QOLの視点からの高齢重度障害者の医療的・福祉的ケアの開発並びに評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700658A
報告書区分
総括
研究課題名
QOLの視点からの高齢重度障害者の医療的・福祉的ケアの開発並びに評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大友 英一(浴風会病院)
研究分担者(所属機関)
  • 池田久男(高知医科大学)
  • 佐藤保則(慈啓会病院)
  • 並河正晃(近江温泉病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢重度障害者のQOL向上のための種々の調査、対策を研究する。
研究方法
高齢重度障害者に関するアンケ-ト調査、 ADLの経年的変化、老年期痴呆例の評価、QOL向上の方法、重度障害者のADL向上のための方法、器具開発などを研究する。
結果と考察
1.医療、福祉従事者および看護学生に対する高齢重度障害者のQOLについての意識調査では、高齢者を70歳以上と考えるのが62.2%、高齢重度障害者とは、「寝たきりで日常生活に全面介助を要する人」と思うとの回答が普遍的(92.4%) であった。 ついで「心・肺・腎機能などの重度障害がある人」(78.2%)であった。知的機能低下、とくに徘徊、異常行動、危険行動のある人を重度障害者と考える比率が高く、体移動に介護を必要とする人を重度障害者と考える人の比率が高く、医療職、看護学生に比し、福祉職に高率であった。また「本人の言うことが解る、介護者の言うことが解る」場合は、必ずしも重度障害者ではないと考える人が、半数以上であった。対象の73.3%が介護施設職員数が不足していると考え、その答えをした人々は充足度は60%以下と答えた人が62%であった。35.1%の人が本人・家庭の費用負担が高いと考えており、看護学生にその傾向が大であった。高齢重度障害に対する日常介護の難易度は、知識のみでは問題があり、単なる人員増ではなく、介護技術を項目的に系統的に教育することが必要と考えられた。2)特別養護老人ホーム在住者の日常生活動作および脳波の経年的追跡調査を行った。入居者で調査時点で1年以上経過しており、1992~1997年の5年間で、入院する程の精神身体的な事件がなく5年間経年的に調査が可能であった症例(47例)、脳波記録が経年的に可能であった23例が対象である。なお初回調査後1年未満で退所した59例中31例(早期退所者)についても検討した。ADL調査対象は79.5±7.8歳、脳波検査は76.5±7.5歳である。ADLでは、起坐可能例が10.6% から40.4%と有意の増加を示し、自力歩行可能例は、4.5年目には、初回調査時に比し有意の減少を示した。自力食事摂取可能者は、3年目以降、初回時に比し有意の減少を示した。オムツ使用者は、初回時に比し、4年目には有意の増加を示した。入浴全介助者は増加傾向を示し、1年目(31.9%)に比し、5年目には53.2%と有意の増加を示した。会話不能者は3年後から有意の増加を示した。更衣能力も年々増加し、5年目では初回に比し有意の増加を示した。脳波の基礎律動は初回の9.0±0.83Hzから徐々に減少を示し、5年後には8.48±0.85Hzとなり、有意の減少であった(P<0.05)。脳波の異常では中等度異常例は増加傾向を示した。またδ波、Θ波の出現は経年的に増加を示した。早期退所者の平均年齢は87.5±6.7歳、一方、長期入居者は平均79.5±7.8歳で、前者が有意に高齢であり、かつ、ADLのすべての項目で有意に低い値を示した。また、脳波の基礎律動も有意に小であった。3)痴呆性老人の生活の場とQOL、在宅、老人保険施設、精神科の痴呆例について、介護者、看護婦などにより評価された全般改善度、患者の満足度、各種精神機能との相関を検討した。長谷川式簡易知的機能テストと全般改善度との間に相関はなく、家族と介護者は、MENFISの cognition,activation,emotion で表現される症状を全般改善度に反映させて評価するが、精神科看護婦は長谷川式簡易知的機能テスト、MENFISの cognition のいずれも全般改善度に反映させていない。アルツハイマー型老年痴呆を対象とした場合、自宅で介護を受けている患者では執着型(50%)、同調型(30%)、内閉型(2.5%)が多かったが、老人病院入院患者では、感情型(44%)、粘着型(44%)
、執着型(43.8%)、同調型(25%)内閉型(25%)などの割合であり、従来の報告と異なっていた。つまり、病前性格が、在宅介護か、施設介護かを決める要因となっていた。また、QOLは満足例が、経年的に多くなる傾向があった。なお、QOLの変化は他のどの項目の変化とも相関は示さなかった。そして自宅で長期間介護を受けるとQOLが改善するといえる結果が得られた。痴呆の羅病期間が長くなると、患者が多幸的になること、家族も患者の意志に添うように介護することが可能となることが理由として考えられる。FASTの stage は MENFIS と相関を示した。問題行動は FAST の Stage 6 までは増加を示すが Stage 7では減少する。Barthel Index は Stage 6 までは比較的保たれているが、Stage 7 では著明に減少した。4)高齢者の心身機能改善に関する研究:各種疾患による寝たきり高齢者について、腹臥位療法を行った。うつ伏せベッドを開発、これにて実験の結果、腹臥位、上半身挙上腹臥位、体幹前傾姿勢などは、精神活動の活発化に役立ち、また、褥蒼、尿路感染症、誤飲による嚥下性肺炎の予防などに役立つことが証明された。うつ伏せベッドで排泄容易となることを主目的としたうつ伏せベッドの改良を行った。又実験を重ねた結果、自覚的に最適な前傾角度は39.1±2.5度であることが解った。これらの特殊生活台、特殊ベッドによる実験を経て、腹臥位療法を、ベッドサイド リハビリテーションとして要介護の高齢重度障害者に施行した。時間は15分位から始め、1日に数回行う。この方法によりADLの改善、精神活動の活発化などが認められた。この方法の効能、効果は、まず寝たきりの予防である。腹臥位は両膝、両股関節の拘縮、尖足傾向の予防に役立つ。また、嚥下障害、尿失禁、その他の排尿障害、便秘などの予防、治療に役立つ。各種疾患20例については80~100%に効果が認められた。生活台を開発し種々の実験を行ったが、大きいクッション、床上マットの使用により、うつ伏せ姿勢療法が集団で行い得るようになった。
結論
高齢重度障害者の介護については各項目毎に系統的な教育が必要である。特養入居者のADLおよび脳波は5年の経過で確実に悪化した。アルツハイマー症例の介護を決定する因子として病前性格が大きな役割を果した。業種により痴呆例の評価に差がある。各種重症例にうつ伏せ療法を行い、良好な効果を認めた。

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