共生に向けた認知症早期発見・早期介入実証プロジェクト研究

文献情報

文献番号
202316010A
報告書区分
総括
研究課題名
共生に向けた認知症早期発見・早期介入実証プロジェクト研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GB2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 秀典(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター )
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井 孝(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 研究所)
  • 島田 裕之(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 研究所老年学・社会科学研究センター)
  • 中村 昭範(国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター 脳機能画像診断開発部)
  • 寳澤 篤(国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 浦上 克哉(鳥取大学医学部認知症予防学)
  • 牧迫 飛雄馬(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系)
  • 大田 秀隆(秋田大学 高齢者医療先端研究センター)
  • 古和 久朋(神戸大学 大学院保健学研究科)
  • 小野 玲(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 身体活動研究部)
  • 井平 光(札幌医科大学 保健医療学部理学療法学科)
  • 藤原 佳典(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 鈴木 宏幸(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
  • 斎藤 民(国立長寿医療研究センター 老年社会科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
384,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 認知症予防には早期発見・早期介入が不可欠であるが、標準的なフローは確立されていない。近年、アルツハイマー病(AD)病理を有する軽度認知障害(MCI)や軽度認知症を対象とした疾患修飾薬が登場し、早期発見の重要性が増している。本研究では、本人・家族の視点を重視した日本独自の早期発見・介入モデルの確立を目的に大規模実証を行った。
研究方法
 本研究は以下の3つのStepにより、認知症の早期発見から早期介入までのフローを検証し、全国展開に向けた基盤整備を行った。
 Step1では、全国40自治体でリクルート、スクリーニング、受診推奨方法を検討し(1-1)、これらが早期介入につながったかを確認した(1-2)。
 Step2では、愛知・宮城フィールドにて、スクリーニング検査の標準化に向けた検討(2-1)と、スクリーニング検査の信頼性を確認するため、血液バイオマーカーと既存のスクリーニング検査の関連を検討した(2-2)。また、愛知フィールドでは、血液バイオマーカー検査による早期診断支援(2-3)と、診断レポートシステムの構築(2-4)を行った。
 Step3では、全国展開に向けた自治体向けの手引きのプロトタイプを作成した。
結果と考察
 全国40自治体から13,871名(令和7年3月31日時点)の協力を得て、認知症早期発見・早期介入モデルを検証した。
 Step1では、リクルート方法、スクリーニング検査の実施方法、受診推奨方法について検証した。
 リクルート方法は、不特定多数の住民を対象としたポスター掲示や新聞折り込み等が0.003~2.4%の受検率であったのに対して、ダイレクトメールでは4.7~15.7%、事業内での声かけでは15.1~92.6%と高く、個別性の高い、「人を介した」手法の有効性が示唆された。
 スクリーニング検査は、非会場型ではデバイス操作の困難さや途中離脱が課題となった一方、会場型ではスタッフ支援が可能である反面、運営負担の大きさが課題として明らかとなった。また、冬季の凍結時の転倒リスク、交通手段の制約がある地域では、非会場型の必要性が指摘された。
 国立長寿医療研究センターが19自治体を対象に実施した追跡調査の結果では、精密検査の受診率は7.3%にとどまった。受診しなかった理由として「健康状態に自信があり、自分には必要ないと感じたから」が最も多く、認知機能低下に対する自己認識との乖離が受診率の低さに影響している可能性が示唆された。受診推奨の方法としては、研究スタッフや保健師による架電、訪問、面談など「人を介した」介入の有効性が示唆された(11.6~12.5%)。一方で、都市部では詐欺等への警戒感から電話推奨が困難という課題もあった。また、複数のフィールドから、認知症診断への不安やスティグマにより受検や受診をためらう声も聞かれ、心理的抵抗感への配慮や啓発活動の重要性が示された。
 Step2では、スクリーニング検査の標準化に向けて、既存の対面式検査であるMMSE-J 23点以下(認知症疑い)との関連を検討した結果、非対面式のWeb版NCGG-FATにおいても認知機能低下のスクリーニングが可能であることが示唆された。また、MMSE-JやWeb版NCGG-FATは血液バイオマーカーとの関連も認めた。
 血液バイオマーカー検査については、Aβ42/40とpTau217がアルツハイマー病理の有無をかなり高い精度(AUC=90%)で推定可能であり、さらに、NfLやGFAPは、認知機能低下や認知症進行リスクの推定の鋭敏な指標として有用であった。地域スクリーニングと医療の橋渡しにおけるバイオマーカーとそのレポートシステムの有効性が示唆された。
 Step3では、手引き作成に先立ち、全国自治体への調査や好事例(神戸市、松戸市、文京区)のヒアリングを実施した。結果、約4割の自治体が認知症リスクの早期発見に関する事業を実施していた。実施の阻害要因としては人員や費用の確保が課題と判明した。手引きでは、事業の意義や手順、好事例を紹介した。今後は、Step1および2の結果や、現場の意見を取り入れた内容の改訂を予定している。
結論
 本研究を通じて明らかになった最大の課題は、病識が乏しい対象者をいかにリクルートし、スクリーニングから受診へつなげるかという点である。今後は、受診推奨手法の見直しに加え、自発性や病識に依存しないリクルート体制と受診支援のあり方を検討する必要がある。また、「人を介した支援」は有効であるが、保健師等の人員には限りがあり、限られた資源で介入を可能にする仕組みが必要である。さらに、当事者のみならず、家族や地域社会を巻き込んだ啓発活動の強化も重要である。
 以上の課題を踏まえ、より実効性のある認知症リスクの早期発見・早期介入モデルの確立を目指す。

公開日・更新日

公開日
2025-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-05-22
更新日
2025-05-27

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202316010C

収支報告書

文献番号
202316010Z