関節リウマチの早期診断による発症及び重症化予防

文献情報

文献番号
200934004A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの早期診断による発症及び重症化予防
課題番号
H19-免疫・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
江口 勝美(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 住田 孝之(筑波大学大学院人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻 臨床免疫学)
  • 藤尾 圭志(東京大学医学部附属病院 アレルギーリウマチ内科 リウマチ学)
  • 清野 宏(東京大学医科学研究所 粘膜免疫学)
  • 坂口 志文(京都大学再生医科学研究所 免疫学)
  • 三森 経世(京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学 内科 リウマチ学・臨床免疫学)
  • 土屋 尚之(筑波大学大学院人間総合科学研究科 生命システム医学専攻社会健康医学分野 分子遺伝子疫学)
  • 津坂 憲政(東京歯科大学市川総合病院 内科)
  • 寺井 千尋(自治医科大学附属さいたま医療センター アレルギー・リウマチ科)
  • 上谷 雅孝(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 青柳 潔(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節症状が出現して間もない診断未確定関節炎(UA)の時期に、将来関節破壊を伴ったRAに移行する症例を抽出し、抗原特異的免疫寛容誘導療法を開発し、治療介入して発症及び重症化を阻止する。
研究方法
①抗原特異的アナログペプチドを用いたワクチン療法の開発、②制御性T細胞や自己反応性T細胞を標的としたRA発症阻止療法、③RAの発症及び重症化関連遺伝子の探索、④UA治療アルゴリズムの作成と臨床試験。
結果と考察
経口免疫寛容誘導ワクチン開発を目指し、抗FAE-M細胞特異的抗体を作製、本抗体は経口抗原の効果的送達能を有し、全身系に免疫応答を誘導できる。SE陽性RA未梢血にはBiPに特異的CD4+T細胞が存在し、その制御性T細胞とエフェクターT細胞のバランスの偏倚が抗BiP、抗CCP抗体産生、RA発症に関与していた。このB22とD21の経口投与は抗原特異的制御療法の開発に繋がる。コラーゲンタイプⅡのアナログペプチド発現米をCIAマウスに投与することにより、関節炎の治療及び予防できた。ヒトを対象とする臨床試験の道筋ができた。RAの動物モデルSKGマウスは、感染による補体の活性化がC5aの産生、Th17細胞への分化・増殖を誘導し、自己免疫性関節炎を発症させた。新規RA関連遺伝子を第18番染色体に発見、この遺伝子産物に対する自己抗体がRAに特異的に認められた。長崎UAコホート129症例を用いて、長崎大学早期診断予測基準と治療介入基準、ライデン大学予測基準、ACR/EULAR新診断基準を検証した。長崎大学早期診断予測基準はACR/EULAR新診断基準と感度、特異度においてほぼ同等であった。長崎大学早期治療介入基準に基づいてMTXによる治療導入、IFXによる治療強化、MRI骨髄浮腫による治療効果判定、薬剤減量、中止基準を設けたUA治療アルゴリズム(Nagasaki Early Trial)を作成した。
結論
特異的抗原の経口投与がコラーゲン誘発性関節炎の治療と予防効果を示した。M細胞特異的抗体を用いることによりヒトへの臨床応用に繋げることができた。長崎大学が提唱した早期診断予測基準はACR/EULAR新診断基準と感度、特異度において遜色なかった。長崎大学早期治療介入基準を満たすUA症例に治療介入するNagasaki-Early Trialを開始している。

