肝炎ウイルスにより惹起される炎症性誘発要因及びウイルス増殖に対する人為的制御による肝炎征圧

文献情報

文献番号
200933001A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルスにより惹起される炎症性誘発要因及びウイルス増殖に対する人為的制御による肝炎征圧
課題番号
H19-肝炎・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
下遠野 邦忠(千葉工業大学 附属総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高久 洋(千葉工業大学 工学部)
  • 堀田 博(神戸大学大学院 医学系研究科)
  • 加藤 宣之(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 小原 恭子(熊本大学大学院 医学薬学研究部)
  • 西口 修平(兵庫医科大学 内科学)
  • 落谷 孝広(国立がんセンター研究所)
  • 杉山 和夫(慶応義塾大学 分子ウイルス学)
  • 丸澤 宏之(京都大学大学院 内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
54,870,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HCV増殖機構を解明し、関連する宿主因子を解明して新規な抗HCV剤開発に道を開くとともに、HCV感染による細胞の増殖変化の分子機構を解明し、肝疾患予防に資する知見を得る。
研究方法
研究方法を以下に示す。
(1)HCV感染培養細胞系を用いた、脂肪代謝とウイルス複製との関連、細胞死を誘発する要因および細胞増殖を賦与する要因の解析、ウイルス複製に関与する宿主因子の探索および欠損HCVゲノムの意義の解析と遺伝子編集酵素の誘導解析。
(2)臨床検体を用いたミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常化と疾患との関連、がん化を決定づける宿主遺伝子変異の誘導要因の解析。
(3)間葉系幹細胞から肝細胞への分化実験と、得られた細胞のHCV感染系への有用性。
結果と考察
(1)HCV感染により、NASHとよく似た症状を呈して、肝の繊維化を誘導し易くすると考えられる成果を得た。
(2)HCV感染増殖に関与する宿主因子、Hsp90、DDX3、ATM、Chk2、ESCRT関連因子(TSG101、Alix、Vps4B、CHMP4b)、を明らかにした。これらの因子の機能の解析により、抗HCV剤開発が進展すると期待される。
(3)HCV感染によるROSの過剰産生がアポトーシスを引きおこした。また、HCV感染により、DHCR24発現を見いだした。本遺伝子はp53機能を変化させた。HCV感染による細胞死と増殖性亢進の分子機構の一端が明らかになった。
(4)C型慢性肝炎組織においてmtDNA変異が見られた。また、インターフェロンで治癒した肝細胞においてもmtDNAの変異は維持されていた。
(5)欠損ゲノム群では非欠損ゲノム群に比較して有意に高ウイルス血症が認められた。その他の疾患との関連が注目される。
(6)HCVによる遺伝子編集酵素AIDの誘導。HCV感染はAIDを発現誘導した。AID transgenic miceが肝がんや肺がん、胃がんを発生した。がん化に必要な宿主遺伝子の変異機構のひとつと考えられる。
(7)間葉系幹細胞から分化誘導した肝細胞にHCV感染がみられ、本細胞の有用性が示された。
結論
ウイルスは脂肪代謝系、脂肪輸送系をハイジャックして増殖することを明らかにした。HCV感染による細胞増殖変化の分子機構を明らかにした。患者の抹消血に存在する欠損ウイルスの病態との関連を示した。HCV感染によるゲノム変異惹起の分子機構を明らかにした。mtDNA異常の解析から、肝疾患の危険予測が可能になると期待される結果を得た。ヒト間葉系幹細胞を肝細胞の性質を持つ細胞に分化誘導し、得られた細胞がHCV複製解析にも適している事を示した。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200933001B
報告書区分
総合
研究課題名
肝炎ウイルスにより惹起される炎症性誘発要因及びウイルス増殖に対する人為的制御による肝炎征圧
課題番号
H19-肝炎・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
下遠野 邦忠(千葉工業大学 附属総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高久 洋(千葉工業大学工学部)
  • 堀田 博(神戸大学大学院医学系研究科)
  • 加藤 宣之(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 西口 修平(兵庫医科大学)
  • 小原 恭子(熊本大学大学院医学薬学研究部)
  • 落谷 孝広(国立がんセンター研究所)
  • 杉山 和夫(千葉工業大学 附属総合研究所)
