食物経口負荷試験の標準的施行方法の確立と普及を目指す研究

文献情報

文献番号
202312002A
報告書区分
総括
研究課題名
食物経口負荷試験の標準的施行方法の確立と普及を目指す研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21FE1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 浩明(あいち小児保健医療総合センター 総合診療科部)
  • 緒方 美佳(国立病院機構熊本医療センター 小児科)
  • 岡藤 郁夫(神戸市立医療センター中央市民病院 小児科)
  • 小池 由美(長野県立こども病院 アレルギー科)
  • 鈴木 慎太郎(昭和大学 医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門)
  • 長尾 みづほ(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 福家 辰樹(国立研究開発法人国立成育医療研究センター アレルギーセンター 総合アレルギー科)
  • 福冨 友馬(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
  • 三浦 克志(宮城県立こども病院 アレルギー科)
  • 矢上 晶子(冨高 晶子)(藤田医科大学 医学部総合アレルギー科)
  • 佐藤 さくら(国立病院機構相模原病院臨床研究センター 病態総合研究部)
  • 柳田 紀之(国立病院機構相模原病院臨床研究センター)
  • 高橋 亨平(独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題では食物経口負荷試験(OFC)のより安全な標準的施行方法を確立し、医師向け診療サポートアプリケーション(アプリ)を開発・実用化することにより食物アレルギー診療の質の向上を目指す。
研究方法
本研究課題は以下の6つの研究課題より構成される。課題ごとに研究を遂行し、「OFCの標準的施行法の確立」、「OFCの安全性向上」、「診療実態の見える化」を経て、食物アレルギー診療の均てん化の促進へつなげる。(1)医師向け診療サポートアプリ開発・実用化 (2)共通プロトコールを用いた負荷試験の検討 (3)成人食物アレルギー診療の実態調査 (4)「食物経口負荷試験の手引き」及び「食物アレルギーの診療の手引き」等の改訂 (5)アニサキス等の食物関連アレルギーに関する調査 (6)ナッツ類アレルギーの発症及び予後に関する研究
結果と考察
(1)スマートフォン(iOS・Android)およびWebブラウザで動作するOFCの結果予測が可能なアプリを開発し、実用化することを目的とした。今年度は初期予測モデルをより高い精度に改訂し、実用化可能なアプリを開発し、研究代表施設で動作確認を終了した。
(2)定型負荷食を用いた鶏卵・牛乳OFCの実効性と安全性を検証することを目的とした。9施設の研究協力施設から、全卵タンパク25、250、750mg(全卵粉末)、牛乳タンパク100mgのOFCを実施した症例を集積した。鶏卵450件、牛乳57件の少量のOFC陽性率はそれぞれ11%、28%、アナフィラキシー率は3%、18%であった。鶏卵では特異的IgEスコア6でも陽性率21%であったが、牛乳については特異的IgEのスコアが3以上の場合には陽性率が高かった。以上から鶏卵のOFCは比較的安全に実施できるが、牛乳のOFCでは高いアナフィラキシー陽性率を考慮し実施医療機関の選択が必要と考えられた。
(3)成人の食物アレルギー診療の実態を「見える化」し、今後の課題を明らかにした上で、格差改善を図ることを目的とした。昨年度までに全ての調査・解析を終了した。
(4)「食物経口負荷試験の手引き」、「食物アレルギーの診療の手引き」、「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き」を改訂し、一般に広く公開することを目的とした。今年度は「食物経口負荷試験の手引き」、「食物アレルギーの診療の手引き」を改訂し、web上に公開した。
(5)アニサキスアレルギーに罹患した国民の特徴とアンメッットニーズの探索、及びアニサキス等の食物関連アレルギーの臨床的特徴を明らかにし、診断・管理の向上を目指すことを目的とした。今年度は昨年度の調査データをもとに、アニサキスアレルギーの臨床的特徴を解析した。アニサキスアレルギーでは皮膚症状を呈することが多く、また複数臓器に症状を認めること、魚介類の摂取から発症するまでに時間を要することが多いことが明らかになった。
(6)①クルミアレルギー:2013~2022年に相模原病院小児科を受診し、5歳までに即時型クルミアレルギーを発症した68例を対象にした。対象のうち41例(60%)がOFCでクルミアレルギーを再評価されており、10歳までにクルミ3gを摂取可能になった児は6例(9%)、経口免疫療法を開始した児は4例(6%)、除去を継続している児は40例(59%)、途中で通院終了した児は18例(26%)だった。②カシューナッツ:2013~2022年に相模原病院小児科を受診し,6歳までに即時型カシューナッツアレルギーを発症した49例を対象にした。対象のうちOFCでカシューナッツアレルギーを再評価された児は31例(63%)で、12歳までにカシューナッツ3g摂取可能になった児は4例(8%),除去を継続している児が34例(69%),途中で通院終了した児は11例(22%)だった。
結論
本研究課題により、医師向け診療サポートアプリの開発、および定型負荷試験食による共通プロトコールを用いたOFCの実効性・安全性を確認しレジストリーの第一歩を踏み出した。移行期・成人期の食物アレルギー診療の実態を把握し課題が明確になった。成人期にこれから問題となる食物関連のアニサキスアレルギーの臨床的な特徴、ナッツ類アレルギーの予後を明らかにした。以上の幅広い成果をもとに適切な食物アレルギーの診断・管理・治療を広めるとともに今回明確になった課題を解決していくことがアレルギー診療の喫緊の課題である。

