人工内耳装用児の言語能力向上のための効果的な療育方法の確立に向けた研究

文献情報

文献番号
202317014A
報告書区分
総括
研究課題名
人工内耳装用児の言語能力向上のための効果的な療育方法の確立に向けた研究
課題番号
22GC1012
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
南 修司郎(国立病院機構東京医療センター 耳鼻咽喉科)
研究分担者(所属機関)
  • 根本 清貴(筑波大学医学医療系精神医学)
  • 河崎 佳子(神戸大学 人間発達環境学研究科)
  • 白井 杏湖(東京医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 高橋 優宏(国際医療福祉大学三田病院 耳鼻咽喉科)
  • 樫尾 明憲(東京大学医学部附属病院)
  • 阪本 浩一(大阪公立大学 医学部耳鼻咽喉科)
  • 山本 修子(田上 修子)(国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部耳鼻咽喉科)
  • 新谷 歩(大阪公立大学 大学院医学研究科 医療統計学教室)
  • 大石 直樹(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
12,266,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
① 先天性聴覚障害児・者の難聴脳データベースを作成する。
② Family-Centered Early Intervention(FCEI: 聴覚障害児のための家族を中心とする早期介入)updateを推進する。
③ Auditory Verbal Therapy(AVT)について、そのエビデンスをまとめ、日本語環境に対応した手法を開発する。
研究方法
① 1年目は、倫理審査の承認を得て、健聴者1918人の脳機能画像データを取得・解析し、難聴脳データベースのコントロールとして組み込んだ。2年目は先天性難聴児・者80名が本研究に登録され、脳機能MRIを撮像し、難聴脳データベース(β版)https://nancho-db.com/adminCheck/を構築した。難聴脳データベースを用いた人工内耳装用効果予測モデルを構築し、特許出願(出願番号:特願2023-152116)と論文発表した。聴覚脳機能画像勉強会の第1回を2022年12月22日、第2回を2024年1月5日に実施した。3年目は、難聴脳データベースの登録と解析を完了させる予定である。また第3回聴覚脳機能画像勉強会を行う予定である。
② FCEIロールプレイ講習会を実施した。1年目の第1回は52人、2年目の第2回は63人の耳鼻咽喉科医が参加した。場面1:新生児聴覚スクリーニング両側リファー後の初回外来、場面2:ABRの精密聴力検査で両側重度難聴が確定した後、の2場面でロールプレイを実施し、2年目は模範ロールプレイ動画を制作し、日本語FCEI(家族中心のろう・難聴児早期支援において最良な支援の在り方:国際的なコンセンサス・ステートメント)の原稿を作成した。3年目は、第3回FCEIロールプレイ講習会、日本語FCEI冊子の配布、日本手話版FCEIの作成を予定している。
③ 日本語Auditory Verbal Therapy(AVT)テキストブックの原稿作成を2年目までに行なった。3年目には日本語AVTテキストブックの出版を予定している。
結果と考察
① 人工内耳手術前に高解像度3D T1強調脳MRI撮影を行い、FreeSurferを使用して画像を解析した。Desikan-Killiany皮質アトラスによる34の関心領域(ROI)内の皮質厚の残差は、年齢と健聴対照の回帰直線に基づいて算出した。順位ロジスティック回帰分析により、人工内耳装用効果と右半球の5つのROI、左半球の5つのROIとの間に有意な関連性が検出された。右Entorhinal Cortexと左Medial Orbitofrontal Cortexの皮質厚を用いた予測モデリングにより、音声弁別能力と有意な相関があることがわかった。この相関は、先天性難聴の患者よりも後天性難聴の患者でより高かった。人工内耳術前の表面形態計測は、人工内耳の転帰を予測し、患者選択と臨床的意思決定を支援する可能性がある。
② 家族中心のろう・難聴児早期支援(FCEI)の10原則の日本語を次のように制定した。
1. 早期に、速やかに、公平な支援につなげる
2. 家族と支援者の連携
3. 充分な情報提供に基づいた家族の選択(インフォームド・チョイス)と意思決定
4. 家族への社会的および精神的サポート
5. 家族と乳幼児のやりとり
6. コミュニケーションを支える補聴機器や手段
7. 支援者の専門性
8. 多職種連携チームの協力体制
9. 進捗状況のモニタリング
10. プログラムのモニタリング
③ AVT療育を受けた先天性難聴児の就学時の異聴傾向を評価した。音節別の異聴傾向は、補聴器群では ni→mi 42.9%、ni→N 42.9%、ne→me 42.9%、ri→ni 47.1%、ta→a 61.1%、su→ʃi 50.0%、ʃi→su 57.1%、mo→wa 44.4%、人工内耳群では ni→mi 85.7%、ri→ni 50.0%、to→ko 55.6%、su→ʃi 40.0%、ʃi→su 40.0%、mo→wo 41.7%がみられ、他の音に比し顕著な異聴傾向を示した。これらの多くは構音様式、構音位置、フォルマントの遷移が近似していた。
結論
① 難聴脳データベースは、人工内耳の臨床的な結果を予測するためのツールとして有用であり、患者の選択や臨床的な意思決定を支援する可能性がある。
② FCEIに基づいた、「新スクリファー後の対応ロールプレイ講習会」を通じて、新スクリファー後に介入する耳鼻咽喉科医のレベルアップに寄与する。
③ 世界的に音声言語獲得手段としてエビデンスのあるAVTを日本語で学ぶ教材を提供することで、専門家や関係者の知識を向上させる。

公開日・更新日

公開日
2024-05-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-05-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202317014Z