  • 丸澤 宏之(京都大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)感染予防法の確立を目指して、HCVの増殖機構の解明を目指す。なお、HCV感染により引き起こされる肝疾患の予防のために感染肝細胞の増殖特性を明らかにする。
研究方法
以下の複数の研究を遂行する。
(1)脂肪代謝がHCV産生に及ぼす影響の解析。
細胞が放出される過程をリポタンパク質産生との関連で明らかにする。
(2)HCV増殖に影響を与える宿主因子の解析を行い、ウイルスの生活環を解明する。
(3)HCVによる宿主細胞の増殖特性をアポトーシス、および増殖性の亢進の点から解析する。
(4)HCV感染細胞における遺伝子異常化惹起の分子機構を解明する。
(5)HCVゲノムの構造解析およびHCV感染を許す宿主細胞の開発。
結果と考察
得られた成果を以下に示す。
(1)HCVは脂肪代謝系、脂肪輸送系をハイジャックして増殖することを明らかにした。この脂肪代謝の異常化により肝の繊維化が促進される可能性が考えられた。感染者の肝脂肪の制御は感染予防および疾患予防に重要であると考えられる。(2)Hsp90、小胞輸送に関与するESCRT関連因子など、HCV増殖に重要な宿主因子を明らかにした。それらの因子を標的にした抗HCV剤の開発に道を開くと期待される。(3)HCV感染により、ROS産生を通したJNK及びc-Junの活性化などHCV感染による細胞増殖変化に寄与する機構の一部を明らかにした。(4)HCVにより発現誘導されるDHCR24はp53の機能を介して細胞の増殖性を変化させる事を明らかにした。(5)HCVにより遺伝子編集酵素(AID)発現が誘導される事を明らかにし、染色体の変異導入の分子機構のひとつを明らかにした。(6)肝がん症例の非がん部にもmtDNA異常が蓄積していた。(7)HCV感染者には欠損ウイルスゲノムをもつウイルスが存在する可能性を示した。また、HCV感染を評価する系として、間葉系細胞を分化させ肝細胞を得た。
結論
HCVの産生には宿主の脂肪関連因子が関与することを明らかにした。とくにアポリポ蛋白質が感染性の賦与に重要である。これらの要因を標的にした抗ウイルス剤の開発あるいは、病気進展の予防などが期待される。HCVの粒子産生に必要な新規宿主因子として、小胞輸送に関与するESCRT関連因子などを明らかにした。HCV感染は、ROSの過剰産生を介してアポトーシスを誘導した。DHCR24過剰発現はp53の翻訳後修飾に関与している。間葉系幹細胞に由来する肝細胞を樹立した。その感染実験、および病態解析実験への応用が期待される。欠損HCVゲノムのウイルス複製および疾患との関連性が注目された。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200933001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
C型肝炎ウイルス(HCV)は細胞の脂肪代謝を大きく変化させることを見いだした。つまりウイルス感染により、細胞内の脂肪滴が増加した。この事は感染複製により、細胞内で脂肪の蓄積が生じている事を示す。さらに、脂肪滴はウイルスの複製に重要な働きをする事を明らかにした。一方、HCV感染細胞の増殖性を解析してHCVによる細胞増殖の正および負に制御する機構の一部を明らかにした。HCV複製を制御する複数の宿主因子を明らかにした。また、脂肪組織を分化させ肝細胞を得た。
臨床的観点からの成果
HCV感染者の多くは、脂肪代謝異常を呈することが臨床的に知られているが、その機構には不明な点が多い。本研究によりHCV感染が脂肪代謝を変化させる事が分かった。HCVは自己複製のために宿主の脂肪代謝を変化させて、複製に都合の良い環境を構築する。その結果細胞内に脂肪滴を蓄積する。C型肝炎患者における脂肪代謝異常は、ウイルスが直接に脂肪代謝を制御する結果であると考えられる。脂肪代謝を抑制すればHCV増殖を抑制できると考えられるし、また、HCV感染による脂肪症の予防にも寄与すると考えられる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
HCV感染細胞内での脂肪代謝変化に関する報告は、新聞各社に取り上げられ広く紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
75件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
99件
学会発表(国際学会等)
67件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Goto K, Watashi K, Shimotohno K.et al.,
Identification of cellular and viral factors related to anti-hepatitis C virus activity of cyclophilin inhibitor
Cancer Sci. , 100 , 1943-1950  (2009)
原著論文2
Ogawa K, Hishiki T, Shimizu Y,et al.,
Hepatitis C virus utilizes lipid droplet for production of infectious virus.
