老人保健事業(健康教育・健康相談)の評価法の向上に関する研究

文献情報

文献番号
199700656A
報告書区分
総括
研究課題名
老人保健事業(健康教育・健康相談)の評価法の向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
野崎 貞彦(日本大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康教育による社会的支援環境の側面への効果を評価するため、保健所や市町村における糖尿病教室への参加者を対象とした調査から、糖尿関係の自主グループ活動への参加状況とその要因、グループの活動内容や意義について検討した。
研究方法
東京都4カ所の保健(相談)所・埼玉県3カ所の保健センターにおける糖尿病教室の受講者のうち、糖尿病と関わりのある本人自身が参加したケース(妻などの家族が受講したケースを除く)を対象に、アンケート調査を実施した。実施数は140、回収数は118(回収率84.3%)であった。調査項目は、?属性と病態、?糖尿病教室への参加回数、?糖尿病教室に対する評価、?教室でのグループワークに対する評価、?保健所や市町村の関わる糖尿病関係の自主グループについて( 1)参加の有無、2)活動内容、3)活動頻度、4)活動場所、5)参加人数、6)メンバーの固定性、7)専門家の参加、8)リーダーの存在、9)参加期間、10)参加態度、11)グループの意義、12)参加継続の意思)とした。分析においては、(1)自主グループ参加の要因を検討するため、参加群と非参加群に分け、属性と病態、糖尿病教室への参加回数、糖尿病教室に対する評価、教室でのグループワークに対する評価に関して、比較検討した。また、(2)自主グループ参加者の回答結果から、グループの活動内容や意義について検討し、自主グループ活動の評価を行った。
結果と考察
(1)自主グループ参加の要因:全対象者のうち、保健所や市町村のかかわる糖尿病関係の自主グループへの参加者は19名(16.1%)であった。参加者の年齢内訳は50代が6名(31.6%)、60代が5名(26.3%)の順であった。性別内訳は女子が17名(89.5%)を占め、職業別には専業主婦が12名(63.2%)であった。現在の病態は、「糖尿病」5名(29.4%)、「境界型」8名(42.1%)、「高血糖」4名(21.1%)「不明」2名(10.5%)であり、糖尿病教室への参加回数は平均4.7回であった。これらの属性や病態ならびに糖尿病教室への参加回数に関して、自主グループ非参加者との間に有意差はみられなかった。
一方、糖尿病教室に対する評価に関しては、メンタルヘルスや社会的支援環境へのはたらきかけに関わる項目で、自主グループ参加者と非参加者の間に有意差が認められた。すなわち、「精神的に安定した」「友人が出来た」「グループが出来た」の回答割合は、自主グループ参加者と非参加者でそれぞれ77.8%と41.1%、55.6%と21.1%、38.9%と12.6%で、いずれも前者の方が評価が高かった。また、糖尿病教室の中で行ったグループワークに対する評価についても、「治療に対する意欲が出た」「今後の自己管理の方向がはっきりした」の回答割合に有意差が認められた。自主グループ参加者と非参加者の回答割合はそれぞれ、72.2%と43.0%、94.4%と58.1%で、いずれも前者の方が評価が高かった。
これらの成績から、自主グループ活動への参加を促した要因は、属性・病態・保健所や市町村の糖尿病教室への参加回数ではなく、糖尿病教室に関して次の2点を高く評価したことであると考えられた。第1には、友人やグループができ、精神的に安定した、という点である。これによって、グループメンバーの基盤が形成されたと考えられる。第2には、グループワーク形式が、自己管理や治療の方向認識と意欲の動機づけに有効であると認識した点である。これらのことは、教室終了後の自主グループ活動への参加を促す上で、教育実施時におけるメンタルヘルス向上や友人・グループ形成へのはたらきかけ、およびグループワークにおける自己状況の認識や変容の動機づけへのはたらきかけが重要であることを示唆しており、これらの側面を評価していくことが大切と考えられた。
