リアルワールド電子カルテ情報を用いた循環器病の再発・重症化・合併症のリスク因子の分析と介入の費用対効果

文献情報

文献番号
202308020A
報告書区分
総括
研究課題名
リアルワールド電子カルテ情報を用いた循環器病の再発・重症化・合併症のリスク因子の分析と介入の費用対効果
課題番号
22FA1016
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 苅尾 七臣(自治医科大学 循環器内科学部)
  • 甲谷 友幸(自治医科大学 成人先天性心疾患センター)
  • 今井 靖(自治医科大学 臨床薬理学)
  • 興梠 貴英(自治医科大学 医療情報部)
  • 笹渕 裕介(自治医科大学 データサイエンスセンター)
  • 藤田 英雄(自治医科大学 総合医学第1講座循環器内科)
  • 中山 雅晴(東北大学 医学系研究科医学情報学分野)
  • 都島 健介(東京大学 医学部附属病院循環器内科)
  • 水野 由子(東京大学 医学部附属病院循環器内科)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター)
  • 的場 哲哉(九州大学 大学病院循環器内科)
  • 辻田 賢一(熊本大学 大学院生命科学研究部循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度はCLIDASデータベースを用いて再発重症化脳と心臓の合併症の発生率と危険因子の要因分析を行いさらに独立して県単位で収集したレセプトデータを解析することにより循環器病の治療法に関する費用効果分析を実施することを目的とした。
研究方法
参加各施設において臨床疫学的手法を用いて下記の検討を行った。
1. 日本人虚血性心疾患患者でのPCI後の抗血小板薬が脳血管イベントに及ぼす効果と安全性に関する研究
2.ポリファーマシーに関する検討
3. CLIDASを用いた慢性冠動脈疾患患者における脳卒中と心血管疾患との関係性の検討
4. PCIを行った虚血性心疾患患者に対する標準量β遮断薬プラスグレルの費用効果の検討
5. 虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の心血管イベント発生に影響する要因についての検討
6. SEAMAT標準化及びPCI症例における拡張期血圧と予後との関連の検討
7. 日本人PCI後患者の心不全発症率と生命予後についての解析
8. 大動脈弁狭窄症を合併した冠動脈疾患患者の短期・長期予後の検討
9. 冠動脈疾患患者の脂質管理の実態と予後を分析
10. PCI後患者の心機能の長期予後・出血イベントに対する影響
結果と考察
1.虚血性心疾患(IHD)患者のPCI後に処方された抗血小板薬とその後の脳血管イベント発生率の関連を検討した。その結果プラスグレル内服群ではクロピドグレル内服群よりも脳卒中発生率が低下していることが示唆された。またこのリスク低下には頭蓋内出血リスクの増大を伴っていないことが示された。
2.慢性冠動脈疾患(CCS)患者のPCI時の薬剤使用状況を調べた。その結果平均9種類の薬剤を使用しており薬剤数が多いことと全原因死亡や心血管イベント増加が関連する可能性が示唆された。
3. CCSに対して治療を行った患者を対象として脳卒中の既往の有無で脳心血管イベントに違いがあるかを調べた。その結果脳卒中の既往と心血管イベントとの関連性が示され両疾患を共に循環器病としてリスク管理することの重要性が示された。
4. PCIを行ったIHD患者に対する複数薬剤の費用対効果を分析した。その結果標準量β遮断薬の低用量β遮断薬投与に対する増分費用効果費は心血管イベント1件あたり460万円であった。プラスグレルはクロピドグレルと比較して1年時点での総費用に有意差を認めなかった。
5.高尿酸血症(HUA)群はMACE発生率は非HUA群と比較して有意に高かった。さらにHUAは心不全による入院の増加と独立して関連していたが複数回の調整後では心血管死や心筋梗塞とは関連していなかった。
6.脈圧が高い群は高齢女性の占める割合が高いなどの特徴があった。また心拍数は少なく左室駆出率も保持されていた。脈圧とMACE・心不全入院イベント率にはU字状の関係を認めた。多変量解析では脈圧低値とイベントに有意な関連を認めた。入院時と退院時の脈圧が上下する群は予後不良と関連した。一方脈圧と血行再建においては直線関係を認め多変量解析では脈圧低値とイベントに有意な関連を認めた。また入院時より退院時の脈圧が低下する群は予後不良と関連することが明らかになった。
7.PCI後の患者は5-6%の頻度で心不全を発症し生命予後悪化に寄与していたためIHD再発予防と同時に心不全発症予防を念頭に置くことは医療費抑制に重要であることが示唆される結果が得られた。
8. AS群は非AS群に比べPCI後30日以内及び31日後から5年間の長期期間の両者で予後不良であった。ASの重症度別の解析ではPCI後30日以内の短期予後では中等度AS以上で予後不良となった。一方で長期予後では全てのASの重症度において予後不良であった。
9.PCI治療を受けたIHD患者におけるガイドラインによる患者リスク層別化の有用性の検討を行った。定義上の高リスク患者群は中等度リスク患者よりも心血管イベント率は高くガイドラインの改訂は妥当と考えられた。一方で高リスク患者におけるLDL-C低下目標達成率は低くリアルワールドデータによって臨床の課題が明らかとなった。
10.穿刺部出血はPCI後30日以内に多く見られ75歳以上で消化管出血が80歳以上で頭蓋内出血の増加を認めた。消化管出血とPPIとの関連を検討したところPPI内服は消化管出血リスクを低下させ特にDAPTやAspirin単剤非CKD群ACS群で効果が顕著でありACSの場合はPPIにより全死亡リスクも低下した。これによりPPIの積極的な使用が消化管出血のリスクを減少させ特定の患者群で死亡リスクを低下させる可能性があることが示された。
結論
昨年度に続きCLIDASを解析することで様々な側面から循環器疾患にかかわる知見を得ることができた。これらは多くの学会発表および3編の英語原著論文として公表することができた。

