バリア機能障害によるアトピー性疾患病態解明に関する研究

文献情報

文献番号
200934002A
報告書区分
総括
研究課題名
バリア機能障害によるアトピー性疾患病態解明に関する研究
課題番号
H19-免疫・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
天谷 雅行(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 古瀬 幹夫(神戸大学大学院 医学研究科)
  • 工藤 純(慶應義塾大学 医学部)
  • 加藤 則人(京都府立医科大学 医学部)
  • 椛島 健治(京都大学大学院 医学研究科)
  • 浅野 浩一郎(慶應義塾大学 医学部)
  • 海老原 全(慶應義塾大学 医学部)
  • 久保 亮治(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、皮膚バリア機能障害による持続的抗原刺激が、アトピー性皮膚炎、気管支喘息発症の根本的原因であるという新しい仮説のもとに、新規モデルマウスを用いた免疫学的基礎的検討と、患者遺伝子解析および特定地域の疫学的調査による臨床的検討を総合的に行い、未解決であるアトピー性疾患発症機序の解明を目指す。さらに、出生時からのバリア機能を保持することによる疾患予防の基盤確立を目指す。
研究方法
フィラグリンノックアウトマウス、flaky tail(ft)マウスを用いて角層機能を評価し、アトピーモデルマウスを開発する。皮膚バリア機能としての、タイトジャンクションの役割を明らかにする。アトピー性皮膚炎患者のフィラグリン遺伝子解析を行い、スキンケア教育介入によるアトピー性皮膚炎有病率の変化を解析する。
結果と考察
マウスを用いたアプローチでは、昨年度作出されたフィラグリンノックアウトマウスを用いて、角層バリア機能の評価を行い、天然保湿因子(NMF)の著しい低下を認めるものの、経皮的水分蒸散量(TEWL)の低下を認めなかった。ftマウスにダニ抗原を経皮感作することにより、皮膚炎、高IgEを呈するアトピー性皮膚炎類似のマウスモデルを確立した。さらに、経皮的抗原感作により、マウスにおいて遷延性の好酸球気道炎症を誘導することを示した。また、哺乳類表皮タイトジャンクションバリアを世界で初めてen faceに可視化することに成功し、活性化したランゲルハンス細胞の樹状突起が表皮タイトジャンクションを突き抜けて角質層の直下にまで伸長し、外来抗原を捕捉することを発見した。
ヒトにおけるアプローチでは、日本人特有の遺伝子変異を効率よく検出できる簡便法を構築し、アトピー性皮膚炎患者194名において、ヨーロッパ型変異は認められず、アジア型変異が計18名(9.2%)で検出された。京都府山間部の小・中学校の生徒を対象とした疫学調査において、スキンケアに関する教育介入により、アトピー性皮膚炎の有病率が減少し得ることを示した(有病率:平成20年11.6%、21年8.5%)。
結論
本年度は、3年計画の最終年度として、アトピー性疾患発症機序としての皮膚バリア機能障害の重要性をマウス、ヒトの両面から確立することができた。

