要介護高齢者等への医療ニーズを把握する指標の開発研究

文献情報

文献番号
202315010A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護高齢者等への医療ニーズを把握する指標の開発研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21GA2002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 村松 圭司(産業医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 野元 由美(米田 由美)(学校法人産業医科大学 産業保健学部)
  • 藤本 賢治(産業医科大学産業保健データサイエンスセンター)
  • 劉 寧(リュウ ネイ)(産業医科大学 医学部)
  • 松垣 竜太郎(産業医科大学 医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
松垣竜太郎 医学部公衆衛生学から産業生態科学研究所に配置換え(令和5年9月)

研究報告書(概要版)

研究目的
社会の高齢化により、医療と介護の複合ニーズを持った高齢者が増加している。介護の現場で発生する急性期イベントは、その後の要介護度の悪化につながり、療養生活の質と社会保障財政の両面で負の影響をもたらす。この問題に対応するために、介護の現場における慢性期医療のニーズを把握し、それに適切に対応できる仕組みが必要となっている。本研究ではこの課題に対応するために、介護の現場における医療ニーズの現状とその対応方法について検討を行った。
研究方法
本研究では以下の2つの分析を行った。
(1) 医療及び介護レセプトを用いた分析
東日本の一自治体の2014年4月から2022年3月までの医科レセプト及び介護レセプトについて、匿名加工した個人IDを用いて、二つのレセプト情報を個人単位で連結し、データベース化した。このデータベースから各年度10月分のデータを抽出し、要介護高齢者における主な傷病の有病率を区別、男女別、要介護度別に求めた。
(2)  在宅要介護高齢者のサービス利用パターンの分析
東日本の一自治体において2016年4月から2017年3月までに、要介護認定を受けた者の介護認定調査票、医科レセプト及び介護レセプトである。匿名加工した個人IDを用いて、三つの情報を個人単位で連結し、データベース化した。判定後のサービスの利用状況は、判定後サービス開始までのタイムラグを考慮して、2か月後の介護レセプトを用いて把握した。また、主な傷病の状況についても、2か月後の医科レセプトを用いて把握した。
このようにして構築したデータベースを用いて、2つの分析を行った。まず、区別、性年齢階級別、要介護度別、認定調査票で判定されたADL/IADLのレベル別、医科レセプトから把握された主な傷病の有無別に、在宅介護サービスの利用状況を、一人当たり介護給付費で分析した。次いで、訪問介護、訪問看護、通所介護、通所リハビリテーション、看護多機能型居宅介護、特定施設介護、ショートステイ(短期入所生活介護、短期入所療養介護)の利用単位数を目的変数、要介護度、年齢階級、性別、認定調査票から把握される主なADL/IADLの自立度、医科レセプトから把握される主な傷病の有病率を説明変数として、各サービスの利用量に関連する要因を多変量線形回帰分析によって検討した。
結果と考察
(1) 医療及び介護レセプトを用いた分析: 分析対象となった要介護高齢者は2014年10月の94,650人から2022年10月の121,160人に増加していた(1.28倍)。主な傷病の有病率をみると糖尿病(33.5%→36.6%)、腎不全(7.7%→10.0%)、心不全(25.5%→31.9%)、骨折(11.5%→15.0%)、認知症(29.7%→31.1%)、悪性腫瘍(17.5%→18.4%)、貧血(17.3%→19.4%)は増加しており、虚血性心疾患(25.0%→21.1%)、脳梗塞(15.9%→15.0%)は減少していた。高血圧性疾患は観察期間を通して66%前後で変化はなかった。要介護度別、男女別の分析結果もほぼ同様の傾向を示した。
(2) 在宅要介護高齢者のサービス利用パターンの分析: 在宅サービスの提供量は要介護度、年齢階級が高くなるほど増加していた。男女別では、要介護度別に見ても女性で提供単位数が多かった。ただし、サービス内容を見ると、要介護度が高くなると通所リハビリテーション、通所介護、地域密着型通所介護の提供量が少なくなる傾向が観察された。また、ADL/IADLの自立度とサービス提供量及びサービス提供パターンとの間には関連が観察された。具体的にはいずれも自立度が低くなるにつれて、サービス提供量は増加していた。ただし、通所介護、通所リハビリテーションなどの通所系は、自立度が低くなるにつれて提供量が減少する傾向が観察された。主な傷病の有無との関係では、心不全や腎不全、悪性腫瘍のように日常的な医学的管理が必要な傷病を有する高齢者については訪問看護の提供量が多くなっていた。ただし、こうした疾患を持つ高齢者では総単位数は減少していた。他方、骨折や脳血管障害のようにリハビリテーションが重要な傷病を持つ高齢者については、通所リハビリテーションの提供量が多くなっていた。
結論
以上の結果より、現行の介護保険制度においては、利用者の状態に応じたサービスの提供が行われていることが示唆された。また、この結果を用いて、アセスメント結果から適切なサービスを選択するためのロジック作成の必要性が示された。

公開日・更新日

公開日
2025-05-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202315010B
報告書区分
総合
研究課題名
要介護高齢者等への医療ニーズを把握する指標の開発研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21GA2002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 村松 圭司(産業医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 野元 由美(米田 由美)(学校法人産業医科大学 産業保健学部)
  • 藤本 賢治(産業医科大学産業保健データサイエンスセンター)
  • 劉 寧(リュウ ネイ)(産業医科大学 医学部)
  • 松垣 竜太郎(産業医科大学 医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
松垣竜太郎 医学部公衆衛生学教室から産業生態科学研究所に配置換え(令和5年9月)

研究報告書(概要版)