公開日・更新日

公開日
2010-10-19
更新日
-

文献情報

文献番号
200934004B
報告書区分
総合
研究課題名
関節リウマチの早期診断による発症及び重症化予防
課題番号
H19-免疫・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
江口 勝美(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 住田 孝之(筑波大学大学院人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻 臨床免疫学)
  • 藤尾 圭志(東京大学医学部附属病院 アレルギーリウマチ内科 リウマチ学)
  • 清野 宏(東京大学医科学研究所 粘膜免疫学)
  • 坂口 志文(京都大学再生医科学研究所 免疫学)
  • 三森 経世(京都大学大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学 内科 リウマチ学・臨床免疫学)
  • 土屋 尚之(筑波大学大学院人間総合科学研究科 生命システム医学専攻 社会健康医学分野 分子遺伝子疫学)
  • 津坂 憲政(東京歯科大学市川総合病院 内科)
  • 寺井 千尋(自治医科大学附属さいたま医療センター アレルギー・リウマチ科)
  • 上谷 雅孝(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 青柳 潔(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節症状が出現して間もない診断未確定関節炎(UA)の時期に、将来関節破壊を伴ったRAに移行する症例を抽出し、抗原特異的免疫寛容誘導療法を開発し、治療介入して発症及び重症化を阻止する。
研究方法
①抗原特異的アナログペプチドを用いたワクチン療法の開発、②制御性T細胞や自己反応性T細胞を標的としたRA発症阻止療法、③RAの発症及び重症化関連遺伝子の探索、④UA治療アルゴリズムの作成と臨床試験。
結果と考察
経口免疫寛容誘導ワクチン開発を目指し、抗FAE-M細胞特異的抗体を作製した。本抗体は経口抗原の効果的送達能を有し、全身的な免疫応答を誘導した。Shared epitope(SE)陽性RA未梢血にはBiPに特異的CD4+T細胞が存在し、その制御性T細胞とエフェクターT細胞のバランスの偏倚が抗BiPや抗CCP抗体産生、RA発症に関与していた。このB22とD21の経口投与は抗原特異的制御療法の開発に繋がる。コラーゲンタイプⅡのアナログペプチド発現米をCIAマウスに投与することにより、関節炎の治療と発症の予防ができた。ヒトを対象とする臨床試験の道筋が開けた。RA動物モデルSKGマウスでは、感染による補体活性化、C5a産生、Th17細胞への分化・増殖を誘導し、関節炎を発症させた。新規RA関連遺伝子を第18番染色体に発見した。この遺伝子産物に対する自己抗体はRAに特異的に検出された。長崎UAコホートを用い、長崎大学早期診断予測基準と治療介入基準を作成した。長崎大学早期診断予測基準はACR/EULAR新診断基準と感度、特異度において同等であった。長崎大学早期治療介入基準に基づいてMTXによる治療導入、IFXによる治療強化、MRI骨髄浮腫による治療効果判定、薬剤の減量・中止基準を設けたUA治療アルゴリズム(Nagasaki Early Trial)を作成し、介入試験を実施している。
結論
特異的抗原の経口投与がコラーゲン誘発性関節炎の治療と発症予防効果を示した。M細胞特異的抗体を併用することにより、ヒトへの臨床応用に繋がることが期待された。長崎大学が提唱した早期診断予測基準はACR/EULAR新診断基準と感度、特異度において遜色なかった。長崎大学早期治療介入基準を満たすUA症例に治療介入するNagasaki-Early Trialを開始している。