公開日・更新日

公開日
2024-08-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-08-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202308020B
報告書区分
総合
研究課題名
リアルワールド電子カルテ情報を用いた循環器病の再発・重症化・合併症のリスク因子の分析と介入の費用対効果
課題番号
22FA1016
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 苅尾 七臣(自治医科大学 循環器内科学部門)
  • 甲谷 友幸(自治医科大学 成人先天性心疾患センター)
  • 今井 靖(自治医科大学 臨床薬理学)
  • 興梠 貴英(自治医科大学 医療情報部)
  • 笹渕 裕介(自治医科大学 データサイエンスセンター)
  • 藤田 英雄(自治医科大学 総合医学第1講座循環器内科)
  • 中山 雅晴(東北大学 医学系研究科医学情報学分野)
  • 都島 健介(東京大学 医学部附属病院循環器内科)
  • 水野 由子(東京大学 医学部附属病院循環器内科)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター)
  • 的場 哲哉(九州大学 大学病院循環器内科)
  • 辻田 賢一(熊本大学 大学院生命科学研究部循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究期間を通じてCLIDASデータベースを用いて再発重症化脳と心臓の合併症の発生率と危険因子の要因分析を行いさらに独立して県単位で収集したレセプトデータを解析することにより循環器病の治療法に関する費用効果分析を実施することを目的とした。
研究方法
参加各施設において臨床疫学的手法を用いて下記の検討を行った。
1. 日本人虚血性心疾患患者でのPCI後の抗血小板薬が脳血管イベントに及ぼす効果と安全性に関する研究
2.ポリファーマシーに関する検討
3. CLIDASを用いた慢性冠動脈疾患患者における脳卒中と心血管疾患との関係性の検討
4. PCIを行った虚血性心疾患患者に対する標準量β遮断薬プラスグレルの費用効果の検討
5. 虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈インターベンション
6. PCI症例における拡張期血圧と予後との関連を検討
7. 日本人PCI後患者の心不全発症率と生命予後についての解析
8. 大動脈弁狭窄症を合併した冠動脈疾患患者の短期・長期予後の検討
9. 冠動脈疾患患者の脂質管理の実態と予後を分析
10. PCI後患者の心機能の長期予後・出血イベントに対する影響
結果と考察
1.解析の結果ACSでは標準量のほうがMACCEが有意に少なかったがCCSでは低用量・標準量群で有意な差はなく 心拍数がコントロールされていればβ遮断薬の標準量投与が必ずしも必要でない可能性が示された。
2.PCI周術期に使用していた薬剤数のみを集計して解析を行った結果プラスグレルがPCI後の脳血管リスクを低減する可能性が示された。これによりプラスグレルが非致死性脳梗塞の予防に有効であることが示唆され特に頭蓋内出血のリスク増加も伴わないため従来のクロピドグレル内服よりも脳血管保護効果と安全性のバランスが取れる可能性が示された。
4.CCSに対してPCIを行った患者を対象として脳卒中の既往の有無で主要評価項目としてMACCE(心血管死心筋梗塞脳卒中)副次評価項目としてMACCEの各因子心不全入院全死亡に違いがあるかを検討した。その結果 CCSに対してPCIを行った患者において脳卒中の既往が将来の脳卒中発症だけでなく心血管疾患発症の予測因子にもなりうること考えられた。
5.CLIDASデータベースの分析により標準量βブロッカーが心血管イベントを減少させることプラスグレルが脳梗塞の発症を減少させることが明らかとなったため費用対効果分析を行ったところ標準量β遮断薬の低用量β遮断薬投与に対する増分費用効果費は心血管イベント1件あたり460万円であった。プラスグレルはクロピドグレルと比較して1年時点での総費用に有意差を認めなかったという結果を得た。
6.CLIDASデータベースを分析することでPCIを施行したCCSにおいて長期予後に男女差は有意差をもたらさなかったおよびPCI後のCCS患者における高尿酸血症がMACE特に心不全のリスク予測因子となりうることを示すことができた。
7.脈圧とMACE再血行再建術心不全入院との関連を検討した。脈圧で5分位にし各群と予後を評価した結果脈圧が高い群は高齢女性の占める割合が高いなどの特徴があった。また心拍数は少なく左室駆出率も保持されていた。脈圧とPMACE・心不全入院イベント率にはU字状の関係を認めた。多変量解析では脈圧低値とイベントに有意な関連を認めた。入院時と退院時の脈圧が上下する群は予後不良と関連した。
8.虚血発症様式(急性慢性)によらずPCI後の患者は5-6%の頻度で心不全を発症し生命予後悪化に寄与していたことが明らかになった。この結果はPCI患者において虚血性心疾患再発予防と同時に心不全発症予防を念頭に置くことは医療費抑制に重要であることを示唆した。
9.解析の結果ASを合併している冠動脈疾患に対するPCIは予後不良であった。特にPCI後30日以内の予後では中等度以上のAS症例で特に予後不良であった。中等度ASの症例でもPCI後30日以内の全死亡は非AS群と比較してハザード比6.20と非常にハイリスクであることが明らかとなった。長期的には全てのAS合併CAD症例に対する慎重な追跡が重要であることが示唆された。
10.リアルワールドにおける脂質管理の現状を明らかにし冠動脈ステント留置後の患者の背景因子と脂質管理の現状と予後の関係またガイドライン改定の影響を明らかにすることを目的とした解析を行ったところ2022年に改定された動脈硬化性疾患予防ガイドラインにおけるハイリスク患者の再分類は妥当であることが示されまた同ガイドラインによるリスク分類はIHD二次予防患者のPCI後MACE発症率と相関していた。
結論
CLIDASを解析することで様々な側面から循環器疾患にかかわる知見を得ることができた。これらは多くの学会発表および6編の英語原著論文として公表することができた。