(2)自主グループ活動の内容とその意義:自主グループ参加者19名の回答結果から、グループの活動内容を見ると、「話し合い・相談」(89.5%)、「食事づくり」(73.7%)、「体操」(73.7%)、「勉強会」(57.9%)、「情報交換」(47.4%)、「ウォーキング・ハイキング」(21.1%)の順であった(複数回答)。活動頻度は、「1ヶ月に1回以上」(17.6%)、「2ヶ月に1回以上」(21.1%)、「半年に1回以上」(21.1%)、「不定期」(21.1%)とまちまちである。活動場所は、「保健(相談)所」(84.2%)、「公民館」(31.6%)の順であった(複数回答)。1回の平均参加人数は「10~19人」(47.4%)、「9人以下」(26.3%)、「20~29人」(21.1%)の順であった。メンバーについては「固定している」と「ほぼ固定している」をあわせて9割を超えた。医師・保健婦・栄養士などの専門家の参加については、9割が「いつもいる」と答え、リーダーの存在については、8割が「いる」と答えた。グループへの参加期間は、「1年未満」(44.4%)、「1~2年未満」(27.8%)の順であった。グループへの参加態度は、全員が「積極的」あるいは「どちらかといえば積極的」と答えた。グループの意義については、「仲間との交流」(78.9%)、「知識や情報を得る」(78.9%)、「自己管理への意欲が高まる」(68.4%)、「精神的安定」(57.9%)、「治療への意欲が高まる」(52.6%)、「勉強」(47.4%)、「社会参加活動」(21.1%)の順であった。今後のグループへの参加継続意思については、全員が「参加したい」あるいは「どちらかと言えば参加したい」と答えた。
これらの成績から、自主グループの活動内容は、話し合いや相談・食事療法や運動療法の実技・情報交換など、糖尿病教室の内容とほぼ同様であると思われた。さらに、自主グループの意義についても、知識や情報の獲得・仲間との交流・自己管理や治療意欲の動機づけ・精神的安定など、糖尿病教室における項目とほぼ同様のものが評価されていた。すなわち、自主グループには、糖尿病教室とほぼ同様の活動内容と意義が認められ、教育効果の持続に有効と考えられた。回答者の大半が参加している自主グループのパターンは、メンバーがほぼ固定的で、リーダーがおり、保健所や市町村が活動場所や保健医療マンパワーを提供している、というものである。また、大半の参加期間は1~2年程度で、全員が積極的態度でかつ参加継続の意思をもっていた。つまり、教室終了後1~2年間における自主グループ活動は、保健所や市町村が施設やマンパワー提供面で関わりをもち、メンバーの参加態度も積極的であることから、有効な社会的支援環境として機能しているとみられた。よって、自主グループの活動や意義についての評価は、健康教育後における社会的支援環境の一評価として重要と考えられた。
結論
保健所や市町村における糖尿病教室の参加者を対象とした調査結果から、糖尿病関係の自主グループ活動への参加要因、活動の内容や意義について、評価検討した。その結果、自主グループ活動への参加を促した要因は、糖尿病教室によるメンタルヘルスの向上や友人・グループの形成、教室でのグループワーク形式による自己状況の認識や自己管理意欲の向上、といった教育効果を評価認識したことであった。また、1~2年程度の期間における自主グループ活動には、糖尿病教室と同様の活動内容と意義が認められ、参加者の態度も積極的であったことから、教育効果の持続や主体的活動能力の形成に有効と考えられた。したがって、健康教育によるメンタルヘルスの向上や友人・グループ形成に関する評価、ならびに教育後1~2年間における自主グループの活動や意義に関する評価は、社会的支援環境の一評価として重要と思われた。今後の課題として、評価項目や評価期間等をはじめとしてより妥当な評価法を検討していくこと、様々な自主グループを対象に実証的検討をすすめることが、必要である。

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