分子イメージングによる精神科治療法の科学的評価法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200935004A
報告書区分
総括
研究課題名
分子イメージングによる精神科治療法の科学的評価法の確立に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大久保 善朗(日本医科大学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 須原 哲也(独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージングセンター)
  • 松浦 雅人(東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科)
  • 加藤 元一郎(慶應義塾大学医学部 精神神経科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
17,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では分子イメージングを用いて、①向精神薬の作用・副作用と受容体やトランスポーター占有率の関連を調べ、薬効の科学的評価法を確立する。②各種精神科治療法の効果と神経伝達系を含む脳機能の変化との関連を調べ、精神科治療法の奏功機転の神経基盤を明らかにする。③以上の結果を活用して、より科学的な精神科治療法の開発を目指した。
研究方法
1)下垂体ドパミン受容体占有率髙プロラクチン血症に関する研究、2)D2受容体測定用アゴニストリガンドを用いた抗精神病薬の占有率に関する研究、3)[11C]DOPAを用いた抗精神病薬の脳内ドパミン生成に与える影響に関する研究、4)統合失調症患者のドパミン合成能に関する研究、5)抗うつ薬のNET占有率の研究、6)fMRIで実施可能な情動課題に関する検証研究、7)fMRIを用いた社会認知機能の評価に関する研究を行った。
結果と考察
1)下垂体D2受容体占有率と血中プロラクチン値が相関すること、下垂体/脳内D2受容体比を指標に薬剤の脳内移行性が推定できることを示した。2)高親和性D2受容体占有率の測定が可能なことを示した。3)抗精神病薬の脳内ドパミン生成に与える影響に関する研究では、抗精神病薬の服薬によりドパミン生成能が安定化することを明らかにした。4)統合失調症患者のドパミン合成能に関する研究では、統合失調症患者群で左尾状核のドパミン合成能亢進と、症状重症度とドパミン合成能の相関を確かめた。5)NET測定用リガンドを用いた抗うつ薬の占有率の研究では、抗うつ薬・ノリトリプチリンによる脳内ノルエピネフリントランスポーター占有率を明らかにした。6)fMRIで実施可能な情動課題の作製と妥当性の検証研究では、情動画像を用いたバックワード・マスキングを作製し被験者の情動反応を非侵襲的に評価可能なことを確認した。7)fMRIを用いた社会認知機能の評価研究では、同一の顔や音声を提示しているにも関わらず、記憶・情動・性別と判断内容を変えることによって動員される神経回路が異なり、これらを組み合わせることによって、社会認知機能を評価できることを明らかにした。
結論
以上の研究を通じて新たに開発したNET占有率、D2占有率の下垂体/脳の比、fMRI評価などを指標として、より科学的な視点から、精神科治療法の評価が可能になる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

文献情報

文献番号
200935004B
報告書区分
総合
研究課題名
分子イメージングによる精神科治療法の科学的評価法の確立に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大久保 善朗(日本医科大学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 須原 哲也(独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージングセンター)
  • 松浦 雅人(東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科)
  • 加藤 元一郎(慶應義塾大学医学部 精神神経科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では分子イメージングを用いて、①向精神薬の作用・副作用と受容体やトランスポーター占有率の関連を調べ、薬効の科学的評価法を確立する。②各種精神科治療法の効果と神経伝達系を含む脳機能の変化との関連を調べ、精神科治療法の奏功機転の神経基盤を明らかにする。③以上の結果を活用して、より科学的な精神科治療法の開発を目指した。
研究方法
分子イメージングおよびfMRIを用いて以下について研究した。1)下垂体ドパミン(DA)受容体占有率と髙プロラクチン血症の関連、2)D2受容体アゴニストリガンドを用いた抗精神病薬の占有率、3)抗精神病薬の脳内ドパミン生成に与える影響、4)統合失調症患者のDA合成能、5)抗うつ薬のNET占有率、6)新規NK1受容体測定用リガンドの定量法、7)ECTによる脳内D2受容体の変化、8)ECTによる脳内5-HT1A受容体の変化、9)fMRIで実施可能な情動課題、10)音声情動認知の脳機能、11)社会認知の脳機能、12)DA受容体と認知機能。

