文献情報
文献番号
202310016A
報告書区分
総括
研究課題名
MECP2重複症候群及びFOXG1症候群、CDKL5症候群の臨床調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FC1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 雅之(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
- 松石 豊次郎(久留米大学高次脳疾患研究所)
- 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
- 高橋 悟(旭川医科大学医学部)
- 青天目 信(大阪大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
2,690,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、MECP2重複症候群及びFOXG1症候群、CDKL5症候群を対象に調査研究を行った。これら疾患は、2005年以降に報告された新しい疾患である。いずれも乳児期早期から重度精神運動発達障害と難治性てんかんを呈する特徴がある。有効な治療法がなく、対症療法と療育を必要とする。また、希少性が⾼く疾患認知度が低いことから診断が遅れ、治療や療育が困難なだけでなく、家庭⽣活や学校・社会⽣活が制限される。これらの疾患の確定診断には遺伝⼦検査を要するが、遺伝⼦診断が可能な施設は少ない。MECP2 重複症候群は令和元年に⼩児慢性特定疾病登録されたが、FOXG1症候群とCDKL5症候群は未だ登録がなく、経済的負担は⼤きい。
MECP2重複症候群は、早期から重症感染症や難治性てんかんなどにより⽇常⽣活に⽀障をきたしている。年齢を重ねるごとに⼊退院の頻度が増加し、重症度が進⾏する。若年死亡も少なくない。FOXG1 症候群とCDKL5症候群はレット症候群の⾮典型型とされていたが、現在では独⽴した疾患と
して確⽴されている。その臨床経過には違いがあるものの、いずれの疾患も特徴的な臨床像がある(Epilepsia 2012, 脳と発達 2014, J Neurol Sci 2021)。⼩児期のみならず、成⼈患者の介護者と経済的な⽀援が課題である。いずれの疾患にも患者家族会があり、活動している。しかし、患者規模が⼩さいことからその活動には限界があり、⽀援が必要である。
FOXG1症候群とCDKL5症候群は、⽇本⼩児科学会と⽇本重症⼼⾝障害学会の協⼒により⼩児から成⼈までを研究対象とした全国疫学調査を⾏い、患者数(有病率)と診断基準を明らかにする。これらの調査結果をもとに、臨床像を明らかにし、診断基準を作成中である。また、遺伝⼦検査と診断・診療相談、臨床⽀援を⾏っている。
さらに、CDKL5症候群における脳構造と機能・臨床的重症度との関連を検討し、バイオマーカーとなる評価指標を探索した。
MECP2重複症候群は、早期から重症感染症や難治性てんかんなどにより⽇常⽣活に⽀障をきたしている。年齢を重ねるごとに⼊退院の頻度が増加し、重症度が進⾏する。若年死亡も少なくない。FOXG1 症候群とCDKL5症候群はレット症候群の⾮典型型とされていたが、現在では独⽴した疾患と
して確⽴されている。その臨床経過には違いがあるものの、いずれの疾患も特徴的な臨床像がある(Epilepsia 2012, 脳と発達 2014, J Neurol Sci 2021)。⼩児期のみならず、成⼈患者の介護者と経済的な⽀援が課題である。いずれの疾患にも患者家族会があり、活動している。しかし、患者規模が⼩さいことからその活動には限界があり、⽀援が必要である。
FOXG1症候群とCDKL5症候群は、⽇本⼩児科学会と⽇本重症⼼⾝障害学会の協⼒により⼩児から成⼈までを研究対象とした全国疫学調査を⾏い、患者数(有病率)と診断基準を明らかにする。これらの調査結果をもとに、臨床像を明らかにし、診断基準を作成中である。また、遺伝⼦検査と診断・診療相談、臨床⽀援を⾏っている。
さらに、CDKL5症候群における脳構造と機能・臨床的重症度との関連を検討し、バイオマーカーとなる評価指標を探索した。
研究方法
MECP2重複症候群では、これまでの疫学調査の結果と学会承認を得て、指定難病登録を行なった。個表作成を行い、難病情報センターに提供し、運用準備を行なった。
