文献情報
文献番号
202316005A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症診療医のための「特発性正常圧水頭症の鑑別診断とアルツハイマー病併存診断、および診療連携構築のための実践的手引き書と検査解説ビデオ」作成研究
課題番号
22GB1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
数井 裕光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
研究分担者(所属機関)
- 伊関 千書(東北大学病院 リハビリテーション部)
- 中島 円(順天堂大学 医学部)
- 鐘本 英輝(大阪大学 大学院医学系研究科)
- 森 悦朗(大阪大学大学院 連合小児発達学研究科寄附講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
8,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症診療医が、iNPH患者に対する診療を適切に実施し、脳神経外科施設と円滑に連携できるようにするために「特発性正常圧水頭症(iNPH)と類似疾患との鑑別診断、および併存診断と治療、診療連携構築のための実践的手引き書(以下手引き書と略す)」と「タップテスト解説ビデオ」それぞれの初版を作成する。
研究方法
当初の研究計画に従って、手引き書に記載する以下の項目、すなわち「①iNPHと鑑別が必要な疾患との鑑別診断法と併存疾患診断法」、「②iNPHを疑う患者へのタップテストの実施手順」、「③シャント術関連知見と術後の診療における留意点」、「④認知症診療医と脳神経外科医との円滑な診療連携構築に役立つ知見」に関して、初年度に文献レビューを行った。その結果をふまえて、今年度はそれぞれの部分についての文章、図表を作成した。また十分な文献がなかった②と④については独自調査を行った。また並行して実施しているSINPHONI-3研究についてはこれを継続した。
結果と考察
手引き書作成に関して、①については、アルツハイマー病(AD)、レビー小体病(LBD)、血管性認知症をとりあげ、前2者については鑑別診断/併存診断アルゴリズムを作成した。その中でADの併存診断には、CSFバイオマーカー(βアミロイド、リン酸化タウ蛋白)が有用であること、iNPHあるいはDESHがある場合、脳脊髄液循環障害により、腰椎穿刺でのCSFバイオマーカーが低値傾向を示すため、定量値の解釈は慎重にすべきであることを記載した。LBDとの鑑別/併存診断にはMIBG心筋シンチグラフィが特異度が高く優先されること、DaTスキャンでは他のパーキンソン症候群と同様に、iNPHでも高度ではないものの線条体の集積低下が認められ、また側脳室拡大が集積の定量値に及ぼす影響にも考慮が必要であることを記載した。②に関しては、我が国の専門医療機関で実施されているタップテスト方法の詳細を、日本正常圧水頭症学会員を対象にアンケート調査した。有効回答数は110件で、ほとんどの施設でタップ当日から1週間以内にタップ前後の評価を実施し、歩行障害はタップ前は1回、タップ後は2回以上、認知障害はタップ前後ともに1回ずつの評価をしている施設が多いことが明らかになった。これらの知見を含めて、タップテスト実施手順解説ビデオを作成した。③については、シャント術適応例を選択するためのチェックリストと手術手技を選択するためのフローチャートを作成した。さらに併存疾患を有するiNPH例も含めたシャント術の有効性をまとめた。シャント術後の診療の留意点については、少なくとも2-3ヶ月毎の定期的な外来通院が必要で、神経症候の観察のほか、脳室、高位円葢部の脳溝や脳梁角の変化を頭部CTやMRI検査で確認し、シャントバルブの設定圧を調整することが重要であることを記載した。④については、我が国の脳神経外科施設1220に対して、全国規模のアンケート調査を行い、iNPHに対するシャント術の実施状況、iNPHに対するシャント術に消極的になる患者の特徴を明らかにした。これらの結果も参考にして、脳神経外科施設でのシャント術実施を促進するためには、「シャント術を多く実施している脳神経外科施設に紹介する」、「本人や家族がシャント術を希望する在宅患者、85歳未満、DESHを有する、重大な身体疾患、統合失調症、アルツハイマー病の併存がない患者を紹介する」、「脳神経外科施設に紹介する前にタップテストを実施し、3徴のいずれかが改善したことを示す検査データを明記した紹介状を作成する」ことが有用であることを記載した。文献レビューを通して、本手引き書を作成するためのエビデンスが不足していることが明らかになった。また2つの独自調査では重要な知見が得られたと思った。
以上の4項目を手引き書にまとめる作業を行ったが、その過程で、iNPH診療ガイドライン第3版の診断アルゴリズムとiNPH診療に重要なDESHを解説する項目を最初に追加した方が読者の理解が促進するとの協議がなされて、手引き書の構成をこのように修正した。SINPHONI-3については、新規の患者登録を終了し、2年間の経過観察を継続している。
以上の4項目を手引き書にまとめる作業を行ったが、その過程で、iNPH診療ガイドライン第3版の診断アルゴリズムとiNPH診療に重要なDESHを解説する項目を最初に追加した方が読者の理解が促進するとの協議がなされて、手引き書の構成をこのように修正した。SINPHONI-3については、新規の患者登録を終了し、2年間の経過観察を継続している。
結論
今年度、調査・検討した結果をまとめて「手引き書」と「タップテスト解説ビデオ」それぞれの初版を作成した。来年度は、SINPHONI-3の中間解析結果を加えた後に、班内、日本正常圧水頭症学会、日本認知症学会等の関連学会の会員から意見聴取を行い、この意見に基づきブラッシュアップを繰り返して、完成させる。完成後は、日本正常圧水頭症学会等の公的ホームページで公開すると共に、印刷物として全国の認知症疾患医療センター等に配布する。
公開日・更新日
公開日
2024-06-12
更新日
-