精神科医療機関における包括的支援マネジメントの普及に向けた精神保健医療福祉に関わるサービスの提供体制構築に資する研究

文献情報

文献番号
202317005A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科医療機関における包括的支援マネジメントの普及に向けた精神保健医療福祉に関わるサービスの提供体制構築に資する研究
課題番号
22GC1003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 光爾(東洋大学 ライフデザイン学部生活支援学科生活支援学専攻)
  • 岡村 泰(地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立松沢病院 精神科)
  • 佐藤 さやか(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
9,347,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、包括的支援マネジメントの普及に向けて、入院ケースマネジメントや外来のケースマネジメント、医福連携に関する調査および関連する啓発活動などに取り組んでいる。本年度は、①7精神科病院の入院期間3ヵ月以内の退院患者を対象としたスクリーニング調査、②療養生活継続支援加算の普及状況に関する実態調査、③障害副福祉事業所を対象とした医福連携に関する調査、④入院ケアにおける入院ケースマネジメントとアウトカムとの関連を検証する調査、⑤調査知見を効果的に伝えるウェブサイトの調査を実施した。
研究方法
①7精神科病院の入院期間3ヵ月以内の退院患者を対象としたスクリーニング調査は後ろ向きデザイン、②療養生活継続支援加算の普及状況に関する実態調査、③障害副福祉事業所を対象とした医福連携に関する調査は横断デザイン、④入院ケアにおける入院ケースマネジメントとアウトカムとの関連を検証する調査は介入デザイン、⑤⑤調査知見を効果的に伝えるウェブサイトの調査は質問紙を用いたオンライン調査で実施した。
結果と考察
①スクリーニング調査:7精神科病院の退院患者(n=210)が対象となり、入院中にケースマネージャーによる支援を受けていた者は97.1%であったが、精神科退院時共同指導料2の算定があった対象者は5名(2.4%)であった。外来または退院後の生活におけるケースマネージャーがいる対象者は61.0%であったが、療養生活継続支援加算について算定予定あった者は18名(8.6%)、そして不明(まだわからない・検討中)が20名(9.5%)であった。
②療養生活継続支援加算の普及状況に関する実態調査:79機関を分析対象とした。療養生活継続支援加算の平均算定実績人数は20.9人であった。調査からは、ケースロード数や地域ケアの課題、連携時期や担当者の忙しさなどが困難として挙げられた。ケースについてよく知る人は、日頃から直接支援を提供する機関のスタッフであることも示唆された。
③障害副福祉事業所を対象とした医福連携に関する調査:計画相談支援事業所と障害福祉サービス事業所を対象にアンケート調査を行った。精神障害者への包括的支援マネジメントに対する高いニーズが明らかになり、42.0%が「とても必要」と、35.9%が「やや必要」と回答した。しかし、報酬的な理由から実施が困難であるとも指摘された。また、緊急時の対応について、医療系機関が主導することが多いとの結果が得られた。
④入院ケアにおける入院ケースマネジメントとアウトカムとの関連
●東京都立松沢病院:松沢病院での入院治療において、集中的ケースマネジメント(ICM)を用いた評価と治療を導入し、1年後の長期評価を行った。対照群(n=8)と比較し、ICM群(n=12)では機能評価と生活の質の得点で改善を示した。
●地方公立病院:精神科救急病棟における入院ケアにおける包括的支援マネジメント(HICM)について、HICMを提供した群(介入群:54名)と対照群(146名)の入院期間と影響する因子を検証した。HICM群の入院期間は短かった(P=0.048)。
⑤研究班の知見を国民に効果的に知らせるウェブサイトの開発
本分担研究は、研究知見を効果的に知らせるWebサイトの作成のために、先行するWebサイト「こころとくらし」(https://cocokura.ncnp.go.jp/)で閲覧者にアンケートを行った。この結果、当事者と家族は比較的専門性が高い知識であってもこれらに触れたい、詳しく知りたいというニーズを持っており、専門職側には常に情報のアップデートが必要であることが示唆された。
結論
各調査から、包括的支援マネジメントや医福連携に関する実態やアウトカムとの関連が報告された。医療機関におけるスクリーニング調査および実態調査から、外来におけるケースマネジメントに関する新しい診療報酬「精神科退院時共同指導料」と「療養生活継続支援加算」については、算定実績のある機関が未だに少なく、加算自体の周知と適切な運用方法の明確化、そして単価の増額など現場で利用しやすい加算となるような制度改正のニーズがあった。障害福祉事業所も外来同行の報酬化や外来ケア会議参加への報酬化などアウトリーチを伴う支援は課題として認識していた。精神障害の特性の一つである、「支援につながりにくい」患者に対して、誰が責任をもって支援をするかについては、今後の大きな課題になると予想される。

公開日・更新日

公開日
2024-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202317005Z