大規模疫学研究データと診療報酬明細書(レセプト)データを用いた一般住民における入院外統合失調症及び統合失調症関連障害の有病率推定方法の開発

文献情報

文献番号
202317004A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模疫学研究データと診療報酬明細書(レセプト)データを用いた一般住民における入院外統合失調症及び統合失調症関連障害の有病率推定方法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
21GC1018
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
太田 充彦(藤田医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田 仲生(藤田医科大学 医学部)
  • 谷原 真一(久留米大学 医学部)
  • 岸 太郎(藤田医科大学 医学部)
  • 松永 眞章(藤田医科大学 医学部)
  • 李 媛英(リ エンエイ)(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • He Yupeng(ホー ウホウ)(藤田医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
4,985,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最終年度である本年度は、昨年度までに開発した統合失調症判別モデルを一般住民に適用して日本の地域住民における統合失調症等の有病率を推計すること、診療報酬明細書(レセプト)データを使用して統合失調症受療率を推計すること、これらの推計値から日本の一般住民における入院外の統合失調症等の有病率を推計することを目的とした。
研究方法
精神科医によって統合失調症(61人)、大うつ病性障害(56人)、双極性障害(32人)、強迫性障害(1人)と診断された精神科外来患者を対象として、我々が開発した統合失調症判別モデルの外的妥当性を評価した。
大規模疫学研究データを用いて推計した統合失調症有病率を求めるため、この統合失調症判別モデルを日本の人口構成比に合わせた750人の一般住民サンプルに適用した。モデルの妥当性などを参考にして統合失調症と誤判定された者を除き、統合失調症ではないと誤判定された者を加えて、日本の一般住民における統合失調症等の有病率を推計した。
大規模な健保組合データベース(2020年4月~2022年3月診療分レセプト)を用いて統合失調症等の受療率を算出した。当該期間に少なくとも1か月以上被保険者本人あるいは家族であった者の総数は1156万3008人であった。文字列に「統合失調」を含む標準病名が少なくとも一度記載されたレセプトを期間中に少なくとも1件有する者を統合失調症を有する者とし、受療率を計算した。この受療率に対して、レセプト傷病名「統合失調症」の陽性的中率(41.3%)や、患者調査における「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」の受療率の入院・外来比(2.83:1)を調整し、レセプトデータベースに基づいて統合失調症受療率の入院部分を推計した。
「日本の一般住民における入院外の統合失調症等有病率=大規模疫学研究データを用いて推計した統合失調症有病率-レセプトデータを用いて推定した統合失調症受療率の入院部分」として、最終的に日本の一般住民における入院外の統合失調症等の有病率を推計した。
結果と考察
統合失調症判別モデルの外的妥当性として、感度は0.75、特異度は0.44であった。大うつ病性障害・双極性障害を有する者のそれぞれ55%・59%を統合失調症と誤判定した。
統合失調症判別モデルを一般住民サンプルに適用した結果、62人が統合失調症と判定された。ここからこれまでの生涯にわたって精神障害を有してない者とうつ病・双極性障害を有する者において統合失調症と誤判定された者を取り除いた9.0人が真に統合失調症を有すると判断した。また、この数字から、統合失調症を有するが判定モデルでは統合失調症を有さないと判定された者が2.9人いると推計した。この2つの合計11.9人、すなわち1.59%(95%信頼区間:0.69 – 2.48%)が日本の地域住民における統合失調症等有病率であると推計した。
レセプトデータにおいては、統合失調症と判定された者が13万4013人で、受療率は1.16%と推計された。これにレセプト傷病名「統合失調症」の陽性的中率を掛けた0.48%が真に統合失調症を有する者と判断した。さらに統合失調症等の受療率の入院・外来比を当てはめると、入院部分は0.35%、外来部分は0.13%となった。
最終的に、日本の一般住民における入院外の統合失調症有病率は1.24%(= 1.59% – 0.35%)と推定された。
自己申告に基づいて精神障害や統合失調症の有病率を調査すると、スティグマや病識の欠如などの理由で過小評価される研究上の限界がある。自己申告に基づかない方法によって統合失調症等の有病率を評価することができたという点は一定の価値があると考える。その一方で、大規模疫学研究データでは時点有病率ではなく生涯有病率を推計している可能性があること、被用者とその家族が加入する健康保険である健康保険組合レセプトデータに基づいて推計した統合失調症受療率は労働者ではない者がより多く含まれる一般住民に比べて統合失調症の有病率が低く過小評価された可能性があることといった研究の限界があり、日本の一般住民における入院外の統合失調症有病率を過大評価している可能性も考えられる。
結論
