障害者総合支援法の見直しを踏まえた、地域で暮らす障害者の地域生活支援の効果的な支援方法及び評価方法の検討のための研究

文献情報

文献番号
202317019A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者総合支援法の見直しを踏まえた、地域で暮らす障害者の地域生活支援の効果的な支援方法及び評価方法の検討のための研究
課題番号
22GC1017
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
田村 綾子(聖学院大学 心理福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 青石 恵子(熊本大学)
  • 鈴木 孝典(大正大学 社会共生学部)
  • 曽根 直樹(学校法人日本社会事業大学 大学院福祉マネジメント研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害者の地域移行支援の意義の検証と、地域生活における効果的な支援のあり方及びその評価方法の検討を目的として実施する2か年計画の研究の2年度目にあたり、令和4年度に本研究で実施した調査(以下「令和4年度調査」という)の協力者を対象に、地域生活の支援に関する10カ月後のアウトカム調査を行い、支援を効果的に行うための当事者の意向を中心とした評価のあり方に関する分析を行う。その結果をもとに、障害者の地域移行支援の意義を障害当事者からの意見を収集して検証するとともに、地域生活における効果的な支援のあり方及びその評価方法について検討することを目的とする。
研究方法
関係団体より研究協力者の推薦を得て研究協力者会議を構成し、質問紙調査を実施した。令和4年度の調査協力者のうち、令和5年度の追跡調査への協力について協力の意思表示をした障害者及びその支援者に、郵送自記式質問紙と回答用紙を送付し回収した。なお、使用するWHODAS2.0による評価方法に関しては、研究目的や概要と併せて説明動画の配信を行った。また、調査回答者のうち、希望者には謝礼を後日送付した。調査の実施にあたり、調査票の印刷・発送・回収・データ入力を民間業者に業務委託した。
 相談支援専門員に対しては、異なる地域でのフォーカスグループインタビュー調査を計7回実施した。調査は、インタビューガイドを作成して文書と口頭による説明と同意のうえで実施し、発言は録音して逐語データを作成し、協力者に確認してもらった。また、令和4年度の調査結果に関する報告会をオンラインで開催し、報告と共に意見交換会を行った。
結果と考察
質問紙調査は、送付した313件のうち238件(回収率76.04%)の調査票を、相談支援専門員(以下「支援者」)125名を通じて回収できた。(他、数票の白票及び宛先不明の返送があった)。現在の居住場所に移行後1年未満は7.6%となり、多くの者が令和4年度から地域生活を継続していた。また、障害種別は全て網羅したが、精神科病院から地域移行した精神障害者の割合は、8割以上となり本研究に2年間継続して協力してくれたのは精神障害者が多数を占めた。また、現在の生活に関する前回調査時との比較を尋ねたところ、63.5%の人が「とても良くなった」(28.2%)「どちらかと言えば良くなった」(35.3%)と回答していた。地域移行したことについて「良かった」と回答する者が88%で、これらの者は総じて基本的欲求の充足度が高かったが、基本的欲求の充足度には障害種別により有意差がみられた項目があった。また、WHODAS2.0の評価と社会関連性指標にはいくつかの相関がみられたほか、社会関連性指標と基本的欲求の充足の程度との間での相関や、居住形態や居住場所とWHODAS2.0や社会関連性、及び欲求充足の程度との間での相関がみられた。
量的調査の統計解析の結果、グループホームより自宅で生活する障害者の方が、他者との交流や社会参加の機会を得やすく、認知機能の維持や向上に影響している可能性があること、また、生活の主体性が高まり、社会への関心を強めることから社会参加の機会が多く、そのことが、集中や学習意欲、社会的交流の向上や促進に対して有益であることが示唆された。
