGoogleformのいずれでも回答可能として回収した。140病院の有効回答分を集計し、先行研究結果とも比較して報告した。
結果と考察
強度行動障害医療に関する先行研究では、国立病院機構の強度行動障害治療病棟(専門病棟)に限定した同様の研修・治療プログラムは存在したが、本研究のように国立病院機構以外の公的精神科病院、一般精神科病院を含めた研修・治療プログラムが整備され、全国多分野の専門家によるSV会議で事例検討がなされたのは初めてである。事例データを集積・解析することによって得られた効果検証も、学術的意義が大きいと考える。
明らかになった課題として、精神科病棟での手厚いチーム医療体制・研修整備の必要性、病棟環境調整の難しさ、重大な他害など処遇困難事例の地域福祉サービス利用の難しさ、福祉サービス利用を断られ疲弊した家族支援の問題、各地域でのネットワーク構築や専門協議会の不足、などがあった。
今後地域の強度行動障害者に対して精神科医療機関が有効な支援を行うために、①行動療法や構造化といった専門的支援・治療技法修得の普及とリーダーとなる多職種チーム人材育成のための上級者向け研修会開催、②感覚過敏等の患者特性に配慮した安全な治療環境の整備、③効果的な支援を継続するための地域の福祉・教育機関との連携強化、④強度行動障害者に適時に対応するために必要な診療報酬上の配慮などが挙げられる。
結論
一般精神科病院/病棟(対象:思春期・成人)、地域の中核的発達障害医療機関(対象:児童思春期)、国立病院機構精神科専門病棟(対象:主に思春期~成人の処遇困難事例)のそれぞれで果たすべき役割を明確化し、治療介入に必要な強度行動障害チーム医療研修を、講義、実地研修やOJT、グループワークを含む事例研修等組み合わせ、かつ領域を越え相互交流的に実施し、人材育成を進めていくことが重要と考える。

公開日・更新日

公開日
2025-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202317021C

収支報告書

文献番号
202317021Z