文献情報
文献番号
202310009A
報告書区分
総括
研究課題名
好酸球性副鼻腔炎における手術治療および抗体治療患者のQOL評価と重症化予防に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21FC1013
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
藤枝 重治(福井大学 学術研究院医学系部門)
研究分担者(所属機関)
- 竹野 幸夫(広島大学大学院医系科学研究科耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学研究室)
- 三輪 高喜(金沢医科大学 医学部 耳鼻咽喉科)
- 小林 正佳(三重大学 大学院 医学系研究科)
- 近藤 健二(東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科)
- 都築 建三(兵庫医科大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
- 吉田 尚弘(自治医科大学附属さいたま医療センター)
- 松根 彰志(日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科)
- 中丸 裕爾(国立大学法人北海道大学 大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室)
- 太田 伸男(東北医科薬科大学 医学部)
- 岡野 光博(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 秋山 貢佐(香川大学 耳鼻咽喉科・頭頚部外科)
- 平野 康次郎(昭和大学 医学部)
- 朝子 幹也(関西医科大学総合医療センター 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
- 上野 貴雄(金沢大学 附属病院 耳鼻咽喉科頭頸部外科)
- 舘野 宏彦(富山大学 学術研究部医学系)
- 中村 真浩(順天堂大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
令和2年4月から抗体薬(dupilumab)が、好酸球性副鼻腔炎を含む鼻茸を有する慢性副鼻腔炎に保険適応となった。抗体薬使用には適正使用ガイドラインに従うことが必須であるが、現在どのような臨床背景を持つ患者に使用されているかは不明である。そのため本研究では、抗体治療を行った患者を登録し、臨床背景、臨床データ、併用薬を登録しその特徴を解析する。さらに鼻茸構成細胞がどのような遺伝子を発現しているか解析しエンドタイプもしくはフェノタイプを同定する。また好酸球性副鼻腔炎の病態解明のため、細菌叢を解析するとともに神経原性炎症、血小板活性化因子(PAF)、リパタイコ酸を検討する。非専門医でも好酸球性副鼻腔炎のCTを読影できるような画像解析システムを構築する。
研究方法
抗体薬(dupilumab)を投与された症例を登録し解析する。薬物治療満足度調査を行う。抗体薬の投与によって嗅覚脱失や鼻閉などの患者の訴えがなく, 鼻茸スコアが3点以下, 1年以上増悪がなく, 併存症の増悪もない状態を1年以上全身性ステロイド投与がない状態で維持できていることを寛解とした。
内視鏡下鼻副鼻腔の手術を受けた患者を対象に鼻ぬぐい液、唾液、便サンプル中に含まれる細菌性DNAを抽出し、次世代シークエンサーにて測定しマイクロバイオーム解析する。
診断支援システム・診断判定処理装置の試作品を完成させ、関連特許を出願した。 (i) CT画像のアノテーション、(ii) 疾患CT画像の病変部濃淡パターンの数値化(重症度スコア)、(iii) 副鼻腔の骨が受ける疾患変化の数値化、(iv) 対応する疾患データ入力の4つの行程から教師データを作成し、CT画像と鼻・副鼻腔疾患との関係
内視鏡下鼻副鼻腔の手術を受けた患者を対象に鼻ぬぐい液、唾液、便サンプル中に含まれる細菌性DNAを抽出し、次世代シークエンサーにて測定しマイクロバイオーム解析する。
診断支援システム・診断判定処理装置の試作品を完成させ、関連特許を出願した。 (i) CT画像のアノテーション、(ii) 疾患CT画像の病変部濃淡パターンの数値化(重症度スコア)、(iii) 副鼻腔の骨が受ける疾患変化の数値化、(iv) 対応する疾患データ入力の4つの行程から教師データを作成し、CT画像と鼻・副鼻腔疾患との関係
結果と考察
