統合失調症陰性症状の成因解明と治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
200935001A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症陰性症状の成因解明と治療法開発に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
富田 博秋(東北大学 大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
16,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①免疫細胞の機能ゲノム研究、②画像研究、③死後脳研究、④実験動物研究を統合して統合失調症の陰性症状の形成、及び、脳萎縮に関わる分子機構を解明すること。
研究方法
①免疫細胞の機能ゲノム研究:H20年度に引き続き、統合失調症罹患者及び健常対照者の臨床症状を評価した上でTh1・Th2ヘルパーT細胞等の免疫細胞を細胞ソーティング装置で単離し、マイクロアレイを用いて全ゲノムの遺伝子発現量を評価した。②画像研究:H20年度に引き続き、①と同じ対象者の脳画像所見を集積し陰性症状と脳構造変化に相関する分子を特定した。③死後脳研究:死後脳組織を対象に死戦期交絡因子の評価法を確立し、細胞腫特異的遺伝子発現情報を集積した。④実験動物研究:同一マウス個体の脳内ミクログリアと末梢単球を細胞ソーティング法で単離してマイクロアレイ実験を行い、脳内ミクログリアと末梢単球間の分子動態の相関を検討した。
結果と考察
①Th1細胞において統合失調症群に発現の高い19の遺伝子と発現の低い72の遺伝子、Th2細胞において統合失調症群に発現の高い19の遺伝子と発現の低い29の遺伝子を病態に関わる候補遺伝子として特定した。②統合失調症群の左上側頭回、左海馬、右側頭極における白質繊維束の統合性の有意な低下等の構造上の特徴を特定し、これらの表現型と相関して免疫細胞で遺伝子発現変化をする遺伝子群を特定した。③死後脳研究:死後脳組織において死戦期交絡因子の影響を評価する方法を確立するとともに、統合失調症罹患者の免疫細胞において発現変化する遺伝子群の脳内の各細胞腫での発現パターンを確認した。④同一個体の脳内ミクログリアと末梢単球の遺伝子発現プロファイル、及び、外界刺激への両者の反応パターンが近似していることを示した。ミクログリア-単球系を介した神経免疫相関の分子機構の理解と末梢単球の分子動態の観察による脳内ミクログリアの分子動態の推測法確立の可能性を示した。
結論
統合失調症の陰性症状の形成・進行に関わる脳構造の変化、及び、症状形成と脳構造変化に関わる可能性のある遺伝子群を特定した。これらの知見を元に、今後、より多くの症例での検討、培養細胞や実験動物を用いた機能解析が行われることで、陰性症状に関わる病態の客観的評価や治療・予防法の開発に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-08-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200935001B
報告書区分
総合
研究課題名
統合失調症陰性症状の成因解明と治療法開発に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
富田 博秋(東北大学 大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①免疫細胞の機能ゲノム研究、②画像研究、③死後脳研究、④実験動物研究を統合して統合失調症の陰性症状の形成及び脳萎縮に関わる分子機構を解明すること。
研究方法
①免疫細胞の機能ゲノム研究:Th1・Th2ヘルパーT細胞等の免疫細胞を細胞ソーティング装置で単離し、マイクロアレイを用いて全ゲノムの遺伝子発現量を評価する方法を確立。統合失調症罹患者及び健常対照者の免疫細胞の発現解析を行い臨床症状と相関して発現変化する遺伝子を特定した。②画像研究:①と同じ対象者の脳画像所見を集積し陰性症状と脳構造変化に相関する分子を特定した。③死後脳研究:死後脳組織を対象に死戦期交絡因子の評価法を確立し、細胞腫特異的遺伝子発現情報を集積した。④実験動物研究:同一マウス個体の脳内ミクログリアと末梢単球のマイクロアレイ実験を行い分子動態の相関を検討した。