公開日・更新日

公開日
2010-10-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200934004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①RA発症とSTAT4、FAM167A-BLK領域多型との関連を見出し、新規関連遺伝子を発見し、その蛋白に対する自己抗体を特異的に検出した②自己免疫性関節炎発症における感染とTh17細胞分化への関与を明らかにした③抗酸菌HSP70及びBiPに対する免疫応答が抗CCP抗体産生及び関節炎の進行に関与していた④タイプⅡコラーゲンを標的とした抗原特異的制御法を確立した⑤免疫寛容を含む、より効果的粘膜免疫応答を誘導する濾胞粘膜上皮M細胞に特異的に発現するGP2分子に対するモノクローナル抗体を作製した
臨床的観点からの成果
大規模RAコホートを用い、男性と女性RA患者の臨床的特徴を明らかにした。TNF阻害薬の臨床効果予測因子を探索した。本阻害薬の臨床的有効性は、投与前のADAMTS4やADAMTS5の発現量で予測できた。IRF5、STAT4、HLA-DRB1はインフリキシマブの有効性と関連していた。RA及び診断未確定関節炎におけるMRIの有用性を明らかにした。非造影MRIは骨変化の描出において造影MRIと同等の診断能を有していた。MRI上の骨髄浮腫はX線所見上の関節破壊進行を予測するのに最も優れた所見であった。
ガイドライン等の開発
長崎大学早期診断予測基準と治療介入基準を作成した。ACR/EULAR新診断基準(2009)は私達の早期診断基準と感度、特異度においては同等であったが、種々の問題点を含んでいることを明らかにした。私達の早期治療介入基準は関節破壊を伴うRAへの進行を予測するのに優れていた。この治療介入基準に基づいて、MTXやインフリキシマブを用いたUA治療アルゴリズム(Nagasaki Early Trial)を作成し、UMINに登録し、介入試験を実施している。この成果は第54回日本リウマチ学会で公表した。
その他行政的観点からの成果
生物学的製剤や免疫制御薬によるRA治療はエポック・メーキングな成果をもたらし、寛解や治癒が現実的なゴールになった。しかし、これらの薬剤は高価で、感染症をはじめ重篤な有害事象を来たす欠点がある。これらの問題点を解決するために、重症や難治性RAの臨床的・遺伝的特徴、TNF阻害薬の治療予測因子などを解明した。免疫・アレルギー分野での次世代の安価、生理的、副作用の少ない治療薬として抗原特異的免疫寛容誘導療法を開発した。主として動物モデルを用いての研究であったが、ヒトの臨床試験の道筋を開くことができた。
その他のインパクト
RAは1987年のRA改訂分類基準に基づいて診断されてきた。本分類基準は早期診断には不適切であることから、改訂が望まれていた。2009年ACR/EULARはやっと新診断基準を提唱した。私たちは既に3年前に早期診断予測基準、早期治療介入基準を作成・発表してきた。特に、MRIを用いた私たちの基準は注目を集め、国際学会でインタビューを受けるなど高い評価を受けた。更に、この基準に基づいたUA治療アルゴリズムを作成し、UMINに登録し、介入試験を実施し、興味ある成果が出ている。

