肝炎ウイルス感染防御を目指したワクチン接種の基盤構築

文献情報

文献番号
200933005A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルス感染防御を目指したワクチン接種の基盤構築
課題番号
H19-肝炎・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
水落 利明(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 憲一(新潟大学教育研究院医歯学系 産婦人科学)
  • 片山 惠子(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・疾病制御学)
  • 小方 則夫(独立行政法人労働者健康福祉機構 燕労災病院 )
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 菅内 文中(名古屋市立大学医学部 肝臓病学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
17,444,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母子感染防御の目的でHBVキャリア母親からの新生児、およびハイリスクグループを対象に行われてきたHBワクチン接種であるが、本研究では今後増大が懸念される性感染を中心とした水平感染防御を視野に入れての新たな施策、つまりHBVキャリアの新生児や医療従事者のみならず、広く若年層へのHBワクチン投与(universal vaccination:UV)の必要性について検証することを目的とした。
研究方法
母子感染の実態調査、HBワクチン接種後の免疫獲得能についての検討、急性B型肝炎の発生動向調査、小児におけるHBV水平感染の実態に関する検討、ヒト肝細胞置換キメラマウス動物実験モデルによるHBV感染防御に必要な抗体価の検証、国内の急性B型肝炎患者でのHBV mutant発生頻度の検討等を行った。
結果と考察
主たるHBV感染経路は、もはや母子感染(垂直感染)経路ではなく、水平感染によるSTD(性感染症)として捉えるべきであることが明確になった。HBVの水平感染を予防するためのHB-UVを含めたHBワクチン接種施策について更なる議論をするべきである。また、HBワクチンとHBIGの投与による母子感染(垂直感染)防止対策事業の再徹底が必要である。 HBワクチン投与による免疫賦与効果の検証結果から、現在国内で使用されているワクチンは決して高い免疫賦与能を有していないことが明らかになった。これにより、今後HB-UVの導入を考える際にはワクチンの選択が大きな課題になるだろう。保育施設等の幼児が集団生活する場での感染症に対する知識は十分とは言えない。このような施設でのB型肝炎ウイルス感染症の水平感染を予防するためにもHB-UVが有効であると考える。ヒト肝細胞置換キメラマウスを用いた、HBIGによる受動免疫後のHBV感染実験から、HBIG投与によりgenotypeが異なるHBVの感染阻止が成立することが示された。この結果はワクチン選択において重要な意義を持つだろう。
結論
わが国におけるHB-UVの導入について様々な問題点を提起し、「ユニバーサルHBワクチン接種に関する提言」を作成した。そこではHBワクチンの選択、接種対象、接種時期、追加接種の必要性、安全性等について深く考察した。今後さらに継続して議論を重ね、遅くとも数年以内にはHB-UV導入についての結論が出ることを強く望む。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200933005B
報告書区分
総合
研究課題名
肝炎ウイルス感染防御を目指したワクチン接種の基盤構築
課題番号
H19-肝炎・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
水落 利明(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 憲一(新潟大学教育研究院医歯学系 産婦人科学)
  • 片山 惠子(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・疾病制御学)
  • 小方 則夫(独立行政法人労働者健康福祉機構 燕労災病院 )
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 菅内 文中(名古屋市立大学医学部 肝臓病学)
  • 小高 千加子(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
  • 溝上 雅史(国立国際医療センター 国府台病院 肝炎・免疫研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
WHOが強く推奨し、193の加盟国中171の国(88%)で実施されているユニバーサルHBワクチン接種(HB-UV)を導入していない数少ない先進国のひとつが日本である。HBワクチンの高い安全性と有効性は実証されており、HB-UVによる急性B型肝炎、さらには肝癌発症率の低下も数多く報告されている現況を鑑み、わが国はHB-UV導入の是非について積極的に討議する時期に来ていると考え本研究を実施した
研究方法
(1)産科および小児科におけるHB母子感染防止対策の現状把握。(2)HBワクチンのHBs抗体誘導能比較およびHBワクチン接種既往者のHBV感染調査。(3)感染症法に基づく感染症発生動向調査で届け出られた症例のデータを集計・解析。(4)保育士、施設長、看護師、保健師といった職種を対象に、B型肝炎についての意識調査。(5)HBs抗体のin-vivoでの感染阻止能を定量的に計測する基礎を確立。(6)ヒト肝細胞キメラマウスを用いた抗HBVモノクロナール抗体によるHBV中和試験
結果と考察