結果と考察
①世界に先駆けて特定の免疫細胞を単離して包括的な遺伝子発現プロファイルを行なう技術を確立し、技術の妥当性を確認した。Th1細胞において統合失調症群に発現の高い19の遺伝子と発現の低い72の遺伝子、Th2細胞において統合失調症群に発現の高い19の遺伝子と発現の低い29の遺伝子を病態に関わる候補遺伝子として特定した。②統合失調症群の左上側頭回、左海馬、右側頭極における白質繊維束の統合性の有意な低下等の構造上の特徴を特定し、これらの表現型と相関して免疫細胞で遺伝子発現変化をする遺伝子群を特定した。③死後脳研究:死後脳組織において死戦期交絡因子の影響を評価する方法を確立するとともに、統合失調症罹患者の免疫細胞において発現変化する遺伝子群の脳内の各細胞腫での発現パターンを確認した。④同一個体の脳内ミクログリアと末梢単球の遺伝子発現プロファイル、及び、外界刺激への両者の反応パターンが近似していることを示した。ミクログリア-単球系を介した神経免疫相関の分子機構の理解と末梢単球の分子動態の観察による脳内ミクログリアの分子動態の推測法確立の可能性を示した。
結論
統合失調症の陰性症状の形成・進行に関わる脳構造の変化、及び、症状形成と脳構造変化に関わる可能性のある遺伝子群を特定した。これらの知見を元に、今後、より多くの症例での検討、培養細胞や実験動物を用いた機能解析が行われることで、陰性症状に関わる病態の客観的評価や治療・予防法の開発に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-08-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200935001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界に先駆けて特定の免疫細胞のマイクロアレイ手技による包括的遺伝子発現解析の手技の確立に成功した。更に、本手法を臨床症状、認知機能、MRI画像評価を行った統合失調症罹患者に応用することで、陰性症状の進行、認知機能低下、脳構造変化に相関してTh1/Th2ヘルパーT細胞において発現変化する遺伝子群を特定した。また、実験動物、培養細胞、死後脳組織を対象とする研究により、末梢の免疫細胞内の分子遺伝学的事象が中枢神経細胞内の事象と如何に相関しているかを示した。
臨床的観点からの成果
統合失調症を含む精神疾患の多くは客観的な病態把握の指標がなく、本研究は統合失調症や他の神経精神免疫機構が関与する中枢神経疾患の病態を客観的に把握するための方法の開発に繋がるものと期待される。また、統合失調症の臨床症状のうち陽性症状にはドパミン神経伝達の関与が示唆され、ドパミン受容体等を標的とする治療薬の開発がなされているが、陰性症状の病態には不明の点が多い。本研究による陰性症状の形成や脳構造の変化に関与する分子群が特定されることで、今後、陰性症状に有効な新規治療薬の開発に繋がることが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は、将来、特定された末梢血免疫細胞の分子をマーカーとする統合失調症の病態や治療反応性の客観的評価のためのガイドラインを作成する上での基本的な情報となる。また、統合失調症をはじめとする中枢神経疾患の成因を解明する上で必要になる、死戦期の低酸素暴露の影響に由来する交絡因子を評価するためのガイドラインを作成した。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は将来、統合失調症罹患者の病態把握を客観的指標を用いてより適切におこなう手法の確立や、陰性症状の進行とそれに伴う脳構造の変化を改善する治療薬の開発に繋がることで、罹患者の社会復帰を促進し、QOLを改善することに結び付くものと期待され、医療・福祉行政に好影響を及ぼすものと考えられる。
その他のインパクト
平成21年1月23日(土)に市民シンポジウム「こころの健康と科学研究の今日と未来 
?脳科学の発展が私達にもたらすものとは?」を主催し、この中で本研究の成果を市民に公開し、統合失調症診療を含む今後、精神医療、精神医学、福祉についての討論をおこなった。本シンポジウムの内容は後日、宮城県での購読率が7割に迫る河北新報に掲載・紹介され、広く市民の関心を集めた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-