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
174件
その他論文(和文)
89件
その他論文(英文等)
142件
学会発表(国内学会)
185件
学会発表(国際学会等)
37件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Koike R, Takeuchi T, Eguchi K, et al.
Update on the Japanese guidelines for the use of infliximab and etanercept in rheumatoid arthritis.
Mod Rheumatol , 17 (6) , 451-458  (2007)
原著論文2
Miyasaka N, Eguchi K, the CHANGE study investigators.
Clinical investigation in highly disease-affected rheumatoid arthritis patients in Japan with adalimumab applying standard and general evaluation: the CHANGE study.
Mod Rheumatol , 18 (3) , 252-262  (2008)
原著論文3
Tamai M, Kawakami A, Uetani M, et al.
A prediction rule for disease outcome in patients with undifferentiated arthritis using MRI of wrists and finger joints and serologic autoantibodies.
Arthritis Rheum , 61 (6) , 772-778  (2009)
原著論文4
Kawashiri S, Kawakami A, Iwamoto N, et al.
Proinflammatory cytokines synergistically enhance the production of chemokine ligand 20 (CCL20) from rheumatoid fibroblast-like synovial cells in vitro and serum CCL20 is reduced in vivo by biologic disease-modifying antirheumatic drugs.
J Rheumatol , 36 (11) , 2397-2402  (2009)
原著論文5
Ito Y, Usui T, Kobayashi S, et al.
Gamma/delta T cells are the predominant source of interleukin-17 in affected joints in collagen-induced arthritis, but not in rheumatoid arthritis.
Arthritis Rheum , 60 (8) , 2294-2303  (2009)
原著論文6
Furuya T, Hakoda M, Ichikawa N, et al.
Differential association of HLA-DRB1 alleles in Japanese patients with early rheumatoid arthritis in relationship to autoantibodies to cyclic citrullinated peptide.
Clin Exp Rheumatol , 25 (2) , 219-224  (2007)
原著論文7
Furuya T, Matsumoto I, Tsuchiya N, et al.
Anti-glucose-6-phosphate isomerase, anti-cyclic citrullinated peptide antibodies and HLA-DRB1 genotypes in Japanese patients with early rheumatoid arthritis.
Clin Exp Rheumatol , 26 (5) , 918-921  (2008)
原著論文8
Ichikawa N, Kotake S, Hakoda M, et al.
Combining effects of polymorphism of tumor necrosis factor  5'-flanking region and HLA-DRB1 on radiological progression in patients with rheumatoid arthritis.
Mod Rheumatol , 19 (2) , 134-139  (2009)
原著論文9
Ito I, Kawasaki A, Ito S, et al.
Replication of association between FAM167A(C8orf13)-BLK region and rheumatoid arthritis in a Japanese population.
Ann Rheum Dis , 69 (5) , 936-937  (2010)
原著論文10
Tamai M, Kawakami A, Uetani M, et al.
Bone edema determined by magnetic resonance imaging reflects severe disease status in patients with early-stage rheumatoid arthritis.
J Rheumatol , 34 (11) , 2154-2157  (2007)
原著論文11
Fujikawa K, Kawakami A, Tamai M, et al.
High serum cartilage oligomeric matrix protein determines the subset of patients with early-stage rheumatoid arthritis with high serum C-reactive protein, matrix metalloproteinase-3, and MRI-proven bone erosion.
J Rheumatol , 36 (6) , 1126-1129  (2009)
原著論文12
Wakasa-Morimoto C, Toyosaki-Maeda T, Matsutani T, et al.
Arthritis and pneumonitis produced by the same T cell clones from mice with spontaneous autoimmune arthritis.
Int Immunol , 20 (10) , 1331-1342  (2008)
原著論文13
Sakaguchi S, Yamaguchi T, Nomura T, et al.
Regulatory T cells and immune tolerance.
Cell , 133 (5) , 775-787  (2008)
原著論文14
Hirota K, Yoshitomi H, Hashimoto M, et al.
Preferential recruitment of CCR6-expressing Th17 cells to inflamed joints via CCL20 in rheumatoid arthritis and its animal model.
J Exp Med , 204 (12) , 2803-2812  (2007)
原著論文15
Iwanami K., Matsumoto I, Tanaka Y, et al.
Altered peptide ligands inhibit glucose-6-phosphate isomerase (GPI) peptide-induced arthritis.
Arthritis Res Ther , 11 (6) , 167-  (2009)
原著論文16
Inoue A, Matsumoto I, Tanaka Y, et al.
Role of tumor necrosis factor-a-induced adipose-related protein in autoimmune arthritis.
Arthrits Rheum Ther , 11 (4) , 118-  (2009)
原著論文17
Wakamatsu E, Matsumoto I, Yoshiga Y, et al.
Altered peptide ligands regulate type II collagen-induced arthritis in mice.
Mod. Rheumatol , 19 (4) , 366-371  (2009)
原著論文18
Kunisawa J, Takahashi, Kiyono H.
Intestinal lamina propria retaining CD4+CD25+ regulatory T cells is a suppressive site of intestinal inflammation.
Immunol Rev , 215 , 136-153  (2007)
原著論文19
Nochi T, Yuki Y, Matsumura A, et al.
A novel M cell-specific carbohydrate-targeted mucosal vaccine effectively induces antigen-specific immune responses.
J Exp Med , 204 (12) , 2789-2796  (2007)
原著論文20
Hase K, Kawano K, Nochi T, et al.
Uptake through glycoprotein 2 of FimH(+) bacteria by M cells initiates mucosal immune response.
Nature , 462 (7270) , 226-230  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-