結果と考察
1)下垂体D2受容体占有率と血中プロラクチン値が相関すること、下垂体/脳内D2受容体比を指標に薬剤の脳内移行性が推定できることを示した。2)高親和性D2受容体占有率の測定が可能なことを示した。3)抗精神病薬の服薬によりDA生成能が安定化することを明らかにした。4)統合失調症患者群で左尾状核のDA合成能亢進と、症状重症度とDA合成能の相関を確かめた。5)ノリトリプチリンによる脳内NET占有率を明らかにした。6)新規NK1受容体測定用リガンドの定量法を開発した。7)ECTにより前帯状回のD2受容体結合が減少することから、ECTの作用機序としてDA系の機能変化が示唆された。8)ECTによって5-HT1A受容体に変化を認めないことを示した。9)バックワードマスキングにより非侵襲的に情動反応を評価可能なことを確認した。10)音声情動認知に伴う島皮質の賦活が抗不安薬服用によりが低下することを明らかにした。11)同一の顔や音声を提示しているにも関わらず、記憶・情動・性別と判断内容を変えることによって社会認知機能を評価できることを明らかにした。12)Dl、D2受容体と認知機能の関連を明らかにした。
結論
以上の研究を通じて開発した指標を用いて、科学的な視点から精神科治療法の評価することによって、より合理的な精神科治療法の開発提案が可能になる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200935004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)新規リガンドとして、NET、NK1受容体、ドパミンアゴニストリガンドを開発し定量評価法を確立した。2)抗精神病薬については辺縁系選択性仮説を否定するとともに、下垂体D2受容体占有率指標に薬剤の脳移行性および高プロラクチン血症を予想する方法を開発した。3)抗うつ薬によるNET占有を測定可能にした。4)ECTのドパミン系を介する治療メカニズムの一端を明らかにした。5)情動反応や社会認知など高次脳機能評価をfMRIで測定する方法を開発しプラセボ効果や認知療法の効果測定に応用した。
臨床的観点からの成果
本研究の結果から、脳内動態を考慮した科学的な処方法の設定が必要なことが明らかになった。現在各種治療アルゴリズムが提案されつつあるが、みなエキスパートコンセンサスにとどまる。本研究結果を基に、より適切な用量設定や投与方法が可能で、科学的な治療アルゴリズムの作成が期待できる。今回得られた所見や技術は、薬剤スクリーニングや新規向精神薬の臨床治験前の用量設定の際にも応用可能で、従来の薬剤開発の人的経済的な負担を軽減し、新薬の開発、臨床導入を容易にする。
ガイドライン等の開発
下垂体と脳内D2占有率比を指標に抗精神病薬の脳移行性および副作用としての高プロラクチン血症を予測できることを提案した。
その他行政的観点からの成果
本研究成果を応用して、われわれは新規抗精神病の第二相(パリペリドン)または第IV相(ブロナンセリン)臨床試験としてD2占有率を指標にした用量設定を行った。
その他のインパクト
本研究事業で行われた研究を含む成果によって、須原哲也、大久保善朗、加藤元一郎らの研究グループがH21年11月18日第46回ベルツ賞一等賞(テーマ「精神疾患 -うつ病、統合失調症など-」)を受賞した。さらに、fMRIを用いた社会認知の研究成果は米国雑誌Scienceに掲載され独創的な学術研究として国際的に評価された。

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
76件
その他論文(和文)
75件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
108件
学会発表(国際学会等)
30件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi H, Kato M, Takano H et al.
Differential contributions of prefrontal and hippocampal dopamine D(1) and D(2) receptors in human cognitive functions.
J Neurosci , 28 (46) , 12032-12038  (2008)
原著論文2
Arakawa R, Okumura M, Ito H et al.
Quantitative analysis of norepinephrine transporter in the human brain using PET with (S,S)-18F-FMeNER-D2.
J Nucl Med , 49 (8) , 1270-1276  (2008)
原著論文3
Asai Y, Takano A, Ito H et al.
GABAA/Benzodiazepine receptor binding in patients with schizophrenia using [11C]Ro15-4513, a radioligand with relatively high affinity for alpha 5 subunit.
Schizophr Res , 99 (1) , 333-340  (2008)
原著論文4
Arakawa R, Ito H, Takano A et al.