インタビュー調査の結果、相談支援専門員は、地域移行の受け皿として近年増大しているグループホームの利用を安易に選択せず、本人の意向を尊重しながら地域移行を進めることを重視していることや、グループホーム入居者に対して、そこから次なる生活の場への移行を支援しようとしていることが把握され、今後もこのような支援が強化されることが障害者の主体的な生活を促進し、社会参加の機会を増すことに繋がると考えられる。また、障害当事者にアンケート調査を依頼したり、協働でWHODAS2.0の評価を実施したことは、相談支援専門員の日常業務では知り得なかった障害者の考えや思いに触れる機会となったことが示され、こうした尺度を用いた本人と協働で行う評価の有用性が認められた。
結論
生活環境や就労状況は、障害者の生活経過に一定の影響を与えることが推察された。特に、居住場所に関しては、グループホームなど制度的な枠組による住まいでの暮らしよりも、自宅での生活の方が、他者との交流や社会参加の機会を得やすい傾向にあり、注意力や学習意欲などの生活機能の維持、及び社会参加の促進に対して有益であることがうかがえた。自宅での生活の方が、グループホームなど自宅以外の場所に比べて家のなかで担う役割は多く、日常の活動が多くなる。そのことや身近な社会参加の機会が、集中や学習意欲、社会的交流を促進させていると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202317019B
報告書区分
総合
研究課題名
障害者総合支援法の見直しを踏まえた、地域で暮らす障害者の地域生活支援の効果的な支援方法及び評価方法の検討のための研究
課題番号
22GC1017
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
田村 綾子(聖学院大学 心理福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 青石 恵子(熊本大学)
  • 鈴木 孝典(大正大学 社会共生学部)
  • 曽根 直樹(学校法人日本社会事業大学 大学院福祉マネジメント研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神科病院や障害者支援施設等から地域生活に移行し、現に地域生活を送る障害者の支援の実態及びその効果に関する把握を通して、障害者の地域生活支援の効果の評価方法について検討することを目的とした。
研究方法
有識者や関係団体の推薦を受けてワーキングを構成し、障害者とその支援者である相談支援専門員に対する自記式質問紙調査と、計画相談支援に従事する相談支援専門員に対するグループインタビュー調査を実施した。
質問紙調査は、2ケ年に渡って実施して経年変化をみた。調査対象は全障害(精神障害、知的障害、身体障害、難病、高次脳機能障害、発達障害)とし、相談支援専門員を通じて令和4年度は513名、令和5年度は4年度の回答者のうち238名から回答を得た。調査項目は、相談支援専門員が記入する、障害者の個票となる生活形態や利用サービスとWHODAS2.0による評価、及び、障害者の自記式による社会関連性指標及び基本的欲求の充足度と地域移行後の生活の満足度である。このほか、相談支援専門員には基本属性を回答してもらった。調査回答者のうち、希望者には謝礼を後日送付した。
調査の実施にあたり、調査票の印刷・発送・回収・データ入力を民間業者に業務委託した。また、回収したデータの集計及び統計解析にはSPSS StatisticsVer.27を用いた。
結果と考察
令和4年度は、現在の居住場所に移行して1年未満の障害者が32%を占めていたが、約10か月後の再調査となった令和5年度では、移行後1年未満は7.6%となり、多くの者が地域生活を継続していた。また、障害種別は全て網羅したが、精神科病院から地域移行した精神障害者の割合は、令和4年度には約6割であったものが令和5年度は8割以上となり、本研究に2年間継続して協力してくれたのは精神障害者が多数を占めた。また、令和5年度は、現在の生活に関する前回調査時との比較を尋ねたところ、63.5%の人が「とても良くなった」(28.2%)「どちらかと言えば良くなった」(35.3%)と回答していた。
2年間とも地域移行したことについて「良かった」と回答する者が多数(令和4年度86%、令和5年度88%)であった。良かったと感じている者は、総じて基本的欲求の充足度が高かったが、基本的欲求の充足度には障害種別により有意差がみられた項目があった。また、WHODAS2.0の評価と社会関連性指標にはいくつかの相関がみられたほか、社会関連性指標と基本的欲求の充足の程度との間での相関や、居住形態や居住場所とWHODAS2.0や社会関連性、及び欲求充足の程度との間での相関がみられた。
