エイズ多剤併用療法中のリザーバーの特定および選択的障害に関する研究

文献情報

文献番号
200932010A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ多剤併用療法中のリザーバーの特定および選択的障害に関する研究
課題番号
H20-エイズ・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 樹彦(京都大学 ウイルス研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
4,795,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 抗HIV-1多剤併用療法の問題は、感染者からウイルスを完全に排除する事が出来ない点であり、この為、感染者は薬剤を一生服用せねばならず、薬剤の副作用、変異ウイルスの出現、高額な医療費等の問題が派生する。本研究計画では多剤併用療法中にウイルスを保持し続けるリザーバーを特定、そのリザーバーを選択的に傷害する方法の開発を最終目的とする。リザーバーの全身レベルでの検索を行う為、サルエイズモデルであるSIVmac/アカゲザル実験系を用いることとした。21年度は感染サルに確立した多剤併用療法を適用、投薬中止直後に安楽殺し各組織をRT-PCR及び免疫組織化学により検索した。
研究方法
 多剤併用療法には逆転写阻害剤3剤(AZT、3TC、TDF)およびプロテアーゼ阻害剤2剤(LPVおよびRTV)を用いた。
 ウイルスはSIVmac239を2000 TCID50接種した。
 中国産アカゲザル3頭を用い、1頭は非治療対照、2頭に多剤併用療法を感染8週後から10週間及び38週後から8週間適用した。
 2度目の投薬を中止10日後、治療個体を安楽殺し、全身のリンパ系組織及び主要組織を採材し、組織学的検索およびPCRを行った。
結果と考察
1. 2度の治療期間中、感染サルの血漿中ウイルス量は検出限界以下に抑制された。
2. 各組織におけるウイルスRNA量を測定したが、リンパ系組織でのみウイルスRNAが検出された。
3. リンパ系組織における感染細胞を免疫組織化学的に検索した所、非常に少数ながらウイルスタンパク陽性細胞が検出された。
考察
 今年度の成果で最も重要なものは、多剤併用療法中止直後にリンパ系組織でウイルス複製が見られた事である。活発なウイルス複製及びそれによる細胞傷害の起こる場として、「エフェクターサイト」が認められているが、今回の解析結果からは、「エフェクターサイト」はウイルスリザーバーとならないと考えられる。「エフェクターサイト」は抗ウイルス剤が浸透しやすく、リンパ系組織には浸透しにくい可能性は、リンパ系は解放系で血液・脳関門の様な障壁が存在しない事から考えにくい。むしろ、多剤併用療法中もウイルスを産生し続ける細胞の頻度が「エフェクターサイト」では少なく、リンパ系組織では多いと考えられる。
結論
 SIV239/アカゲザルエイズモデルにおいて多剤併用療法中にリンパ系組織及びそこに存在する細胞がウイルスリザーバーとなる事が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
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