文献情報
文献番号
202310087A
報告書区分
総括
研究課題名
種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割解明とQOL向上、社会啓発を目指した領域統合多施設共同疫学研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FC1058
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
- 竹島 多賀夫(富永病院 脳神経内科・頭痛センター)
- 西上 智彦(県立広島大学 保健福祉学部(三原キャンパス))
- 西原 真理(愛知医科大学 医学部)
- 端詰 勝敬(東邦大学 医学部)
- 細井 昌子(九州大学病院 心療内科/集学的痛みセンター)
- 森岡 周(畿央大学 健康科学部)
- 坂部 貢(千葉大学 予防医学センター)
- 小川 徹(東北大学大学院 歯学研究科)
- 平 久美子(東京女子医科大学 附属足立医療センター麻酔科)
- 鈴木 圭輔(獨協医科大学 内科学(神経))
- 岩田 昇(獨協医科大学 大学院 看護学研究科)
- 春山 康夫(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
慢性難治性片頭痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群、化学物質過敏症、過敏性大腸症候群、重症レストレスレッグス症候群など、原因不明の難治性症状の一部には、不快な外部刺激の繰り返しにより中枢神経が感作され、痛みの増強や、広範囲の慢性難治性疼痛などの様々な身体症状や精神症状が引き起こされる中枢性感作症候群(central sensitization syndrome: CSS)が関与すると考えられている。CSSには現在明確な診断基準はなく、2017年に日本語版が開発された調査票(central sensitization inventory: CSI)が目安とされているが、その妥当性の検討が課題である。
本研究では、前研究期間で得られた研究基盤により、①更なるCSS患者データの収集・登録・縦断的観察、②化学物質過敏症を含む危険要因とその交絡状況の解明、③CSSの疾患概念の確立、を目指した疫学研究を行い、その成果を用い患者理解と啓発を行う。
本研究では、前研究期間で得られた研究基盤により、①更なるCSS患者データの収集・登録・縦断的観察、②化学物質過敏症を含む危険要因とその交絡状況の解明、③CSSの疾患概念の確立、を目指した疫学研究を行い、その成果を用い患者理解と啓発を行う。
研究方法
(1) CSS関連症状・危険要因等の前方視的調査
各フィールドにおいて実施中の調査を継続して実施する。一方、前研究機関にリクルートした患者および住民集団について、症状の変化、生活環境・習慣、治療法などにつき縦断的調査を行う。前方視調査で得られたデータはデータセット化してその後の解析に供する。
(2) CSS関連症状・危険要因等の調査票の質、妥当性の検討
集積した調査データを項目反応理論(IRT)により分析することにより、質問項目の質および妥当性を検討する。
(3) CSS関連疾患の症例集積、実態調査と治療法の解明
各分担者は全年度を通じて実態調査と検討を継続する。
(4)連携体制による患者理解と啓発への対策
関連学会、患者会等と連携、協働することで研究と普及・啓発活動を行い、患者の QOL 向上、ケアの向上を目指す。
各フィールドにおいて実施中の調査を継続して実施する。一方、前研究機関にリクルートした患者および住民集団について、症状の変化、生活環境・習慣、治療法などにつき縦断的調査を行う。前方視調査で得られたデータはデータセット化してその後の解析に供する。
(2) CSS関連症状・危険要因等の調査票の質、妥当性の検討
集積した調査データを項目反応理論(IRT)により分析することにより、質問項目の質および妥当性を検討する。
(3) CSS関連疾患の症例集積、実態調査と治療法の解明
各分担者は全年度を通じて実態調査と検討を継続する。
(4)連携体制による患者理解と啓発への対策
関連学会、患者会等と連携、協働することで研究と普及・啓発活動を行い、患者の QOL 向上、ケアの向上を目指す。
結果と考察
各フィールドにおける新規リクルートに加えて、縦断調査票を新規作成し、一般住民約4000人の縦断調査が完了した。
また、CSIについて従来の標準版・短縮版との比較を行った。臨床群を弁別する項目の検討では、①整形外科や歯科患者ではそれぞれ該当部位の症状項目、頭痛外来患者では首から上の症状に関する数項目が高表出、心療内科患者では心理的症状項目も高表出であった。②患者の方が高表出の項目ばかりではなく、患者群をまとめると男女とも表出の少ない3項目が確認され、CSI高得点者=中枢性感作症候群という単純な見方では適合しない状況が認められた。③弁別力を認めた項目で暫定的な臨床尺度を構成し、スクリーニング成績を検討すると、地域住民の方が高表出の項目を含めない方が精度が高く、また短縮版や標準版よりも高かった。標準的な判定方法では偽陰性が著しく高くなることなどが明らかになった。CSS の強さを半定量的に測定するには、現在のような「症状の単純な足し算スコア」だけではやはり難しいものと考えられ、現行のCSI-Jの改良を行う必要性が示唆された。
各分担者が継続している調査、研究の中間的な結果の詳細については記載を割愛する。
一方で、CSSと化学物質過敏症、電磁波過敏症との関連の検討も大きな課題である。化学物質過敏症や電磁波過敏症等を背景とする群がCSSの中にどの程度存在するのか、あるいは、これらの曝露や症状がCSSの発症メカニズムにどう関連しているのかは、本研究班における重要な課題である。今回、臨床の場で得られた結果より、化学物質過敏症患に対する併存疾患の診断と治療により、約半数の症例で症状が消失または改善したことから、中枢神経感作の病態と診断・治療が進めば、化学物質過敏症患者の一部にとっても福音となる可能性がある。
また、CSIについて従来の標準版・短縮版との比較を行った。臨床群を弁別する項目の検討では、①整形外科や歯科患者ではそれぞれ該当部位の症状項目、頭痛外来患者では首から上の症状に関する数項目が高表出、心療内科患者では心理的症状項目も高表出であった。②患者の方が高表出の項目ばかりではなく、患者群をまとめると男女とも表出の少ない3項目が確認され、CSI高得点者=中枢性感作症候群という単純な見方では適合しない状況が認められた。③弁別力を認めた項目で暫定的な臨床尺度を構成し、スクリーニング成績を検討すると、地域住民の方が高表出の項目を含めない方が精度が高く、また短縮版や標準版よりも高かった。標準的な判定方法では偽陰性が著しく高くなることなどが明らかになった。CSS の強さを半定量的に測定するには、現在のような「症状の単純な足し算スコア」だけではやはり難しいものと考えられ、現行のCSI-Jの改良を行う必要性が示唆された。
各分担者が継続している調査、研究の中間的な結果の詳細については記載を割愛する。
一方で、CSSと化学物質過敏症、電磁波過敏症との関連の検討も大きな課題である。化学物質過敏症や電磁波過敏症等を背景とする群がCSSの中にどの程度存在するのか、あるいは、これらの曝露や症状がCSSの発症メカニズムにどう関連しているのかは、本研究班における重要な課題である。今回、臨床の場で得られた結果より、化学物質過敏症患に対する併存疾患の診断と治療により、約半数の症例で症状が消失または改善したことから、中枢神経感作の病態と診断・治療が進めば、化学物質過敏症患者の一部にとっても福音となる可能性がある。
結論
各フィールドにおける新規リクルートに加えて、縦断調査票の新規作成を行い一般住民約4000人の縦断調査が完了した。CSI-J の25項目の臨床患者検出能力の検討を行い、患者の弁別に寄与する症状項目は 9項目程度であること、全項目の合計点で評価することの弊害を示唆した。また、CSSと化学物質過敏症との関連を検討する準備を行った。
公開日・更新日
公開日
2025-05-27
更新日
-