公開日・更新日

公開日
2010-10-19
更新日
-

文献情報

文献番号
200934002B
報告書区分
総合
研究課題名
バリア機能障害によるアトピー性疾患病態解明に関する研究
課題番号
H19-免疫・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
天谷 雅行(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 古瀬 幹夫(神戸大学大学院 医学研究科)
  • 工藤 純(慶應義塾大学 医学部)
  • 加藤 則人(京都府立医科大学 医学部)
  • 椛島 健治(京都大学大学院 医学研究科)
  • 浅野 浩一郎(慶應義塾大学 医学部)
  • 海老原 全(慶應義塾大学 医学部)
  • 久保 亮治(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、皮膚バリア機能障害による持続的抗原刺激が、アトピー性皮膚炎、気管支喘息発症の根本的原因であるという新しい仮説のもとに、新規モデルマウスを用いた免疫学的基礎的検討と、患者遺伝子解析および特定地域の疫学的調査による臨床的検討を総合的に行い、未解決であるアトピー性疾患発症機序の解明を目指す。さらに、出生時からのバリア機能を保持することによる疾患予防の基盤確立を目指す。
研究方法
マウスを用いたアプローチでは、フィラグリンを欠失させたノックアウトマウスを作出し、アトピー性皮膚炎モデルマウスを開発する。皮膚バリア機能としての、タイトジャンクションの役割を明らかにする。ヒトにおけるアプローチでは、アトピー性皮膚炎患者のフィラグリン遺伝子解析を行い、スキンケア教育介入によるアトピー性皮膚炎有病率の変化を解析する。
結果と考察
マウスを用いたアプローチでは、フィラグリンノックアウトマウスの作出に世界で初めて成功した。また、フィラグリン蛋白の減少が知られているflaky tail(ft)マウスは、6番目のフィラグリンリピートに含まれる1塩基欠失5303delAを持つことを世界に先駆けて同定した。さらに、哺乳類表皮タイトジャンクションバリアを世界で初めてen faceに可視化することに成功し、活性化したランゲルハンス細胞の樹状突起が表皮タイトジャンクションを突き抜けて角質層の直下にまで伸長し、外来抗原を捕捉することを発見した。経皮的抗原感作により、マウスにおいて遷延性の好酸球気道炎症を誘導することを示した。
ヒトにおけるアプローチでは、日本人特有の遺伝子変異を効率よく検出できる簡便法を構築し、アトピー性皮膚炎患者194名において、ヨーロッパ型変異は認められず、アジア型変異が計18名(9.2%)で検出された。京都府山間部の小・中学校の生徒を対象とした疫学調査において、スキンケアに関する教育介入により、アトピー性皮膚炎の有病率が減少し得ることを示した(有病率:平成20年11.6%、21年8.5%)。
結論
本研究は、アトピー性疾患発症機序としての皮膚バリア機能障害という新しい領域を形成する上で重要な役割を果たした。今後、皮膚バリア機能障害、アトピー性皮膚炎、喘息を結びつける分子レベル、細胞レベルでの詳細な解析により、アトピー性疾患発症機序のさらなる解明がなされ、皮膚バリア修復によるアトピー性疾患の発症予防、抑制法が確立されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-10-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200934002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
モデルマウスの作成においては、世界で初めてフィラグリンノックアウトマウスの作成に成功する(未発表)とともに、flaky tail マウスのフィラグリン遺伝子変異を同定した(Nat Genet 2009)。野生型マウスを用いて、経皮感作による喘息が誘導されることも確認できた。皮膚のタイトジャンクションの可視化に初めて成功し、ランゲルハンス細胞がタイトジャンクションを形成し樹状突起から外来抗原を捕捉することを示し、経皮抗原感作機序の概念を一新した(J Exp Med 2009)。
臨床的観点からの成果
新たに開発したショットガンPCR法により新規遺伝子変異を同定するとともに、日本人特有の遺伝子変異を効率よく検出できる簡便法を開発した。京都府山間部の小・中学校の生徒を対象とした疫学調査において、スキンケアに関する教育介入により、アトピー性皮膚炎の有病率が減少し得ることを示した。今後、皮膚バリア機能障害、アトピー性皮膚炎、喘息を結びつける分子レベル、細胞レベルでの詳細な解析により、アトピー性疾患発症機序のさらなる解明が期待される。
ガイドライン等の開発
該当せず。
その他行政的観点からの成果
アレルギー性疾患の発症における皮膚バリア障害の役割が、本研究により確固たる基盤を築くことができた。長期的な展望としては、皮膚バリア機能が障害されることが考えられる個体において、出生時よりスキンケアを適切に行い、皮膚バリア機能を維持することによりアトピー性疾患の発症を予防することが可能となる。アトピー性皮膚炎のみならず、喘息の発症を、スキンケアによる皮膚バリア機能改善により抑制、予防することができれば、厚生行政に多大なる貢献をすることが期待される。
その他のインパクト
ランゲルハンス細胞とタイトジャンクションの新知見は、Science (Vol 327, p251, 2010), Nat Med (Vol 16, p174, 2010)に、ハイライトとして成果が紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
25件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
51件
学会発表(国際学会等)
51件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
10件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sasaki T, Kudoh J, Ebihara T, et al.
Sequence analysis of filaggrin gene by novel shotgun method in Japanese atopic dermatitis
J Dermatol Sci , 51 (2) , 113-120  (2008)
原著論文2
Fallon PG, Sasaki T, Sandilands A, et al.
A homozygous frameshift mutation in the mouse Flg gene facilitates enhanced percutaneous allergen priming
Nat Genet , 41 (5) , 602-608  (2010)
原著論文3
Kubo A, Nagao K, Yokouchi M, et al.
External antigen uptake by Langerhans cells with reorganization of epidermal tight junction barriers
J Exp Med , 206 (13) , 2937-2946  (2009)
原著論文4
Moniaga CS, Egawa G, Kawasaki H, et al.
Flaky Tail Mouse Denotes Human Atopic Dermatitis in the Steady State and by Topical Application with Dermatophagoides pteronyssinus Extract
Am J Pathol , 176 (5) , 2385-2393  (2010)
原著論文5
Kabashima K, Shiraishi N, Sugita K, et al.
CXCL12-CXCR4 engagement is required for migration of cutaneous dendritic cells
Am J Pathol , 171 (4) , 1249-1257  (2007)
原著論文6
Katoh N
Future perspectives in the treatment of atopic dermatitis
J Dermatol , 36 (7) , 367-376  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-