高齢化社会における家族の機能に関する研究

文献情報

文献番号
199700657A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢化社会における家族の機能に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
直井 道子(東京学芸大学)
研究分担者(所属機関)
  • 野口裕二(東京学芸大学)
  • 山田昌弘(東京学芸大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東京と山梨における家族の機能の比較を目的として、 人生の意味や老いの受容について自己物語の地域差、 夫婦の過去、現在の親密性の地域差、 親子関係の地域差の3点に着目して東京都と山梨県の差異を比較し、高齢者にとって家族のもつ意味や機能をあきらかにする。 これらの変数間の関連から、succesful aging の条件を探る新しいモデルを構築することをめざす。
研究方法
1995年度には、高齢者の自己物語りを採取するためのインテンシブーインタビューを行って、そのなかで意味が明快で一定の説得力を持つと思われる40項目を選び、大規模な質問紙調査に含めることにした。1996年度には、この40項目を含む大規模な訪問面接調査を東京都在住の65歳以上の高齢者男女1200人を設計標本として行った。 1997年度には、これと比較するためにほぼ同様の調査票を用いて、山梨県在住の65歳以上の高齢者男女700人を設計標本として大規模な訪問面接調査を行った。 得られたデータは統合ファイルを作成して、SPSSによって分析した。
結果と考察
有効回答は東京都調査では881、山梨県調査では531であった。 有効回答中の男性の比率は東京では42.6%、山梨では43.7%で両地域のサンプルで性別構成に差異は見られなかった。ただし、年齢構成には差異が見られ、65-69歳、70-74歳、75歳以上で東京で38.6%,26.8%,34.6%であるのに、山梨では36.0%,27.7%,36.3%で、山梨の方が高齢なほうに偏っていた。そのため、調査結果には年齢を統制した(年齢層ごとの)比較が必要である。
(1)高齢者の自己物語りの地域差については、23項目で地域別に有意差が見られ、3つの年齢層別に比較しても14項目で有意差が見られた。 差異の内容としては、山梨において東京よりも伝統的な物語りへの賛同率が高い。山梨の高齢者の方が均質的だといえる。 夫婦間の親密性については男性より女性、山梨より東京の高齢者が配偶者に親密性を求め、それが満足感に影響する。山梨の方が既婚の子供との同居率も子供への依存期待も大きいが子供への気兼ねに関しては地域差がなかった。その結果、 高齢者の意見の一致率は一般に高いが、山梨ではさらに高く、語りの均質性が見られた。 それにもかかわらず、「子供にもっと一緒にいてほしい」(東京36%)(山梨47%)、「家族とは苦労の連続で仕方のないもの」(東京35%、山梨28%)など一致率の低い項目があった。
地域差は簡単に要約すれば、山梨の方が伝統的だといえるがそれは実際に既婚子との同居率が高いというような現実(後出)と関連し、その現実のなかで再生産されている語りだと考えられる。 すなわち、人々は現実の状況に合わせて語りを変化させ、自分自信の人生の意味を確認していると考えられ、自己物語という概念の有用性が指摘できる。
(2) 夫婦の親密性についての地域差 結婚歴を調べると、山梨の方が恋愛結婚が少ない。結婚前の親密行動は東京のほうが両極分解し、山梨のほうは親密性は少ないが、結婚満足度は低くない。 親密性への満足度の男女差は東京の方が大きく、女性に不満が高い。山梨のほうは親密性が低いにもかかわらず女性の満足度は高い。
配偶者のいない高齢者と夫婦そろっている高齢者の比較は今後の課題である。
(3) 高齢者の親子関係についての地域差 親子関係について、子供のいない人を除いて、東京771名、山梨507名を対象とした。 両地域を次の6次元的で比較した。
構造 同居して一緒に生活する子供は誰もいないのが、東京で51.4%、山梨で41.0%で両地域で最も高率であった。 ただし、「既婚子と同居」は、東京28.7%、山梨で48.5%で山梨のほうが高率であった。 山梨の方が年齢構成が高い方に偏っているので、三つの年齢層で比較してみたが、いずれの年齢層でも山梨のほうが同居率は高い。
交流 同居の場合は接触頻度は毎日とするものが過半数だが、山梨の方がさらに高率であった。別居の場合は両地域の分布は非常に似ており、3割ほどは週1回以上会うが、年に数回の者が2割ほどいる。
サポート 最近5年間のサポートの受領について三つの項目で調べたが、プレゼント、家事手伝い、看病の順で比率が高い。この順は両地域同じであったが、どれも山梨のほうが経験率が有意に高かった。 サポート提供についても三つの項目で調べたが、プレゼント、孫の面倒や看病、経済的援助の順に比率が高い点、男女差が大きい点は両地域に共通であった。 男女差は経済的援助では男性で孫の面倒や看病ば女性の方が高率であった。プレゼントは東京の方が高率、孫の面倒や看病は山梨の方が高率など提供の方は項目によって地域差の方向が異なっていた。山梨の高齢者の方がプレゼント提供以外は親子相互にサポートが多い。 子供への依存期待 子供への依存期待を「もっと顔を見せてほしい」「一人暮らしのときは同居してほしい」「病気のとき看病してほしい」などの4問で聞いたところ、いずれの項目でも山梨の方が依存期待は有意に高い。
不一致 金銭感覚、生活時間、習慣の不一致などについて4問で聞いたところ、肯定的回答はかなり少なく、この点で地域差は少なかった。
気兼ね 「子供に迷惑をかけたくない」「老いては子に従え」などの4問で子供への気兼ねについて聞いた。 両地域で肯定的回答が多く、地域差はなかった。「子供に迷惑をかけたくない」は両地域で96%以上を記録した。
(4)考察 このような地域差は伝統的か近代的かの差異として解釈できるようなものが多い。ただし、変化の方向性として伝統から近代へと単線的に変化の方向性が考えられるわけではない。1例として男女によって伝統意識の影響が異なって作用する場合をあげておきたい。男性は伝統的な家意識に反対なものほど自分が妻を介護するという意識を持つ。しかし、女性の場合は家意識に反対なものほど配偶者の介護ではなくて、福祉サービスの利用を指向する傾向が見られた。このような例を見ると、単純に伝統的意識、近代的意識とわりきれるわけではなく、まして変化の方向は地域特有の事情もからんで多様であるかもしれない。 さらに、地域差が非常に少ない意識もあることにも着目しておきたい。例えば、子供との関係では孤立している高齢者は少ないという点では男女差、地域差は少ない。 また、子供に迷惑をかけたくないという気兼ねは両地域とも非常に大きい。日本の高齢者に共通の状況というのも少なくない。今後は、自由回答の分析を通じて、過去の経験と現在の老いのうけとめ方の関連をあきらかにしたい。また 人生観、家族観がどのように高齢者の家族機能と関連しているのかを追究してみたい。 親子関係と夫婦関係の関連や、配偶者のいない人にとっての家族の意味などを追求したい。
結論
本研究から高齢者にとっての家族関係がもつ意味には地域差、男女差、年齢差があることがわかった。それらの差異は、高齢者にとって家族の機能、家族の意味がどのように変化していくのかについての方向性を示唆する。おおむね、若い高齢者、女性、都市の高齢者で優勢な方向に変化していくと結論できる。例えば、夫婦の親密性が人生満足度に与える影響は若い高齢者、女性、都市でより大きい。このことは今後ますます夫婦関係における親密性が重要になっていくことを示唆している。

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