高齢者の長期ケアにおける経済的評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700654A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の長期ケアにおける経済的評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小山 秀夫(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1997年度における研究の第一義的目的は、高齢者施設における最適マネジメントと介護費用について模索することである。高齢者の長期ケアの費用は、要介護高齢者の増加のみならず、ケア量の増加、質の向上により、飛躍的に増大せざるをえない。このことは、要介護高齢者の施設ケアの費用を考えれば明らかであるが、施設内でのサービス調整だけではなく、限られた費用(コスト)の中で社会的サービスが適切に提供されることによって必要な費用(コスト)をコントロールすることが期待されているとも考えられる。
わが国の要介護高齢者を主な対象とする療養型病床群制度や老人病棟入院医療管理制度といった包括化支払病院、老人保健施設、および特別養護老人ホームでは、費用の大部分が定額支払いとなっている。このような支払制度の特徴は、施設内で、一人ひとりのサービスの量と質に差があっても、同額の費用が支払われることであり、このことは、各高齢者ケア施設において、利用者の状態に応じて提供されるサービスの量と質を決定し、施設の適切なマネジメントによって、ケアが配分されていることを前提としている。しかし、平成9年12月9日に成立した介護保険制度では、要介護度別定額化支払制度が導入されることになった。そして現在、わが国では、介護保険制度導入準備の一環として、全国のモデル地域で「高齢者介護サービス体制整備支援事業」が進められている。また、諸外国でも定額支払い方式についての研究が進んでいる。要介護度別定額化支払制度には、少なくともアセスメント表の作成および方法、調査専門家の研修と評価、投入されるサービス量の把握、価格設定の方法など、各種の技術的、科学的な課題がある。そこで、オーストラリアにおける「入所者分類基準」RCIから「高齢入所者総合スケール」SCI以降の議論を参考とし、わが国の要介護度別定額化支払制度の課題を考察した。
また、現在、アメリカ合衆国をはじめ多くの国で注目を集めているマネジドケアについての文献から、今後のわが国の高齢者長期ケアのあり方を模索した。
研究方法
第一に、調査を実施した。研究対象は、入院医療管理制度を採用している3病院に入院している高齢入院患者536名である。邦訳したオーストラリアのRCI調査票による調査と、わが国のモデル事業で示された「要支援・要介護状態区分の考え方」を参考に、専門家の判断としてどの区分に該当すると考えられるかの調査(以下、専門家調査)を計12名の老人診療に直接携わっている医師によって実施した。この調査は予め検討した仮説について検証を行うという方法を採用した。仮説は次の3点である。
? 既にオーストラリアで本格的に実施されている14項目各4選択肢から構成されているRCIを邦訳し調査することにより、5段階の要介護度に分類することが可能であろう。しかし、各選択肢に配分された点数から考えると最重度のケアを要するカテゴリー1に該当する高齢者入院患者は皆無になる恐れがある。
? 老人診療に直接携わっている医師は、高齢者のケア量の差を認識し、その状態像から、自立、要支援、要介護1から5の7分類にすることは可能であろう。ただし、専門家の認識とRCIから得られた5段階のカテゴリーには差異が生じるであろう。
? 仮にこのような?と?の仮説が実証されれば、専門家の判断と調査結果から計算されたRCIのカテゴリーとの間にどのような齟齬が生じるかを検討する糸口を発見できることになる。逆に、専門家の判断と一致する程度が高ければ、RCIを参考にわが国でも同様のシステムを採用することによって、長期ケアの経済評価が可能であろう。ただし、調査項目や各選択肢の配点については検討課題を明らかにする必要があろう。
第二に、文献研究を行った。文献検索により、データベース DIALOG並びにSCI、SSCIを使用し、“Managed Care"をキーワードとして過去10年間分の検索を行った。
結果と考察
調査については、以下のような結果となった。
1) 高齢入院患者延べ536名の対象について、回収率は100%であった。RCIは、すべての項目に記入がなされることによって、カテゴリーが算出可能となる。集計の結果、回収された調査票のうち29票に欠損値があった。調査の性格上、調査後の照会は不適切であるため、有効数を507名分、有効回答率94.6%と確定した。
2) 2)RCIからカテゴリーを計算した結果は、介護度が低い順から、カテゴリー5が16.8%、4が17.9%、3が56.4%、2が8.9%であり、カテゴリー1は皆無であった。
3) 専門家調査の結果は、つぎの通りであった。自立1.2%、要支援8.3%、要介護1が11.0%、2が12.6%、3が18.5%、4が40.0%であり、要介護5は8.3%であった。
文献研究については、201文献を収集した。ケアの質、利用状況、質の評価、ケースマネジメント、ケアマネジメントについての文献が一番多く58文献、次いでメディケア、メディケイドとマネジドケアの文献が25文献、連邦政府のマネジドケアに関わる政策等についての文献が20文献であった。
結論
第一に、調査結果から、RCIにより5段階の要介護度に分類することが可能であったが、仮説の通り、最重度のケアを要するカテゴリー1に該当する高齢者入院患者は皆無であった。これは、RCIでは、14の判定項目にそれぞれ4つの選択肢があり、要介護の頻度や提供時間などについてのアセスメントを行うことに起因すると考えられる。つまり、実際に提供されるケア量を評価することになるため、ケアが行われていないか、行われていても回数や時間が短い場合には、最重度のカテゴリーがえられないことになる。また各選択肢に与えられた点数は、ADL項目の身体的介助には高く、問題行動に対するケアに低いことにも起因すると考えられる。
実際、前に述べたRCIからSCIへのシフトにより、判定項目はケアニーズを決定する22の質問と、高齢者が平均的なレベルのケアを受けているかどうかを判定する質問の計23項目の構成となった。追加された質問は、各種の問題行動や、本人や家族の社会的ニーズを判定する項目である。また、選択肢は、各項目ごとに、具体的に、かつ詳細にわたって、その状態や介助が必要な程度が定義され、基準の明確化が進められている。これらのことを勘案し、わが国独自の要介護度別定額化支払制度を検討することが必要であると考えられる。
調査からは、わずか3病院の調査の結果と考察ではあるが、仮説?と?については実証することができたが、調査項目や各選択肢の配点についての検討課題については、さらに詳細な調査と考察が必要であると考える。
第二に、文献研究からは、マネジドケアが今後医療費の抑制政策として益々注目を浴びるであろうことが確認できた。全世界的に、マネジドケアが医療費抑制政策のキーワードとして使用されており、わが国においても研究が望まれていると考える。
少数ではあるがアメリカ合衆国における有効性等についての論文が見られたことは特筆すべきであると考える。クリントン政権下では、「マネジド・コンペティション」が医療政策として打ち出されているが、今後の動向が注目される。このような状況下、わが国においても、マネジドケアの有効性等についての調査が行われるべき時期にあるといえる。しかし、わが国においては、マネジドケアという言葉のみが先行し、その実態が不明確であると言わざるをえない状況にある。例えば、スイスのインデミニティ・ヘルスプランの加入者調査では、出来高プランからまねジドケアプランへの変更によるケアサービスと利用者の満足度について、満足度は一般に低下したが、保障範囲や内容拡大によって満足度は拡大したという結果がでている。
アメリカ合衆国や諸外国の動向から、マネジドケアについての研究は、今後のわが国の高齢者長期ケアのみならず医療全般にとっても有用なものとなると考える。

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