公開日・更新日

公開日
2024-12-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-12-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202312002B
報告書区分
総合
研究課題名
食物経口負荷試験の標準的施行方法の確立と普及を目指す研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21FE1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 浩明(あいち小児保健医療総合センター 総合診療科部)
  • 緒方 美佳(国立病院機構熊本医療センター 小児科)
  • 岡藤 郁夫(神戸市立医療センター中央市民病院 小児科)
  • 小池 由美(長野県立こども病院 アレルギー科)
  • 鈴木 慎太郎(昭和大学 医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門)
  • 長尾 みづほ(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 福家 辰樹(国立研究開発法人国立成育医療研究センター アレルギーセンター 総合アレルギー科)
  • 福冨 友馬(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
  • 三浦 克志(宮城県立こども病院 アレルギー科)
  • 矢上 晶子(冨高 晶子)(藤田医科大学 医学部総合アレルギー科)
  • 佐藤 さくら(国立病院機構相模原病院臨床研究センター 病態総合研究部)
  • 柳田 紀之(国立病院機構相模原病院臨床研究センター)
  • 高橋 亨平(独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題では食物経口負荷試験(OFC)のより安全な標準的施行方法を確立し、医師向け診療サポートアプリケーション(アプリ)を開発・実用化することにより食物アレルギー診療の質の向上を目指す。
研究方法
本研究課題は以下の6つの研究課題より構成される。課題ごとに研究を遂行し、「OFCの標準的施行法の確立」、「OFCの安全性向上」、「診療実態の見える化」を経て、食物アレルギー診療の均てん化の促進へつなげる。(1)医師向け診療サポートアプリ開発・実用化 (2)共通プロトコールを用いた負荷試験の検討 (3)成人食物アレルギー診療の実態調査 (4)「食物経口負荷試験の手引き」及び「食物アレルギーの診療の手引き」等の改訂 (5)アニサキス等の食物関連アレルギーに関する調査 (6)ナッツ類アレルギーの発症及び予後に関する研究
結果と考察
(1)スマートフォン(iOS・Android)およびWebブラウザで動作するOFCの結果予測アプリの開発と実用化を目指し、OFC症例の臨床データ(7941例)から初期予測モデルを作成し、その妥当性を検証した。鶏卵OFCの陽性予測率が高値で精度低下を認めたため、モデルの改訂と反映したアプリを開発した。医師のみが使用可能となる設定を準備出来次第、Apple Store及びGoogle Play Storeへの審査を依頼する予定である。
(2)OFCを簡便に実施するために負荷食品および施行方法を統一したOFCの安全性と再現性の検証およびOFCのレジストリー構築を目的とし、定型負荷試験食を用いたOFCの実効性、安全性をレジストリデータの集積により検証した。
OFC陽性率は鶏卵11%、牛乳28%、アナフィラキシー率はそれぞれ3%、18%であり、定型負荷試験食を用いたOFCは比較的安全に施行できることが明らかになった。以上から、鶏卵OFCの安全性は高いが、牛乳OFCでは高いアナフィラキシー陽性率を考慮し実施医療機関の選択が必要と考えられた。
(3)成人の食物アレルギー診療の実態を明らかにすることを目的とした。調査は日本アレルギー学会アレルギー専門医教育研修施設を対象に実施し、成人食物アレルギーの診療体制は十分に整備されていないこと、成人食物アレルギー患者には小児期発症例も多く、その多くは小児科でフォローされていることが明らかになった。小児科以外の診療科における診療体制の整備、および成人のOFC実施体制の整備が必要と考えられた。
(4)2022年度は「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き」、2023年度は「食物経口負荷試験の手引き」「食物アレルギーの診療の手引き」を改訂しweb上で一般に広く公開した。
(5)アニサキスアレルギーに罹患した国民の特徴とアンメッットニーズの探索、及びアニサキス等の食物関連アレルギーの臨床的特徴を明らかにし、診断・管理の向上を目指すことを目的とした。一般市民を対象にwebアンケート調査を実施し、魚介類を摂取後に何らかのアレルギー症状を呈した集団(2,537例)中、アニサキスアレルギーと診断された/疑われた者が27.9%に認められ、これらの人は魚介類を生食する頻度、調理師や水産業者など魚介類を取り扱う頻度が高い職種に従事していることを明らかにした。また、アニサキスアレルギーでは魚介類の摂取から発症するまでに時間を要することが多く、疑わしい症例では前日までの食事の摂取状況を確認することが診断に繋がると考えられた。
(6)ナッツ類アレルギー患者の発症時の臨床的な特徴および予後を明らかにすることを目的とした。即時型クルミアレルギー(366例)またはカシューナッツアレルギー(222例)の臨床情報を集積し、小児のクルミまたはカシューナッツアレルギーは幼児期の発症が最も多く、発症時はアナフィラキシーもしばしば認めることが明らかになった。さらに、幼児期に発症したこれらのアレルギーは、約9割が学童期後半になっても改善せず除去を続ける必要があることが明らかになった。
結論
本研究課題により、「OFCの標準的施行法の確立」、「OFCの安全性向上」については、医師向け診療サポートアプリの開発、および定型負荷試験食による共通プロトコールを用いたOFCの実効性・安全性を確認しレジストリーの第一歩を踏み出した。「診療実態の見える化」については、移行期・成人期の食物アレルギー診療の実態を把握し課題が明確になった。成人期にこれから問題となる食物関連のアニサキスアレルギーの臨床的な特徴、ナッツ類アレルギーの予後を明らかにした。さらに、各研究課題から得られた成果も組み入れて、3つの「手引き」を改訂し、一般に広く公開した。以上の幅広い成果をもとに適切な食物アレルギーの診断・管理・治療を広めるとともに今回明確になった課題を解決していくことがアレルギー診療における喫緊の課題である。

