文献情報
文献番号
202317013A
報告書区分
総括
研究課題名
医療現場における対面および遠隔での手話通訳を介したコミュニケーション時に生ずる意思疎通不全要因の研究
課題番号
22GC1011
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
芝垣 亮介(椙山女学園大学 国際コミュニケーション学部)
研究分担者(所属機関)
- 奥田 太郎(南山大学 社会倫理研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
3,965,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
病院においてろう者と医療従事者は、通常の診察はもちろん、がんの告知、延命治療継続の諾否といった深刻な場面で、互いに意思疎通をとる必要がある。厚生労働省が近年推進してきた一連の事業において、そうした医療現場における医師・患者間の意思疎通にまつわる種々の実情が解明され、現場の視点からの困難事例、および、現在の制度上の問題点が指摘されている(「専門分野における手話言語通訳者の育成カリキュラムを検討するためのニーズ調査研究事業」成果報告書(平成31年3月)等)。こうした調査からは、意思疎通の問題点が多くの先行研究で指摘されてもなお、現状ではそれが医療従事者のろう者に対する行動・態度の変容にまだ十分つながってはいないことが窺われる。
本研究は、こうした現状を踏まえ、医療現場における手話通訳者を通じた医療従事者・患者間のコミュニケーションを中心に、それがどのような要因で意思疎通不全を来たすかについて、言語学的・コミュニケーション論的な観点から、特に医療従事者側の手話言語への認識のありように注目して解明することを試みる。その際、特に、手話の言語性、および医療の倫理性との関わりで調査・分析を進めることで、手話でのコミュニケーションに関する医療従事者側の理解を深化させるためにはどのようなことが必要か、また、手話通訳において医療分野の専門性がどのような仕方で障壁となっているのかについて具体的に把握することを目指す。さらに、これらについて、対面の場合とICTを用いた遠隔サポートの場合とで比較し、医療現場での遠隔サポートによる意思疎通の可能性も探る。
本研究は、こうした現状を踏まえ、医療現場における手話通訳者を通じた医療従事者・患者間のコミュニケーションを中心に、それがどのような要因で意思疎通不全を来たすかについて、言語学的・コミュニケーション論的な観点から、特に医療従事者側の手話言語への認識のありように注目して解明することを試みる。その際、特に、手話の言語性、および医療の倫理性との関わりで調査・分析を進めることで、手話でのコミュニケーションに関する医療従事者側の理解を深化させるためにはどのようなことが必要か、また、手話通訳において医療分野の専門性がどのような仕方で障壁となっているのかについて具体的に把握することを目指す。さらに、これらについて、対面の場合とICTを用いた遠隔サポートの場合とで比較し、医療現場での遠隔サポートによる意思疎通の可能性も探る。
研究方法
今年度は、初年度(令和4年度)の研究を基礎としてデータ収集を継続する一方、最終年度(令和6年度)に完成予定の成果物の制作に着手した。具体的には以下の作業を実施した。
①ろう者および聴者に対して、動画内の状況認識・文脈把握の調査を行った。
・ろう者が聴者とのコミュニケーション時に利用することのある音声文字変換ツールを利用した際に、ろう者および聴者が実際に何を認識できているのかを理解することを目的とした調査を行った。
②意思疎通支援ツール(リーフレット、WEBアプリ)の開発に着手した。
・WEBアプリ開発のパートナーとして(株)ロフトワークのサポートを得た。また、同WEBアプリを補完する役割を果たすリーフレットの開発も同時に行なっている。
①ろう者および聴者に対して、動画内の状況認識・文脈把握の調査を行った。
・ろう者が聴者とのコミュニケーション時に利用することのある音声文字変換ツールを利用した際に、ろう者および聴者が実際に何を認識できているのかを理解することを目的とした調査を行った。
②意思疎通支援ツール(リーフレット、WEBアプリ)の開発に着手した。
・WEBアプリ開発のパートナーとして(株)ロフトワークのサポートを得た。また、同WEBアプリを補完する役割を果たすリーフレットの開発も同時に行なっている。
結果と考察
ろうの世界は、一般的にコンテクストが薄い世界であると言われており、文脈を想像することを得意としないとされている。しかし今年度の調査からは、ろう者は動画内の状況を、聴者の有音状態と同程度に認識している可能性が明らかになった。つまり、視覚情報に関しては、ろうの世界は、無音状態の聴の世界とは全く異なり、有音の聴の世界と同程度の文脈を理解している可能性が示された。
また、アプリ・リーフレットの開発をろう者とのロールプレイ実験の結果を反映する形で行うことにより、ろう者が医療機関でで求めいてるコミュニケーションの在り方について、より詳細なデータを得た。一般的には、双方向のコミュニケーションが求められる中、医療機関では、ろう者からの医療者へ伝えられることではなく、医療者から省略されることのない情報を得ることに重きが置かれるということである。
また、アプリ・リーフレットの開発をろう者とのロールプレイ実験の結果を反映する形で行うことにより、ろう者が医療機関でで求めいてるコミュニケーションの在り方について、より詳細なデータを得た。一般的には、双方向のコミュニケーションが求められる中、医療機関では、ろう者からの医療者へ伝えられることではなく、医療者から省略されることのない情報を得ることに重きが置かれるということである。
結論
令和5年度の研究を通じて、申請当初に見えていなかった研究上の要点もいくつか捉えることができた。初年度(令和4年度)に実施した実験やインタビュー調査から得られた知見から、意思疎通支援ツールとしてのリーフレット開発だけでは意思疎通不全要因の解明と解消は困難であることが明らかとなり、今年度からWEBアプリの開発のなかで不全要因を解明するというアプローチに切り替えた。したがって、当初の計画よりも現状で実験の実施回数は少なくなっているが、研究全体としては、当初の目的に向かって着実に前進している。
公開日・更新日
公開日
2024-06-26
更新日
-