高齢者の社会活動評価法に関する研究

文献情報

文献番号
199700651A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の社会活動評価法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大野 良之(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 川上憲人(岐阜大学)
  • 五十里明(愛知県衛生部)
  • 橋本修二(東京大学)
  • 永井正規(埼玉医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、高齢者の社会活動を個人レベルと地域レベルで評価するための標準的指標の作成と評価方法の一般化を目的としている。昨年度、社会活動を「家庭外の対人活動」と規定し、仕事、社会参加・奉仕活動、学習活動、個人活動の4側面ごとの個人評価指標(性・年齢別の基準集団全体におけるその人の活動程度の位置を0から1の範囲で表現)を作成した。昨年度までに本指標の基礎的検討を終了しており、本年度はその実用化のための予備調査実施後、「いきいき社会活動チェック表 利用の手引き」を作成した。地域レベルでの評価については、市町村が実施する高齢者の社会活動支援事業の実態を把握するための調査票に関する検討、および市町村における社会活動推進プログラムの評価に関する検討を行なった。
研究方法
1.個人レベルでの評価
個人評価指標実用化のための予備調査
(1)「いきいき社会活動チェック表」の作成:本班で開発した個人評価指標を用いて、自己の社会活動該当項目数のチェック表と、社会活動の性別判定表から成る「いきいき社会活動チェック表」を作成した。(2)調査対象と方法:65歳以上を対象として、G県G市E、Sの2地区は健康相談実施者(67人)、A県N市は人間ドック受診者(173人)、S県M町は老人保健法基本健康診査受診者(53人)に、「いきいき社会活動チェック表」(試作)を配布し、記入を依頼するとともに、記入方法等についての調査を実施した。
「いきいき社会活動チェック表 利用の手引き」の作成 本班が作成した社会活動個人指標を、地域における高齢者の保健医療福祉対策担当者に広く普及し、活用してもらうことを目的として作成した。
2.地域レベルでの評価
市町村が実施する高齢者の社会活動支援事業の評価方法の開発
(1)調査票の他地域での適用可能性の検討:平成8年度にG県99市町村を対象として、市町村が実施している高齢者の社会活動支援事業の実態を、その実施事業数によって評価する調査票を開発した。本年度は、この評価方法が異なった地域(A県88市町村)でも適用可能かどうかを検討した。(2)調査票の記入過程に関する調査:G県99市町村を対象として、調査票(修正版)を送付し、66市町村(回収率67%)から回答を得た。うち10市町村を無作為に抽出し、本調査票の記入者、情報収集の方法について電話で尋ねた。
市町村における社会活動推進プログラムの評価に関する検討
(1)調査票の開発:市町村における高齢者の社会活動支援実施状況について、行政施策の観点から、予備調査を実施し、把握方法の評価を試みた。調査項目は、人的項目(市町村の福祉担当職員数)、予算的項目(高齢者社会活動関連予算額など)、高齢者社会活動支援事業の運営状況、調査票への記入に関する評価である。(2)調査対象と方法:平成8年11月にG県とA県の高齢者対策主管課担当あてに調査票を送付し、記入を依頼した。
結果と考察
1.個人レベルでの評価
個人評価指標実用化のための予備調査
(1)調査対象概要:各地域の対象者の平均年齢は、E地区73.2歳、S地区76.2歳、N市68.8歳、M町69.1歳であった。社会活動指標の4側面ごとの平均値に地域格差がみられた。(2)「いきいき社会活動チェック表」記入に関する調査結果:全問無回答が多いS地区で、点数の付け方、判定表の記入の仕方がわかりにくく、判定結果が理解できないとする者の割合が多かった。E地区を除く3地域では点数のつけ方よりも判定表の記入が難しいと答えた者の割合が多かった。実際に記入が全部一人でできた者の割合は52.4%~83.8%であった。新しく社会活動を始めようと思った者の割合は、S地区で最も低かった。始めようとする活動としては、からだを動かすこと、ボランティア、趣味を通じたこと、老人会活動、自治会活動などが多かった。その他の自由記載では、自分のことがよくわかった、楽しかったという記載がある一方、こんなことをやっても無駄、質問が難しい、説明が足りないという記載もみられた。地域によって指標の平均値に相違がみられることから、この指標で地域の特徴を明らかにしうる可能性が示唆された。チェック表の記入に関しては、判定表の記入には若干の問題はあるが、概ね記入可能であると考えられる。また新しく社会活動を始めようと思うと回答したものが、14.3%~37.7%であり、社会活動の参加を促すという指標活用の目的が達成できる可能性が示唆された。
「いきいき社会活動チェック表 利用の手引き」の作成 予備調査の結果をふまえて「チェック表」を改訂し、我々が作成した社会活動指標を実際に活用する際のマニュアルを作成した。第一部は、いきいき社会活動チェック表の意味と活用方法を中心に、第二部は社会活動の考え方と社会活動の個人指標の開発と方法論的検討などを中心にまとめた。すなわち、第一部は実践のための使い方、第二部はその理論的裏付けという構成である。添付資料は、チェック表(男性用は青色、女性用は赤色)と、チェック表を実際に活用する現場で使用できるような社会活動について説明したポスターである。今後、市町村の保健・福祉担当者に広く普及し活用してもらえるように、「利用の手引き」を全市区町村に送付した。
2.地域レベルでの評価
市町村が実施する高齢者の社会活動支援事業の評価方法の開発
(1)調査票の他地域での適用可能性の検討:G県と同様に、A県においても市町村が実施する事業の大部分を把握できていることが判明した。4つの社会活動(就労、社会参加・奉仕活動、学習活動、個人活動)別の事業の区分も市町村担当者の判定とほぼ一致していた。市町村の社会活動支援事業の活発さの評定と実施事業数は正の相関を示し、社会活動領域別の実施事業数を指標とした評価は妥当であると考えられた。(2)調査票の記入過程に関する調査:教育委員会からの情報が不正確になりやすいことが判明した。したがって、記入の際の情報源を明記すべきであることがわかった。
市町村における社会活動推進プログラムの評価に関する検討
高齢者福祉常勤担当者の配置状況は、各市町村間に格差が認められた。非常勤担当者は、両県とも約1/3に配置されていた。高齢者一人当り社会関連予算額の平均は、A県7.3千円、G県23.2千円であった。社会活動分類別の報告事業数は、社会参加・奉仕活動が最多であった。調査票の内容に関しては、7割強が「適切」と回答した。人的項目、予算的項目の評価は、各市町村の規模、予算編成の相違等から客観性のある評価指標としては課題が多いと考えられる。事業の運営状況に関しては、各実施事業の概要を把握することができたが、今後はさらに修正するとともに事例集の作成等他の市町村の参考になるような具体的アプローチの検討の必要性が示唆された。
結論
個人評価指標の実用化のための予備調査を実施し、「いきいき社会活動チェック表利用の手引き」を作成した。地域レベルでの評価については、市町村が実施する高齢者の社会活動援助事業の実態を把握するための調査票に関する検討を行なった。

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