在宅ケアの評価及び推進に関する研究

文献情報

文献番号
199700650A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅ケアの評価及び推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
坂上 正道(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 古和久幸(北里大学)
  • 岡島重孝(川崎市立井田病院)
  • 福島雅司(福島医院)
  • 松本武敏(国立がんセンター)
  • 中田まゆみ(北里大学)
  • 酒井忠昭(ライフケアシステム)
  • 川瀬一郎(大阪府立羽曳野病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護力の客観的評価方法として総合介護スコア(在宅介護スコア+地域介護スコア)を設定し、在宅療養導入期において家庭環境、地域格差など複雑な条件下で在宅ケアを推進する上で一つの客観的指標となりうるか否かを検討した。本報告は 3年間の研究のまとめとして総合介護スコアの各種疾患における有用性について検討をおこなった。
研究方法
班員の所属する医療機関で在宅療養患者における諸問題について総合介護スコアを共通の指標として分析した。
総合介護スコアは本研究班で作成した在宅介護スコア第 2版(HOME CARE SCORE ver2)と地域介護スコア第 2版(COMMUNITY CARE SCORE ver2) の和で現した。在宅介護スコアは16項目(満点21点)、地域介護スコアは 8項目(最大15点)で評価した。これまでの検討で家族介護力だけで在宅ケアを行った場合には在宅介護スコアで最低11点以上が必要で、11点以下で在宅療養が可能なケースでは地域の支援による場合であり地域介護スコアを考案し、両者の和(総合介護スコア)の11点以上を介護力の面から在宅ケア可能群と設定して本研究を行った。
結果と考察
1.肺がん患者における在宅輸液療法(Home Infusion Therapy, HIT)
(対象・結果) (1)国立病院・呼吸器内科の入院中で、?期非小細胞肺がんの診断をえた評価可能な63例を対象とし、入院後一ヵ月以内と退院前一週間内の介護スコアを対比検討した。在宅輸液療法(HIT) を導入後の在宅可能群の在宅介護スコアは平均15.1点(8~22)であり、在宅不能群では平均10.5点(1~21) であった。在宅不能群では病態の悪化から早期死亡、退院不能となる症例が多かった。
(2)公立病院内科に入院した肺がん患者48名中、医学的に在宅輸液療法が適応と判断した24例で、その中在宅可能群11例、在宅不能群13例の検討では、介護スコアは在宅可能群で平均15点、在宅不能群11点であった。特記すべきことは病名告知率および配偶者との同居率が在宅可能で有意に高率を示した。
(考察) 肺がん患者での在宅輸液療法(HIT) の導入には総合介護スコアで15点以上が必要で、脳血管障害などの慢性疾患に比し高い傾向であった。末期がんにおける在宅輸液療法の導入に際しては、? ADLが良く保たれていること、?病名告知がなされていること、?配偶者による介護が期待できることなども必要条件となることが明らかとなった。
2.慢性肺疾患患者における在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy, HOT)
(対象・結果) 対象は私立大学病院呼吸器内科および公立病院内科外来患者のうち在宅酸素療法(HOT) 実施中で本研究調査に協力を受諾した60歳以上の41名(男性24名、女性17名)で、平均年齢は73.6±6.0 歳、75歳以上の後期高齢者が21名(51.2%)である。HOT適応の原因疾患は98%が肺疾患で、そのうち慢性閉塞性肺疾患が24名(60.0%)であった。これら患者の在宅介護スコアの平均は 1.6±2.4 でカットオフ値であり11以下は僅か2 名であった。また地域介護スコアの平均は51.7±1.2 で、両者の和である総合介護スコアの平均は16.2±4.7 と比較的高い傾向にあった。これら患者の在宅ケアの問題点はHOTが地域中核病院の外来を中心に病院完結型で実施され、地域医療システムとはむしろ疎遠な関係にあり患者は急変時の対応に不安を感じている点であった。 (考察) 慢性の呼吸機能障害に対するHOTは比較的日常運動動作の障害が少ないケースが多く通常の外来診療と同様な感覚で患者側も医療側も対応している傾向にある。介護スコア値の観点からも在宅ケアの適応疾患となるが、急変時の対応について他の在宅ケアと同様の取り組みが必要と考えられた。
3.施設療養から在宅ケア移行前後での介護スコア値の変動
