補装具費支給制度等におけるフォローアップ体制の有効性検証のための研究

文献情報

文献番号
202317012A
報告書区分
総括
研究課題名
補装具費支給制度等におけるフォローアップ体制の有効性検証のための研究
課題番号
22GC1010
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
高岡 徹(社会福祉法人 横浜市リハビリテーション事業団 横浜市総合リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 樫本 修(宮城県リハビリテーション支援センター)
  • 菊地 尚久(千葉県千葉リハビリテーションセンター 診療部)
  • 中村 隆(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所義肢装具技術研究部)
  • 芳賀 信彦(国立障害者リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、補装具のフォローアップに関する有効性のある方策を提言し、フォローアップ体制のモデルを構築することを目的とする。
研究方法
(1)自治体・身体障害者更生相談所(以下、更生相談所):➀横浜市内全域の回復期リハビリテーション病棟(26か所)に対して装具のフォローアップの有無等に関する調査を実施し、チラシを作成、配布した。②宮城県が実施している補装具フォローアップ事業が他の自治体でも実現可能なモデルとなり得るかを探る目的で本事業の業務量、ノウハウを分かりやすく紹介し、全国の身体障害者更生相談所にアンケート調査を行った。③補装具制度とフォローアップに関する支援者研修を実施した。
(2)医療機関:千葉県地域リハビリテーション広域支援センター9施設に依頼し、訪問リハビリテーションを施行している脳卒中患者を対象として、下肢装具に関する調査を行った。
(3)利用者啓発・支援:➀当事者と専門職が参加する義手ミーティングを開催した。またウォーキング練習会を5回開始し、歩行能力の強化が必要なユーザーを外来リハへつなげた。②義肢や装具の破損や不適合に障害者自身が気付いてもらう、という観点で関係する資料を収集し、A4版4ページの障害当事者に向けたパンフレットを制作した。この中に、チェックすべきポイントや、耐用年数の考え方、破損や不適合が生じた際の相談窓口についても解説した。③今年度は情報バリアフリー通信・放送役務提供・開発推進助成金により株式会社ミライロが開発中の「補装具利用者向け補装具管理および管理プッシュ型情報提供システムの開発」への協力を行った。
結果と考察
(1)自治体・更生相談所:回復期リハビリテーション病棟へのチラシの配布や研修会の開催などは、各地の更生相談所においても実施可能な方策と考えた。一方、宮城県の事業はモデルとしての普及のハードルは高く、各自治体の実情に合わせた方策を構築する必要があることが確認できた。実現が困難な要因として、マンパワー不足が37か所(61%)と多数を占めた。その他の要因として文書判定を主に行っているので直接判定に対するはがき送付に馴染まない、判定機関である更生相談所が補装具のフォローアップをする法的根拠がないなどがあげられた。研修会を北九州市と熊本県、福岡市、高知市、鹿児島市の5か所で開催し、研修内容は公開する予定である。
(2)医療機関:結果は下肢装具を退院前に作製した経験があるものは約40%、現在下肢装具を使用しているものはこのうち約70%で、使用場面は屋内のみが約20%、屋内外が約65%、屋外のみ約15%であった。2回目以降作製した経験があるのは15%で、このうち治療用装具が80%、更生用装具が約20%であった。
(3)利用者啓発・支援:義手ミーティングやウォーキング練習会は継続して実施することが必要と考える。また、今回作成したパンフレットは、障害当事者だけでなく、医療、福祉の専門職にも役立ちうる内容となった。スマホのアプリの試作に関しては、これが完成すれば補装具の利用者自身がスマホを用いて自己点検を行い、破損や不適合に早期に気付いてもらうことができる可能性があると考える。
 全体として、補装具フォローアップに関する具体的な方策をまとめることができた。令和6年度の補装具費支給事務取扱指針に補装具のフォローアップの重要性が追記されたことも大きな成果と考える。また、補装具支給制度や補装具そのものの知識等の研修は継続することが重要であり、そのための資料を作成できた。今後は全国で利用してもらいたい。そのための助言の依頼や研修等の要望があれば、協力していくことが可能である。また、前述のスマホアプリの開発は令和6年度も継続される予定であり、その場合は完成に向けた協力を続ける。
結論
補装具フォローアップに関する具体的な方策を提示することができた。補装具のフォローアップとは補装具自体の損耗、不具合だけをみるのではなく、支給された補装具によって、利用者の生活スタイルの変化、活動性の向上が得られたかを確認していく働きかけでもある。フォローアップのシステムが各地域の規模や資源の有無等により異なってくることはやむを得ないが、そうしたシステムを確立することの必要性と仕組みづくりを率先して行う実行性を更生相談所には期待したい。