公開日・更新日

公開日
2024-08-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-08-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202308020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
経皮的冠動脈形成術による治療を受けた虚血性心疾患患者約10,000例のリアルワールドデータを分析できる基盤を構築できた。さらに、このデータベースを分析することで多数の学会発表および6編の英文原著論文を公表することができ、循環器病の再発・重症化・合併症についてその要因を明らかにできた。さらにリアルワールドデータをDPCデータと組み合わせて分析することで治療介入の費用対効果を示すことができるなど循環器疾患に関する多角的な知見を得ることができた。
臨床的観点からの成果
急性冠症候群では低用量のβ遮断薬はMACCE発症率増加に関連すること、平均9種類の薬剤を使用しており、薬剤数の増加と全原因死亡や心血管イベントの増加に相関がみられたこと、脳卒中の既往と心血管イベントとの関連性が示され、両疾患を共に循環器病としてリスク管理することの重要性が示されたこと、高尿酸血症はMACEの上昇に関連していること、虚血発症様式によらずPCI後の患者は5-6%の頻度で心不全を発症し、生命予後悪化に寄与していたこと等多くの臨床的知見を得ることができた。
ガイドライン等の開発
該当事項なし
その他行政的観点からの成果
リアルワールドデータの分析により、循環器疾患と脳血管疾患の間に相関があることを示され、これは「脳卒中・循環器病対策基本法」に沿った医療行政の施策を推進する根拠の一つとなる。
その他のインパクト
本研究を通じて多施設の循環器疾患リアルワールドデータベースCLIDASを強化することができたが、これはさらに戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期の中で引き継がれて参加施設数を増やし、より大きなデータベースを構築することにつながっている。さらにこれまでのノウハウを生かして循環器疾患以外に各種がんも対象としてデータベースを構築しつつあり、より広範な疾患について分析を行うことができる体制が整いつつある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Oba Y, Kabutoya T, Kohro T et al.
Relationships Among Heart Rate, β-Blocker Dosage, and Prognosis in Patients With Coronary Artery Disease in a Real-World Database Using a Multimodal Data Acquisition System.
Circ J. , 87(2) (336-344)  (2023)
原著論文2
Otsuka Y, Ishii M, Ikebe S et al.
BNP level predicts bleeding event in patients with heart failure after percutaneous coronary intervention.
Open Heart. , 10(2) (e002489)  (2023)
原著論文3
Ikebe S, Ishii M, Otsuka Y et al.
Impact of heart failure severity and major bleeding events after percutaneous coronary intervention on subsequent major adverse cardiac events.
Int J Cardiol Cardiovasc Risk Prev. , 18 (200193)  (2023)

公開日・更新日

公開日
2024-07-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
202308020Z