CDKL5 症候群では、CDKL5 欠損症患者家族会の協力を得て、旭川医科大学倫理委員会の承認、患者あるいは保護者への十分な説明と同意が得られた場合に行われた。対象は、CDKL5欠損症患者12名(女児10名、年齢中央値8.5歳、2〜23歳)と定型発達を示す正常対照群12 名(女児6名、年齢中央値10.8歳、1〜23歳)であった。臨床的重症度は、CDKL5 Clinical Severity Assessment (CDD-SA, Demarest et al. Pediatr Neurol 2019)を用いてスコア化した。脳MRIは3テスラMRI機器を使用し、T1強調画像(T1WI)と拡散テンソル画像(DTI)を取得した。電気生理学検査として、視覚誘発電位(VEP)と聴性脳幹反応(ABR)を行った。
FOXG1症候群では、全国疫学調査の結果を分析し、統計学的処理を行ったのち患者数を推定した。また、診断基準を作成し、患者会の検証を得た。
CDKL5 症候群では、CDKL5 欠損症患者家族会の協力を得て、旭川医科大学倫理委員会の承認、患者あるいは保護者への十分な説明と同意が得られた場合に行われた。対象は、CDKL5欠損症患者12名(女児10名、年齢中央値8.5歳、2〜23歳)と定型発達を示す正常対照群12 名(女児6名、年齢中央値10.8歳、1〜23歳)であった。臨床的重症度は、CDKL5 Clinical Severity Assessment (CDD-SA, Demarest et al. Pediatr Neurol 2019)を用いてスコア化した。脳MRIは3テスラMRI機器を使用し、T1強調画像(T1WI)と拡散テンソル画像(DTI)を取得した。電気生理学検査として、視覚誘発電位(VEP)と聴性脳幹反応(ABR)を行った。
FOXG1症候群では、全国疫学調査の結果を分析し、統計学的処理を行ったのち患者数を推定した。また、診断基準を作成し、患者会の検証を得た。
結果と考察
MECP2重複症候群の指定難病登録を終えた。個票等の資料を作成し難病情報センターへ提供した。
CDKL5症候群における画像解析では、定量的MRI- T1強調画像(T1WI)による脳構造解析では、Broca 野を構成する左下前頭回の容積減少が認められた。拡散テンソル画像(DTI)による白質解析では、広汎な脳領域で拡散定量値に異常が認められ、白質微細構造異常の存在が示唆された。さらに、容積減少を示した左下前頭回に関連する神経束(前頭斜走路、弓状束、下前頭後頭束)でも拡散定量値の異常が確認された。視覚誘発電位VEP-P100 潜時は、臨床的重症度(CDD-SA)と正の相関があった。聴性脳幹反応(ABR)では、4 人(33%)の患者で閾値上昇を示す聴力障害が認められた。FOXG1症候群では、患者数を明らかにし、診断基準を作成した。
CDKL5症候群における画像解析では、定量的MRI- T1強調画像(T1WI)による脳構造解析では、Broca 野を構成する左下前頭回の容積減少が認められた。拡散テンソル画像(DTI)による白質解析では、広汎な脳領域で拡散定量値に異常が認められ、白質微細構造異常の存在が示唆された。さらに、容積減少を示した左下前頭回に関連する神経束(前頭斜走路、弓状束、下前頭後頭束)でも拡散定量値の異常が確認された。視覚誘発電位VEP-P100 潜時は、臨床的重症度(CDD-SA)と正の相関があった。聴性脳幹反応(ABR)では、4 人(33%)の患者で閾値上昇を示す聴力障害が認められた。FOXG1症候群では、患者数を明らかにし、診断基準を作成した。
結論
MECP2重複症候群では、小児慢性特定疾病を既得し、
指定難病を追加することができた。これにより、切れ目ない支援が期待できる。
CDKL5症候群では、脳構造と機能・臨床的重症度との関連を検討した。左下前頭回の容積減少と関連する神経束の異常が検出され、本症患者で認められる言語機能障害の構造的基盤と考えられた。また、VEP-P100潜時は、臨床的重症度を反映するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
FOXG1症候群では、疫学調査の結果を論文公表し、小児慢性特定疾病および指定難病登録に向けた資料の基盤となることが期待できる。
指定難病を追加することができた。これにより、切れ目ない支援が期待できる。
CDKL5症候群では、脳構造と機能・臨床的重症度との関連を検討した。左下前頭回の容積減少と関連する神経束の異常が検出され、本症患者で認められる言語機能障害の構造的基盤と考えられた。また、VEP-P100潜時は、臨床的重症度を反映するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
FOXG1症候群では、疫学調査の結果を論文公表し、小児慢性特定疾病および指定難病登録に向けた資料の基盤となることが期待できる。
公開日・更新日
公開日
2025-05-30
更新日
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