(1)HBV感染経路が垂直感染から水平感染へと移行している現状を踏まえ、 HBワクチン接種施策について再検討するべき時期にあることを確信した。(2)1986年に開始されたHBワクチンとHBIGの投与による母子感染防止対策事業について、特に産婦人科と小児科の連携不足による接種漏れの件数が増えていることから、その再徹底が必要であることを明らかにした。(3)現在国内で使用されているワクチンは決して高い免疫賦与能を有していないことが明らかになったことから、HB-UVの導入を考える際にはワクチンの選択が大きな課題となる。(4)保育施設等の幼児が集団生活する場での感染症に対する知識は十分とは言えない。このような施設でのB型肝炎ウイルス感染症の水平感染を予防するためにHB-UVが有効であると考える。(5)ヒト肝細胞置換キメラマウスを用いた、HBIGによる受動免疫後のHBV感染実験から、HBIG投与によりgenotypeが異なるHBVの感染阻止が成立することが示された。この結果はワクチン選択において重要な意義を持つだろう。
結論
わが国におけるHB-UV導入に向けた施策推進に関する提言を作成し、さらには開始後20年以上経過した「HBV母子感染予防施策」の再検討と再徹底を求めた。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200933005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究および関連の調査によって、わが国におけるユニバーサルHBワクチン接種の導入について様々な問題点を提起することができた。そして、それらを包括して「ユニバーサルHBワクチン接種に関する提言」を作成し本省へ提出するに至った。今後はHBワクチンの接種効果およびHB-UVの対費用効果についての検証を進め、国際協力という観点からも我が国におけるHB-UV導入への取り組みを前進させるべく努力を続ける。
臨床的観点からの成果
我が国において1986年より導入された母子感染予防対策により、HBVキャリアー率が激減した。しかしHBワクチンの安全性および有効性を鑑み、また国外からのHBV浸潤、および国内でのHBVの水平感染を抑制する観点からも、今後わが国でも新生児やハイリスクグループのみならず広く若年層へのワクチン接種を視野に入れた厚生行政の遂行を考慮する時期であると結論し、HB-UVについての提言を作成した。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
「ユニバーサルHBワクチン接種に関する提言」を作成し、総合研究報告書に添付して本省に提出した。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
7件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
水落利明、小高千加子、山口一成
国内で販売されている抗HBs抗体定量用体外診断用医薬品の評価: 国内標準品を用いた検討
臨床検査 , 52 , 111-115  (2008)
原著論文2
小方則夫
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus: HBV)感染症対策:日本において接種可能(であった)4種HBワクチンのHBs抗体誘導能の凝集法(passive hemagglutination assay)評価と国際単位表示法(chemiluminescentimmunoassay)評価との比較検討
臨床病理 , 57 (10) , 954-960  (2008)
原著論文3
Komiya Y, Katayama K, Yugi H et al.
Minimum infectious dose of hepatitis B virus in chimpanzees and difference in the dynamics of viremia between genotype A and genotype C
Transfusion , 48 (2) , 286-294  (2008)
原著論文4
Kusakabe A, Tanaka Y, Mochida S et al.
A case-control study for the identification of virological factors associated with fulminant hepatitis B
Hepatol Res , 39 , 648-656  (2009)
原著論文5
Matsuura K, Tanaka Y, Hige S et al.
Distribution of Hepatitis B Virus Genotypes among Patients with Chronic Infection in Japan Shifting toward an Increase of Genotype A
J Clin Microbiol , 47 , 1476-1483  (2009)
原著論文6
Tatematsu K, Tanaka Y, Kurbanov F et al.
Genetic variant of hepatitis B virus divergent from known human and ape genotypes isolated from a Japanese patient and provisionally assigned to new genotype J
J Virol , 83 , 10538-10547  (2009)
原著論文7
Kajiwara E, Tanaka Y, Oohashi T et al.
Hepatitis B caused by a hepatitis B surface antigen escape mutant
J Gastroenterol , 43 , 243-247  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-