公開日・更新日

公開日
2024-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202317012B
報告書区分
総合
研究課題名
補装具費支給制度等におけるフォローアップ体制の有効性検証のための研究
課題番号
22GC1010
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
高岡 徹(社会福祉法人 横浜市リハビリテーション事業団 横浜市総合リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 樫本 修(宮城県リハビリテーション支援センター)
  • 菊地 尚久(千葉県千葉リハビリテーションセンター 診療部)
  • 中村 隆(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所義肢装具技術研究部)
  • 芳賀 信彦(国立障害者リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、補装具のフォローアップに関する有効性のある方策を提言し、フォローアップ体制のモデルを構築することを目的とする。
研究方法
(1)自治体・身体障害者更生相談所(以下、更生相談所):更生相談所が主体となって補装具のフォローアップに関与する手法として、宮城県、横浜市、北九州市における実践を明示し、有効性を検証した。
(2)医療機関:千葉県の回復期リハビリテーション病棟と地域リハビリテーション広域支援センターに対して、下肢装具のフォローアップに関する調査を行った。
(3)利用者啓発・支援:➀当事者と専門職が参加する義手ミーティングやウォーキング練習会を開始した。②A4版4ページの障害当事者に向けたパンフレットを制作した。③令和5年度は情報バリアフリー通信・放送役務提供・開発推進助成金により株式会社ミライロが開発中の「補装具利用者向け補装具管理および管理プッシュ型情報提供システムの開発」への協力を行った。
結果と考察
(1)自治体・更生相談所:①横浜市の更生相談所が主催する地域リハビリテーション協議会の仕組みを利用して、市内全域の回復期リハビリテーション病棟(26か所)に対してフォローアップの有無等に関する調査を実施し、チラシを作成、配布した。②北九州市と熊本県、福岡市、高知市、鹿児島市において、補装具制度とフォローアップに関する支援者研修を実施した。研修内容は公開し、各地の研修等に利用可能とした。③宮城県の調査では、補装具フォローアップの機会が定期的にあることは利用者にとって有用で、事業者も行政が要になって行うフォローアップに対して協力的な意向が多かった。次いで、宮城県の「往復はがき形式」によるフォローアップ事業が他の自治体でも実現可能なモデルとなるかを探る目的で本事業の業務量、ノウハウを紹介し、全国の更生相談所にアンケート調査した。宮城県を除く76か所中61か所(回収率80%)から回答を得た。実現可能の回答は4か所に過ぎず、不可能27か所、どちらとも言えない26か所、不明4か所であった。実現が困難な要因は、マンパワー不足が37か所(61%)と多数を占めた。その他の要因は文書判定が主なので直接判定に対するはがき送付は馴染まない、判定機関である更生相談所がフォローアップをする法的根拠がないなどがあげられた。令和6年度の補装具費支給事務取扱指針にフォローアップの重要性が追記されたことは成果のひとつである。④北九州市の補装具管理手帳の有用性は高いが、さらなる普及を図るためには工夫が必要と考えた。補装具に関する研修会は継続して実施し、補装具制度やフォローアップの必要性の認識を広める必要がある。
(2)医療機関:回復期リハビリテーション病院では、退院後の外来診療が実施しにくい現状があり、制度上の改善や関係機関との連携が求められた。訪問リハビリテーションを受けている脳卒中患者を対象とした下肢装具に関する調査結果は、下肢装具を退院前に作製した経験があるものが約40%、このうち現在下肢装具を使用しているものは約70%であった。2回目以降作製した経験があるのは15%で、このうち治療用装具が80%、更生用装具が20%であった。
(3)利用者啓発・支援:➀義手ユーザーのための情報基盤として、義手ミーティングをハイブリッド形式で開催し、150名以上が参加した。専門職に情報ニーズが大きいこと、回を重ねるごとに情報が浸透してきていることを確認した。義足ユーザーを対象にしたウォーキング練習会は毎回3~6名のユーザーが参加し、運動療法士を講師として義足歩行での基礎トレーニングを行った。義足利用者の歩行能力のフォローアップとして有効であることを確認した。➁利用者自身に補装具の破損や不適合に気付いてもらう、という観点から医療安全における「患者参加型医療」の考え方を参考にし、「補装具の効果的なフォローアップのために-自分で気付こう!義肢や装具の破損や不適合」のパンフレット(A4版4ページ)を制作した。その結果、障害当事者だけでなく、医療、福祉の専門職にも役立ちうる内容となった。③スマホアプリの試作に関しては、利用者自身がスマホを用いて自己点検を行い、破損や不適合に早期に気付いてもらうことができる可能性があると考える。
結論
本研究では補装具のフォローアップに関する実態調査と、課題解決のための具体的な方策をまとめることができた。補装具のフォローアップとは補装具自体の損耗、不具合だけをみるのではなく、支給された補装具によって、利用者の生活スタイルの変化、活動性の向上が得られたかを確認していく働きかけでもある。補装具のフォローアップのシステムが各地域の規模や資源の有無等により異なってくることはやむを得ないが、そうしたシステムを確立することの必要性と仕組みづくりを率先して行う実行性を更生相談所には期待したい。