公開日・更新日

公開日
2024-12-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-12-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202312002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アニサキスアレルギーの調査では、魚介類を摂取後に何らかのアレルギー症状を呈した集団の約3割にアニサキスアレルギーと診断または疑われた者が存在し、患者は魚介類を生食する頻度が高い人、調理師や水産業者など魚介類を取り扱う頻度が高い職種に従事していることを明らかにした。またナッツ類アレルギー患者の臨床情報を収集し、幼児期の発症が多いこと、約9割が学童期後半でも改善せず除去継続の必要性があることを明らかにした。臨床的な特徴を明らかにすることで、今後の管理・治療の向上に繋がることが期待されている。
臨床的観点からの成果
スマートフォンで動作するアプリおよびPC上のWebブラウザで動作する食物経口負荷試験(OFC)の結果予測が可能なアプリを実用可能な段階まで開発した。また、OFCを簡便に実施するために負荷食品および施行方法を統一したOFCの安全性と再現性を検証し、鶏卵のOFCは比較的安全に実施できるが、牛乳のOFCでは高い陽性率を考慮した実施医療機関の選択が必要となることが分かった。いずれの成果もOFCの標準的施行法の確立および安全性の向上に寄与し、臨床的に重要な成果である。
ガイドライン等の開発
研究成果等を反映し「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き」「食物アレルギーの診療の手引き」「食物経口負荷試験の手引き」を改訂した。改訂版である「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022」は2022年12月に、「食物アレルギーの診療の手引き2023」「食物経口負荷試験の手引き2023」は2024年3月にweb上に公開した。食物アレルギーの標準的診療を全国的に普及させ、診療の質の向上・均てん化の促進に寄与すると考える。
その他行政的観点からの成果
成人の食物アレルギー診療実態調査から、診療体制・OFC実施体制は十分に整備されていないこと、小児期発症例の多くは小児科でフォローされていることを明らかにした。成人食物アレルギー診療の実態を初めて明らかにした調査で大きな反響があり、この成果をもとに小児科以外の診療科における食物アレルギー患者の診療体制の整備、成人のOFC実施体制の整備に向けた取り組みが始まった。また、OFCの保険収載に向けて2023年4月に一般社団法人内科系学会社会保険連合に提出された医療技術評価提案書の資料として活用された。
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
手引き作成3件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
手引き3種をホームページ上で無料公開した

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-12-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
202312002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,000,000円
(2)補助金確定額
6,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,232,872円
人件費・謝金 2,985,300円
旅費 4,086円
その他 777,742円
間接経費 1,000,000円
合計 6,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-12-09
更新日
-