2022年から日本で抗体薬・Dupilumabが処方された50例と米国173例を含めた外国例計303例に関して検討した。その結果、日本の50例では喘息の合併: 86%、NSAID-ERDの合併: 34%、副鼻腔炎手術の既往: 78%であった。これは外国の症例に比べると、日本で抗体薬を投与される症例は、より重症の慢性副鼻腔炎であった。しかし日本の症例においても、治験のデータ(SINUS-24およびSINUS -52)と比べると重症度がやや軽い症例に導入されていた。Dupilumabの薬物治療満足度調査(124名)では、高い満足であった。Dupilumab使用により全身ステロイドなどの薬物使用率は減弱し、59.3%の患者ではDupilumab以外の薬物使用は不要となった。Dupilumab投与1年継続時点で78%、2年継続時点で77%と高い寛解率を示した。
篩骨洞粘膜におけるOSM mRNAレベルが有意に増加しており、同時にOSM 遺伝子レベルは、TNF-α、IL-1β、IL-13、およびOSMR-α遺伝子発現と正の相関が確認された。さらにOSM処理により上皮細胞のOSMR-α、IL-1R1、およびIL-13Ra mRNAレベルが有意に増加した。これらの結果はOSMがType1およびType2炎症の両者を介したCRS病態に関与し、OSMシグナル経路は潜在的なCRS病態の治療標的として考えられる。また重度のType2炎症群に密接に関連したPAF代謝を理解することは、CRSwNPの治療と管理に新たに貴重な情報を提供する可能性がある。リポタイコ酸は、好酸球性炎症に関与する物質であった。
好酸球性副鼻腔炎ではCorynebacterium、Staphylococcus、Moraxella、Propionibacterium菌が増加しており、Fusobacterium、Porphyromonas、Parvimonas、Treponema、Prevotella菌が減少していた。その中でも、Fusobacterium菌の減少が最も顕著であった。さらに細かな菌種まで確認したところ、Fusobacterium菌の一種であるFusobacterium nucleatum(FN)であることが判明した。パスウエイ解析では、好酸球性副鼻腔炎においてリポ多糖(LPS)生合成の低下が最も顕著であった。FN由来のLPSは、2型炎症において重要な役割を果たすALOX15遺伝子の発現を抑制することが確認された。この効果はほかの菌(大腸菌)が産生するLPSでは認められなった。つまり、FN由来のLPSには保護的な働きがあり、好酸球性副鼻腔炎ではFN由来のLPSが減少していることで保護的な働きが欠落し、発症の原因となっている可能性が示唆された。
篩骨洞粘膜におけるOSM mRNAレベルが有意に増加しており、同時にOSM 遺伝子レベルは、TNF-α、IL-1β、IL-13、およびOSMR-α遺伝子発現と正の相関が確認された。さらにOSM処理により上皮細胞のOSMR-α、IL-1R1、およびIL-13Ra mRNAレベルが有意に増加した。これらの結果はOSMがType1およびType2炎症の両者を介したCRS病態に関与し、OSMシグナル経路は潜在的なCRS病態の治療標的として考えられる。また重度のType2炎症群に密接に関連したPAF代謝を理解することは、CRSwNPの治療と管理に新たに貴重な情報を提供する可能性がある。リポタイコ酸は、好酸球性炎症に関与する物質であった。
好酸球性副鼻腔炎ではCorynebacterium、Staphylococcus、Moraxella、Propionibacterium菌が増加しており、Fusobacterium、Porphyromonas、Parvimonas、Treponema、Prevotella菌が減少していた。その中でも、Fusobacterium菌の減少が最も顕著であった。さらに細かな菌種まで確認したところ、Fusobacterium菌の一種であるFusobacterium nucleatum(FN)であることが判明した。パスウエイ解析では、好酸球性副鼻腔炎においてリポ多糖(LPS)生合成の低下が最も顕著であった。FN由来のLPSは、2型炎症において重要な役割を果たすALOX15遺伝子の発現を抑制することが確認された。この効果はほかの菌(大腸菌)が産生するLPSでは認められなった。つまり、FN由来のLPSには保護的な働きがあり、好酸球性副鼻腔炎ではFN由来のLPSが減少していることで保護的な働きが欠落し、発症の原因となっている可能性が示唆された。
結論
好酸球性副鼻腔炎に対して抗体薬は正しく使用され、その効果も満足度も高かった。
公開日・更新日
公開日
2025-05-27
更新日
-