公開日・更新日

公開日
2024-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2024-06-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202317012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)研究成果:補装具フォローアップは、利用者本人を含めた多職種・多機関による多層的な仕組みの構築が必要である。本研究で具体的なフォローアップ手段を提示するとともにその有効性を検証した。
(2)意義:補装具管理手帳やチラシの配布、利用者向けのパンフレット作成、研修会等の実施を継続した。また、フォローアップに関して、利用者自身や行政、医療機関など関係各所が目指すべき姿をまとめて示したことは、社会的な意義があったと考える。
臨床的観点からの成果
(1)研究成果:補装具を利用する当事者を含めた第5回義手ミーティング、専門職を中心とした研究成果を報告する第4回のシンポジウムを開催した。また日本リハビリテーション医学会や日本義肢装具学会等において一般口演やシンポジウムで義肢装具のフォローアップに関する発表をする機会を得た。
(2)意義:補装具のフォローアップの重要性の認識がさらに高まり、障害者総合支援法で支給された補装具が適切に、かつ継続的に使用されれば、利用者の利便性向上に直結するとともに、公費の効率的な運用にもつながる。
ガイドライン等の開発
特に診療ガイドラインに関係する内容ではない。
しかし、有効性のある補装具フォローアップの具体的手段とモデルを提示することができた。研修会の資料などは公開されており、どの地域・機関においても利用してもらうことが可能である。
その他行政的観点からの成果
補装具管理手帳やチラシ、パンフレット等は簡単に利用可能なものとしており、意欲のある自治体・機関であればすぐに利用可能である。また、フォローアップの必要性や補装具制度の知識に関する研修は継続して開催することが重要であり、資料も利用可能となっている。また、令和6年度の補装具費支給事務取扱指針に補装具のフォローアップの重要性が追記されたことは大きな成果である。
その他のインパクト
補装具費支給制度等におけるフォローアップ体制の有効性検証のための研究(22GC1010)として、継続した研究を実施した。令和5年度にも第4回の補装具の効果的なフォローアップに関するシンポジウムを開催し、研究成果を報告した。また、「義手オンラインミーティング」も第5回目を開催した。各回多くの参加者があり、本テーマへの関心や問題意識の高さが感じられた。本研究の成果であるフォローアップを行うための具体的な手段・方策はホームページ上にアップロードしている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
令和6年度の補装具費支給事務取扱指針に補装具のフォローアップの重要性が明記された。
その他成果(普及・啓発活動)
5件
シンポジウム開催1件、ホームページ1件、研修会5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-06-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
202317012Z