研究目的
社会の高齢化により、医療と介護の複合ニーズを持った高齢者が増加している。介護の現場で発生する急性期イベントは、その後の要介護度の悪化につながり、療養生活の質と社会保障財政の両面で負の影響をもたらす。この問題に対応するために、介護の現場における慢性期医療のニーズを把握し、それに適切に対応できる仕組みが必要となっている。本研究ではこの課題に対応するために、介護の現場における医療ニーズの現状とその対応方法について検討を行った。
研究方法
本研究で行った3つの主な研究についてここでは記述する。
(1) 急性期イベント発生前後における要介護高齢者の医療・介護給付費の変化に関する分析:後期高齢者医療制度のレセプト及び介護レセプトを個人単位で連結しデータベース化した。そして、2016年5月から2019年3月までの1年間で、脳梗塞、股関節骨折、心不全、誤嚥性肺炎、肺炎でDPC対象病院に入院した者をDPCレセプトで把握し、このうち入院1か月前に介護保険のサービスを利用していた者に限定して、入院1か月前から入院11か月後までの医療費及び介護給付費を算出した。 
(2)  医療及び介護レセプトを用いた分析:東日本の一自治体の2014年4月から2022年3月までの医科レセプト及び介護レセプトについて、匿名加工した個人IDを用いて、二つのレセプト情報を個人単位で連結し、データベース化した。このデータベースから各年度10月分のデータを抽出し、要介護高齢者における主な傷病の有病率を区別、男女別、要介護度別に求めた。
(3) 在宅要介護高齢者のサービス利用パターンの分析: 東日本の一自治体において2016年4月から2017年3月までに、要介護認定を受けた者の介護認定調査票、医科レセプト及び介護レセプトである。匿名加工した個人IDを用いて、三つの情報を個人単位で連結し、データベース化した。判定後のサービスの利用状況は、判定後サービス開始までのタイムラグを考慮して、2か月後の介護レセプトを用いて把握した。また、介護保険各サービスの利用量に関連する要因を多変量線形回帰分析で検討した。
結果と考察
(1) 急性期イベント発生前後における要介護高齢者の医療・介護給付費の変化に関する分析:要介護状態にある高齢者が脳梗塞、股関節骨折、心不全、肺炎、誤嚥性肺炎、尿路感染症でDPC対象病院に入院した場合、一人当たり介護給付費はいずれの傷病でも入院11か月後に有意に増加していること、一人当たり医療費は脳梗塞は増加、尿路感染症は減少するが、その他の4疾患はほぼ同じレベルに戻ることが明らかとなった。以上より、介護の現場における慢性期の医療ニーズへ適切な予防的対応は、対象者の療養生活の質の維持向上と医療保険財政及び介護保険財政の適正化に資すると結論された。
(2) 医療及び介護レセプトを用いた分析: 分析対象となった要介護高齢者は2014年10月の94,650人から2022年10月の121,160人に増加していた(1.28倍)。主な傷病の有病率をみると糖尿病(33.5%→36.6%)、腎不全(7.7%→10.0%)、心不全(25.5%→31.9%)、骨折(11.5%→15.0%)、などは増加しており、虚血性心疾患(25.0%→21.1%)、脳梗塞(15.9%→15.0%)は減少していた。
(3) 在宅要介護高齢者のサービス利用パターンの分析: 在宅サービスの提供量は要介護度、年齢階級が高くなるほど増加していた。男女別では、要介護度別に見ても女性で提供単位数が多かった。ただし、サービス内容を見ると、要介護度が高くなると通所リハビリテーション、通所介護、地域密着型通所介護の提供量が少なくなる傾向が観察された。また、ADL/IADLの自立度とサービス提供量及びサービス提供パターンとの間には関連が観察された。具体的にはいずれも自立度が低くなるにつれて、サービス提供量は増加していた。ただし、通所介護、通所リハビリテーションなどの通所系は、自立度が低くなるにつれて提供量が減少する傾向が観察された。主な傷病の有無との関係では、心不全や腎不全、悪性腫瘍のように日常的な医学的管理が必要な傷病を有する高齢者については訪問看護の提供量が多くなっていた。
結論
 医療及び介護レセプトを連結して分析することで、介護現場における医療ニーズを時系列で把握することが可能であることが示された。要介護高齢者は複数の慢性疾患を持ち、それをベースとして肺炎や心不全の悪化などの急性期イベントを起こすことで要介護度の悪化をもたらしていた。また、認定調査票の結果と、医療介護レセプトを連結して分析した結果では、現行の介護保険制度においては、利用者の状態に応じたサービスの提供が行われていることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2025-05-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202315010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療及び介護レセプトを連結して分析した結果、要介護高齢者は複数の慢性疾患を持ち、それをベースとして肺炎や心不全の悪化などの急性期イベントを起こすことで要介護度の悪化をもたらしていた。また、認定調査票の結果と、医療介護レセプトを連結して分析した結果では、現行の介護保険制度においては、利用者の状態に応じたサービスの提供が行われていることが示唆された。
臨床的観点からの成果
傷病の有無と利用する介護保険サービスの関係をみると、心不全や腎不全、悪性腫瘍のように日常的な医学的管理が必要な傷病を有する高齢者については訪問看護の提供量が多くなっていた。他方、骨折や脳血管障害のようにリハビリテーションが重要な傷病を持つ高齢者については、通所リハビリテーションの提供量が多くなっていた。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
本研究の成果をもとに、よ介護高齢者が罹患している傷病ごとに、ケアを行う上で配慮すべき事項やQOLの維持向上のために提供すべきサービス種類のリコメンデーションを行う仕組みが開発できる可能性が示された。このような仕組みがあることで、ケアプランの点検を質の面から行うことが可能になる。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-05-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
202315010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,539,000円
(2)補助金確定額
7,539,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 324,000円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 5,476,000円
間接経費 1,739,000円
合計 7,539,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-05-13
更新日
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