(対象・結果) 地方の中核都市での施設療養から在宅ケアへ移行した患者について総合介護スコアを追跡調査した。対象は 15例(男性6,女性9)で平均年齢は83.3±16.5歳原因疾患はがん疾患を除外した成人病で脳血管障害、心臓循環器障害、骨関節疾患および呼吸器疾患などである。退院前の総合スコアは15.7±2.6 で、退院後のそれは16.0±2.5 で不変であった。また退院前の在宅介護スコアは12.7±3.0 、地域介護スコアは3.0±1.2で、退院後の在宅介護スコアは 12.9±3.2、地域介護スコアは3.1 ±1.2 でいずれも有意な変化は認められなかった。これらの結果は退院前の予想スコアは退院後の実際のスコアを充分に反映していた。追跡調査で15例中13例は在宅療養の継続が可能であったが、 2例は退院後一ヵ月後に不可能となった。その原因は、 1例は原病の悪化による食事摂取不能、他の 1例は原病の進行による死亡であった。この 2症とも退院前の在宅介護スコアは 8で際立って低値であったが、地域介護スコアが5.5および4.5と高値で総合介護スコアでは13.5および12.5と理論上は在宅可能な値を示していた。
(考察) 総合介護スコアの実用性を検証する目的で退院前後のスコア値を比較検討した。少数例ではあるが在宅ケア継続のためには総合介護力スコアは12~14以上が望ましく、さらに在宅介護スコアは10以上が必要であることが明らかとなった。
4.高齢介護者による在宅ケア
(対象・結果) 関東地区政令都市での在宅ケアの調査 134例(男78、女56)で65歳以上老人が99名(78.9%)で、特に75歳以上の後期老人が63名(47%)であった。これに対し介護者126 例の年齢を層別化してみると、50歳~64歳が46名(36%)ともっとも多く、65歳以上は35名(27.8%)で、4 人に 1人は高齢者であった。なかでも75歳以上の後期老人が介護者であるケースが14名(女11名、男性 3名)11.1%であった。また単身者で介護者不在が 8例( 6%)にあり、その中で 5例の患者は65歳以上の老人で、単身高齢世帯での在宅療養が現実の問題となっていることが明らかとなった。一方介護スコアの観点から分析するとカットオフ値11点以下は 9例で、被介護者、介護者ともに65歳以上の高齢在宅家庭が 6例であった。
(考察) 平成 7年の国勢調査では夫 65歳以上、妻 60歳以上の高齢夫婦世帯は全世帯の6.3 %で、今後高齢単身世帯や高齢夫婦世帯は増加すると考えられる。これら高齢者による在宅ケアではハイリスクが予想され、高齢者の場合はむしろ施設療養を第一選択とするのが安全性の面からも適切であろう。
5.在宅療養での介護疲労とその援助法
(対象・結果) 大学病院に通院中の在宅療養患者(主として慢性神経疾患)の介護者170
名を対象に、総合介護スコアの高得点群(11点以上)と低得点群(10点以下)の 2群間でBarthel Index、 介護者の身体的・精神的疲労感、介護負担感、介護者の健康状態、地域介護力の導入度などを比較検討した。 介護者で身体的・精神的疲労感を自覚するものは133 名(78.2%)で低得点群に多い傾向がみられた。これらの自覚と関連する患者の状態としては (1) ADL低下に伴う介護量の多いこと、(2)精神症状への対応、(3)闘病意欲の低下、 (4)介護者の生活環境の変化があげられる。介護負担感の自覚は特に低得点群で高率(84.8%)でその要因として (1)介護代理人の不在、 (2)不眠にともなう疲労感、いらいら感など、 (3)介護者の持病の悪化などが関与していた。一方ではショートステイや長期入院できる施設の紹介を希望し、介護者も心身の健康に不安を抱いている傾向が認められた。
介護疲労による自覚症状を訴えるものについて自律訓練法の指導を行い、身体・精神症状の軽減、不安傾向やうつ状態の改善傾向がみられた。 (考察) 在宅ケア患者のみならず介護者も外部からの情報が閉ざされた状況にあり身体的・精神的疲労感などの愁訴を有するものが多い傾向にある。従って患者の身体管理にとどまらず介護者にたいするソシアルサポートシステムの早急な構築が在宅ケアの継続に必要である。
結論
(1)在宅介護スコアは在宅ケア導入期の客観的指標となりうることが明らかとなった。
(2)在宅ケアが可能であるためには、一般には総合介護スコア値が最低の限界点として11点が必要条件と考えられるが、原疾患により異なっていた。
(3)がん患者においては介護スコアで15点以上が必要で、他の慢性疾患に比し高い傾向であった。末期がんにおける在宅輸液療法の導入には ?ADLが良く保たれていること、?病名告知がなされていること、?配偶者による介護が期待できるなども必要である。
(4)慢性の呼吸機能障害での在宅酸素療法(HOT) 総合介護スコアの観点からも在宅ケアの適応疾患であるが、現状は病院集中型で行われており、地域のかかりつけ医、保健婦、訪問看護ステーション、福祉施設を含めた連携システムの確立が今後の課題である。
(5)在宅ケア導入前後のスコア値を比較検討では、在宅ケア継続のためには総合介護力スコアは12~14以上が安全であり、とくに在宅介護スコアは10以上が必要と考えられた。 (6)高齢単身世帯や高齢夫婦世帯が増加する傾向にあり、これら高齢者による在宅ケアではハイリスクが予想され、高齢者の場合はむしろ施設療養を第一選択とするのが安全性の面からも適切であろう。
(7)介護者とくに慢性療養患者の介護では、介護者は外部からの情報も閉ざされた状況にあり身体的・精神的疲労感などの愁訴を有するものが多い傾向にある。従って患者の身体管理にとどまらず介護者にたいするソシアルサポートシステムの早急な構築が在宅ケアの継続に必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)