HIVが形成する高分子複合体の機能不全化とそれを応用したウイルス制御法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200932046A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVが形成する高分子複合体の機能不全化とそれを応用したウイルス制御法の確立に関する研究
課題番号
H21-エイズ・若手-018
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 陽一(京都大学 ウイルス研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズはHIVの感染によって引き起こされる疾患であるが、HAART療法が可能となった現在でも、長期服用に伴う副作用や耐性ウイルスの出現が依然として大きな問題である。本研究ではHIV-1インテグレーションを実行する高分子複合体 (preintegration complex: PIC) に着目し、その機能を制御する細胞性因子を解析することによって、現存する化学療法と併用可能な新しいエイズ治療戦略の道筋を見出すことを目的とした。
研究方法
HIV-1 PICの調製はウイルス感染細胞の細胞質分画を抽出することによっておこなった。In vitro解析に用いる蛋白質は大腸菌で発現し、精製した。PICのインテグレーション活性はPICサンプルと標的DNA (ファージDNA)インキュベーションし、ウイルスDNAをサザンブロッティング法で検出することによって評価した。HIV-1インテグラーゼと細胞性蛋白質との相互作用は共免疫沈降法によって解析した。感染実験は複製可能なHIV-1ならびにHIVベクターを用いておこなった。
結果と考察
HIV-1 PICの機能に重要な細胞性構成因子としてDNA結合性蛋白質BAFが知られている。BAFはリン酸化されるとDNAへの結合能を失う。BAFのリン酸化修飾を触媒する細胞性キナーゼVRKをHIV-1 PICに添加したところ、in vitroにおけるPICのインテグレーション活性が阻害できることが明らかとなった。そしてその機能阻害にはPICからのBAFの解離を伴うことが示唆された。これは、細胞が本質的にもつインテグレーション制御分子の存在を示す初めての知見である。また、PICの重要な構成因子であるインテグラーゼ (IN) に結合する細胞性分子としてHuwe1を同定した。Huwe1ノックダウン細胞を用いた感染実験の結果より、Huwe1はインテグレーションまでの過程ではなく、感染性HIV-1粒子の形成を負に制御することがわかった。この結果はIN結合性因子のインテグレーション以外の過程における関与を示している。
結論
本研究ではHIV-1 PICに作用してインテグレーション反応を阻害する細胞性分子VRKと、IN結合性因子でありながら感染性ウイルス粒子の形成を負に制御する分子Huwe1を見出した。これらの結果はHIV感染症に対する新たな治療戦略を確立する上で極めて重要な情報をもたらすものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200932046C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV を含むレトロウイルスの PIC の機能を阻害する細胞性キナーゼ VRK を同定した。このようにインテグレーション活性を抑制する蛋白質はこれまでに報告されていないことから、本研究で得られた結果は世界的にみても初めての知見である。また、HIV-1 インテグラーゼに結合し、HIV-1 の感染性を負に制御する細胞性因子 Huwe1 を見出した。このことは、IN 結合性因子として同定された細胞性因子がインテグレーション以外の過程に影響を及ぼすという意味で、学術的に極めて興味深い結果である。
臨床的観点からの成果
インテグレーションは現在抗ウイルス剤の新たな標的として注目されているが、本研究では HIV-1 PIC の試験管内評価系を確立した。このシステムは IN 阻害剤の新規スクリーニングにおいて極めて有効である。また VRK の阻害機構を解析することは、既存の化学療法の効果を高める新たな治療戦略を確立する上で極めて重要な情報をもたらすものと考えられる。同様にHuw1の制御機構を明らかにすることは、Gag-Pol のIN 領域を標的とする新しい抗 HIV-1 剤開発の一助になると思われる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
HAART 療法の実施は HIV 感染者の余命の大幅な延長を実現したが、薬剤の長期服用に伴う耐性ウイルスの出現や副作用といった課題が残されている。これらの問題は特に長期療養を受けなければならない感染者にとって、肉体的、精神的、そして経済的な負担を強いるものとなるが、VRK や Huwe1 のウイルス制御に至る機構を明らかにすることは、化学薬剤の投与量を少なくでき、より効果の高い次世代 HAART 療法の実現につながる。結果的には薬剤コストの削減とそれに伴う感染者の早期社会復帰が期待される。
その他のインパクト
HIV-1 PIC の解析は世界でもごく限られた研究室でしかおこなわれていないが、本研究は PIC の試験管内評価システムの国内導入を可能にした。そして VRK のような細胞性インテグレーション阻害因子の存在は世界で初めての報告である。一方、Huwe1 の解析結果は、HIV-1 感染においてインテグラーゼ遺伝子がインテグレーション以外の過程にも影響を及ぼすという以前から知られていた現象を細胞性因子の側面から説明できるものとしてインパクトが高い。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shinoda, Y.et al.
Efficient transduction of cytotoxic and anti-HIV-1 genes by a gene-regulatable lentiviral vector
Virus Genes , 39 , 165-175  (2009)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-