Proc. Jpn Acad. Ser B Phys Biol Sci , 85 , 217-218  (2009)
原著論文3
Aly HH, Qi Y, Atsuzawa K, Usuda N, et al.,
3D cultured immortalized human hepatocytes useful to develop drugs for blood-borne HCV
Biochem Biophys Res Commun. , 379 , 330-334  (2009)
原著論文4
Watashi K, Inoue D, Shimotohno K, et al.,
Anti-hepatitis C virus activity of tamoxifen reveals the functional association of estrogen receptor with viral RNA polymerase NS5B
J. Biol. Chem. , 282 , 32765-32769  (2009)
原著論文5
Miyanari Y, Atsuzawa K, Shimotohno K et al.,
The lipid droplet is an important organelle for hepatitis C virus production.
Nature Cell Biol , 9 , 1089-1097  (2007)
原著論文6
Mohd-Ismail NK, Deng L, Sukumaran SK, et al.,
The hepatitis C virus core protein contains a BH3 domain that regulates apoptosis through specific interaction with human MCL-1
J. Virol. , 83 , 9993-10006  (2009)
原著論文7
Kasai D, Adachi T, Deng L, et al.,
HCV replication suppresses cellular glucose uptake through down-regulation of cell surface expression of glucose transporters.
J. Hepatol. , 50 , 883-894  (2009)
原著論文8
Deng L, Adachi T, Kitayama K, et al.,
Hepatitis C virus infection induces apoptosis through a Bax-triggered, mitochondrion-mediated, caspase-3-dependent pathway.
J. Virol. , 82 , 10378-10385  (2008)
原著論文9
Kato N, Mori K, Abe K, et al.,
Efficient replication systems for hepatitis C virus using a new human hepatoma cell line
Virus Res. , 146 , 41-50  (2009)
原著論文10
Yano M, Ikeda M, Abe K, et al.,
Oxidative stress induces anti-hepatitis C virus status via the activation of extracellular signal-regulated kinase.
Hepatology , 50 , 678-688  (2009)
原著論文11
Kawai Y, Ikeda M, Abe K, et al.,
Development of an HCV relapse model using genome-length HCV RNA harboring cells possessing the IFN-a-resistance phenotype.
Hepatol Res. , 39 , 898-909  (2009)
原著論文12
Ariumi Y, Kuroki M, Dansako H, et al.,
The DNA damage sensors Ataxia-Telangiectasia mutated kinase and checkpoint kinase 2 are required for hepatitis C virus RNA replication.
J. Virol. , 82 , 9305-9309  (2009)
原著論文13
Abe K, Ikeda M, Dansako H, et al.,
Cell culture-adaptive NS3 mutations required for the robust replication of genome-length hepatitis C virus RNA
Virus Res. , 125 , 88-97  (2007)
原著論文14
Sugiyama K, Suzuki K, Nakazawa et al.,
Genetic Analysis of Hepatitis C Virus with Defective Genome and Its Infectivity in Vitro.
J. Virol , 83 , 6922-6928  (2009)
原著論文15
Amako Y, Tsukiyama-Kohara K, Katsume A et al.,
Pathogenesis of hepatitis C virus infection in Tupaia belangeri.
J. Virol , 84 , 303-311  (2010)
原著論文16
Nishimura T, Saito M, Takano T, et al.,
Comparative Aspects on the Role of Polypyrimidine Tract Binding Protein in Internal Initiation of Hepatitis C Virus and Picornavirus RNAs.
Comp. Immunol. Microbiol. Infect. Dis. , 5 , 435-448  (2008)
原著論文17
Takai A, Toyoshima T, Uemura M, et al.,
A novel mouse model of hepatocarcinogenesis triggered by AID causing deleterious p53 mutations.
Oncogene , 28 , 469-478  (2009)
原著論文18
Kobayashi S, Takeda T, Nishiguchi S, et al.
Development of hepatocellular carcinoma in patients with chronic hepatitis C who had a sustained virological response to interferon therapy: a Multicenter retrospective cohort study of 1124 patients.
Liver Intern. , 27 , 186-191  (2007)
原著論文19
Banas A, Teratani T, Yamamoto Y et al.,
Rapid hepatic fate specification of adipose-derived stem cells and their therapeutic potential for liver failure.
J Gastroenterol Hepatol , 24 , 70-77  (2009)
原著論文20
Marusawa H.
Aberrant AID expression and human cancer development.
Int J Biochem Cell Biol. , 40 , 1399-1402  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
2017-01-20