量的調査の統計解析の結果、グループホームより自宅で生活する障害者の方が、他者との交流や社会参加の機会を得やすく、認知機能の維持や向上に影響している可能性があること、また、生活の主体性が高まり、社会への関心を強めることから社会参加の機会が多く、そのことが、集中や学習意欲、社会的交流の向上や促進に対して有益であることが示唆された。
インタビュー調査の結果、相談支援専門員は、地域移行の受け皿として近年増大しているグループホームの利用を安易に選択せず、本人の意向を尊重しながら地域移行を進めることを重視していることや、グループホーム入居者に対して、そこから次なる生活の場への移行を支援しようとしていることが把握され、今後もこのような支援が強化されることが障害者の主体的な生活を促進し、社会参加の機会を増すことに繋がると考えられる。また、障害当事者にアンケート調査を依頼したり、協働でWHODAS2.0の評価を実施したことは、相談支援専門員の日常業務では知り得なかった障害者の考えや思いに触れる機会となったことが示され、こうした尺度を用いた本人と協働で行う評価の有用性が認められた。
結論
「地域移行して良かった」との回答が9割近く、多数の障害者にとって地域移行施策は肯定されている。今後も病院、施設と地域援助事業者や行政機関が官民協働で推進することは、障害者権利条約の理念とも合致し、障害福祉サービスとしての地域移行支援の積極的活用などを通して障害者への地域移行を進めることが求められる。
WHODASはサービスを使った状態で障害と健康の状態について評価できる全障害に対応したツールであることから、アセスメントやモニタリング時に相談支援専門員と本人が協働で評価し、サービス活用の効果や課題を把握するために活用できる可能性が示唆された。
グループホームなど制度の枠に入らず自宅で生活する障害者の方が、認知機能や生活の主体性を高めたり、他者との交流や社会参加の機会を増す可能性がある。グループホームを唯一かつ第一優先の地域移行先とする支援者の存在が示唆されたが、本人の意思や希望を尊重して地域移行先を模索することや、本人の主体的な生活を支援することが求められる。

公開日・更新日

公開日
2024-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202317019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究成果
全障害を対象として、地域移行を経験し地域で生活する障害者に対するWHODASや社会関連性指標を用いた量的調査を行い、実態を把握できた。
(2)障害者の自記式アンケート調査によって、生活満足度や欲求充足度を把握し、生活環境が障害者に影響を与える要因として居住場所や就労状況等があることを把握した。
臨床的観点からの成果
地域移行して良かったと感じている者は、総じて基本的欲求の充足度が高いが、基本的欲求の充足度には障害種別によりいくつか有意差がみられた。社会関連性指標と基本的欲求充足の程度との相関や、居住形態や居住場所とWHODAS2.0や社会関連性、及び欲求充足の程度との間での相関がみられた。60代以上の方が50代以下より「認知得点」(10分間何か集中する、新しいことを学ぶ)が有意に高かった。単なる「加齢」とは異なる要素の存在によって高齢になっても認知機能の向上に影響する生活環境や形態があることが示唆される。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発は行っていないが、研究協力者である障害当事者とともに、地域生活を送る障害者の欲求充足度に関するアンケート調査項目を作成した。
その他行政的観点からの成果
WHODAS(全障害に対応)を用いて相談支援専門員と障害当事者が、サービスを使った状態での障害と健康の状態について協働で評価したことは支援方針や計画作成に有用であり、アセスメントやモニタリング時に相談支援専門員と本人が協働で評価し、サービス活用の効果や課題を把握するために活用できる可能性が示唆された。
その他のインパクト
グループホーム等の制度の枠内に入らず、自宅で生活する障害者の方が、認知機能や生活の主体性を高めたり、他者との交流や社会参加の機会を増す可能性があることが把握できた。グループホームの形態は多様化し、数も増大しているが、地域移行先としての活用における効果を検証する必要が示唆された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-05-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
202317019Z