Dose-finding study of paliperidone ER based on striatal and extrastriatal dopamine D2 receptor occupancy in patients with schizophrenia.
Psychopharmacology (Berl) , 197 (2) , 229-235  (2008)
原著論文5
Nozaki S, Kato M, Takano H et al.
Regional dopamine synthesis in patients with schizophrenia using L-[beta-11C]DOPA PET.
Schizophr Res , 108 (1) , 78-84  (2008)
原著論文6
Okumura M, Arakawa R, Ito H et al.
Quantitative analysis of NK1 receptor in the human brain using PET with 18F-FE-SPA-RQ.
J Nucl Med , 49 (11) , 1749-1755  (2009)
原著論文7
Ito H, Takano H, Takahashi H et al.
Effects of the antipsychotic risperidone on dopamine synthesis in human brain measured by positron emission tomography with L-[beta-11C]DOPA: a stabilizing effect for dopaminergic neurotransmission?
J Neurosci , 29 (43) , 13730-13734  (2009)
原著論文8
Takahashi H, Kato M, Matsuura M et al.
When your gain is my pain and your pain is my gain: Neural correlates of envy and Schadenfreude.
Science , 323 (5916) , 937-939  (2009)
原著論文9
Arakawa R, Ichimiya T, Ito H et al.
Increase in thalamic binding of [(11)C]PE2I in patients with schizophrenia: a positron emission tomography study of dopamine transporter.
J Psychiatr Res , 43 (15) , 1219-1223  (2009)
原著論文10
Shidahara M, Ito H, Otsuka T et al.
Measurement error analysis for the determination of dopamine D2 receptor occupancy using the agonist radioligand [(11)C]MNPA.
J Cereb Blood Flow Metab , 30 (1) , 187-195  (2010)
原著論文11
Takahashi H, Takano H, Kodaka F et al.
Contribution of dopamine D1 and D2 receptors to amygdala activity in human.
J Neurosci , 30 (8) , 3043-3047  (2010)
原著論文12
Arakawa R, Ito H, Okumura M et al.
Extrastriatal dopamine D(2) receptor occupancy in olanzapine-treated patients with schizophrenia.
Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci , 230 (4) , 345-350  (2010)
原著論文13
Saijo T, Takano A, Suhara T et al.
Electroconvulsive therapy decreases dopamine D(2) receptor binding in the anterior cingulate in patients with depression: a controlled study using positron emission tomography with radioligand [(11)C]FLB 457.
J Clin Psychiatry  (2010)
原著論文14
Ohtsuka T, Ito H, Halldin C et al.
Quantitative PET-analysis of the dopamine D2 receptor agonist radioligand [11C]MNPA in human brain.
J Nucl Med  (2010)
原著論文15
Arakawa R, Okumura M, Ito H et al.
Positron emission tomography measurement of dopamine D2 receptor occupancy in the pituitary and cerebral cortex: relation to antipsychotic-induced hyperprolactinemia.
J Clin Psychiatry  (2010)
原著論文16
Sekine M, Arakawa R, Ito H et al.
Norepinephrine transporter occupancy by antidepressant in human brain using positron emission tomography with (S,S)-[18F]FMeNER-D2.
Psychopharmacology (Berl) , 210 (3) , 331-336  (2010)
原著論文17
Saijo T, Takano A, Suhara T et al.
Effect of electroconvulsive therapy on 5-HT1A receptor binding in patients with depression: a PET study with [11C]WAY 100635.
Int J Neuropsychopharmacol  (2010)
原著論文18
Takano A, Arakawa R, Ito H et al.
Peripheral benzodiazepine receptors in patients with chronic schizophrenia: a PET study with [11C]DAA1106.
Int J Neuropsychopharmacol  (2010)
原著論文19
Kosaka J, Takahashi H, Ito H et al.
Decreased binding of [(11)C]NNC112 and [(11)C]SCH23390 in patients with chronic schizophrenia.
Life Sci , 86 (21) , 814-818  (2010)
原著論文20
Arakawa R, Ito H, Takano A et al.
Dopamine D(2) receptor occupancy by perospirone: a positron emission tomography study in patients with schizophrenia and healthy subjects.
Psychopharmacology (Berl) , 209 (4) , 285-290  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-