大規模疫学研究データとレセプトデータを用いて一般住民における入院外統合失調症等の有病率を推定する方法を開発し、日本の一般住民における入院外の統合失調症有病率を1.24%と推定した。自己申告に基づかない有病率推定方法を確立したが、有病率を過大評価している可能性も考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202317004B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模疫学研究データと診療報酬明細書(レセプト)データを用いた一般住民における入院外統合失調症及び統合失調症関連障害の有病率推定方法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
21GC1018
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
太田 充彦(藤田医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田 仲生(藤田医科大学 医学部)
  • 谷原 真一(久留米大学 医学部)
  • 岸 太郎(藤田医科大学 医学部)
  • 松永 眞章(藤田医科大学 医学部)
  • 李 媛英(リ エンエイ)(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • He Yupeng(ホー ウホウ)(藤田医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者・李媛英の所属機関変更:令和5年から、藤田医科大学から名古屋大学に変更。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は日本における統合失調症等の有病率を大規模疫学研究やレセプトデータを用いて推定する方法を開発することを目的とした。
研究方法
疫学研究で得られた個人特性と身体的・精神的・社会的併存症状のデータを当てはめて統合失調症を判別するモデルを機械学習を利用して開発した。モデル開発に必要なデータを選定するために、国内外の文献レビューを行った。その後、統合失調症を有する223人と精神障害を有さない1776人を対象としたインターネット調査を行い、このデータを利用して統合失調症判別モデルを作成した。この統合失調症判別モデルを日本の人口構成比に合わせた750人の一般住民サンプルに適用した。モデルの妥当性(感度、特異度、誤診率など)を参考にして統合失調症と誤判定された者を除き、統合失調症ではないと誤判定された者を加えて、日本の一般住民における統合失調症等の有病率を推計した。
レセプトデータで統合失調症等有病率を推定するための予備調査として、レセプトデータに含まれない生活保護受給者の影響を調べるため、生活保護受給者かつ統合失調症による医療扶助を受けている者の割合を求めた。次いで、約55万件からなる大規模レセプトデータベースから「統合失調」という文字列を含む傷病名を全て抽出し、各傷病名の分布を算出した。さらに、精神科入院患者987人のレセプトデータをもとに、傷病名「統合失調症」の陽性的中率等を算出した。本調査として、約1160万人分の健保組合データベースを調査し、文字列に「統合失調」を含む標準病名が記載されたレセプトを有する者を統合失調症を有する者として受療率を計算した。これにレセプト傷病名「統合失調症」の陽性的中率と統合失調症等の受療率の入院・外来比を当てはめ、レセプトデータを用いて推定した統合失調症受療率の入院部分を算出した。
「日本の一般住民における入院外の統合失調症等有病率=大規模疫学研究データを用いて推計した統合失調症有病率-レセプトデータを用いて推定した統合失調症受療率の入院部分」として、最終的に日本の一般住民における入院外の統合失調症等の有病率を推計した。
結果と考察
文献レビューとインターネット調査の結果から、統合失調症を有する人において頻度の高い個人特性と身体的・精神的・社会的併存症状が明らかになった。インターネット調査データを用いて作成した統合失調症判別モデルは、睡眠薬の使用、年齢、世帯収入、雇用形態が変数の重要度の上位4 位を占めた。同モデルの内的妥当性の評価として、感度は0.56、特異度は0.97であった。精神科患者を対象とした外的妥当性として、感度は0.75、特異度は0.44であった。大うつ病性障害・双極性障害を有する者のそれぞれ55%・59%を統合失調症と誤判定した。統合失調症判別モデルを一般住民サンプルに適用したところ、妥当性調査結果に基づいて誤判定者を調整した後に、日本の地域住民における統合失調症等有病率は1.59%と推計された。
レセプトデータに関する予備調査として、統合失調症患者において生活保護受給者かつ統合失調症による医療扶助を受けている者が占める割合は3~5%程度にとどまると推定された。レセプト傷病名の一部に「統合失調」を含む傷病名で最も多かったのは統合失調症(93.7%)であった。精神科入院患者を対象としたレセプト傷病名「統合失調症」の陽性的中率は41.3%であった。本調査の結果、統合失調症受療率は1.16%と推計された。これに対してレセプト傷病名「統合失調症」の陽性的中率と統合失調症等の受療率の入院・外来比を調整し、最終的にその入院部分は0.35%と推計された。
果たして日本の一般住民における入院外の統合失調症有病率は1.24%(= 1.59% – 0.35%)と推定された。
有病率の過小評価の原因となる自己申告に基づかない方法によって統合失調症等の有病率を評価することができたという点は一定の価値がある。その一方で、大規模疫学研究データでは時点有病率ではなく生涯有病率を推計している可能性があることや、健康保険組合レセプトデータ加入者(被用者とその家族)の特性から、本研究では日本の一般住民における入院外の統合失調症有病率を過大評価している可能性も考えられる。
結論
大規模疫学研究データとレセプトデータを用いて一般住民における入院外統合失調症等の有病率を推定する方法を開発し、日本の一般住民における入院外の統合失調症有病率を1.24%と推定した。自己申告に基づかない有病率推定方法を確立したが、有病率を過大評価している可能性も考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202317004C

収支報告書

文献番号
202317004Z