高齢者の健康度および保健行動に関する研究

文献情報

文献番号
199700648A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の健康度および保健行動に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
園田 恭一(東洋大学社会学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全国の高齢者に対する長期縦断研究に基づき、第1に高齢者の健康度の変化とその予測要因を社会的・心理的な側面から解明すること、第2に米国の高齢者と比較対照することによって、我が国の高齢者の特徴を解明することの2点である。本研究の特徴は、第1には、全国の高齢者を対象とした既存のパネル(6年間の縦断調査のパネル)を活用し、長期の縦断調査(9年間の縦断調査)に基づいた知見をえることができること、第2には、調査項目の多くが米国における既存の高齢者調査と比較可能であるため、わが国でえられた知見の妥当性や文化差に言及できることにある。
研究方法
1.パネル:初回調査は1987年に全国高齢者から無作為に抽出された3,288人を対象に訪問面接法によって実施された。初回調査の完了者2,200人を対象に1990年、第1回追跡調査が訪問面接法によって実施され、1,671人に対して調査を完了した。1993年に実施された第2回追跡調査は、初回調査の完了者を対象に訪問面接法によって実施され、1,532人に対して調査を完了した。本研究では、第3回全国調査を初回調査の全数に対して行い、1,446人(代行を含む)に対して追跡調査を完了した。9年間の追跡期間の間にパネルから死亡によって脱落した者が573人(第1次追跡調査時163人、第2次追跡調査時195人、第3次追跡調査時215人)いるため、それを除いた9年間の追跡率は88.9%で、高い割合でパネルを維持した。
2.米国のデータ:ミシガン大学老年学研究所によって実施されたものを用い、二次分析を行った。調査標本は、アラスカ、ハワイを除く米国に居住する25歳以上の住民から多段階層化抽出によって得ている。回収数は3,617人であり、回収率は67%であった。本研究では60歳以上の調査完了者を分析対象とした。その際、黒人の標本抽出確率が白人に比べ2倍であったため、黒人の調査完了者を無作為に半数抽出し、それを白人の調査完了者に加えた1,419人を分析対象とした。
3.調査項目:我が国の調査項目は、米国の調査項目の翻訳・再翻訳を行って作成したものであり、米国のデータと直接比較可能なものとした。
結果と考察
1.身体的・精神的・社会的健康度の9年間の加齢変化:身体的健康度の指標とした日常生活動作能力および精神的健康度の指標とした抑うつ症状は9年間で有意に悪化していた。精神的健康度の指標とした生活満足度および社会的健康の指標とした対人接触頻度と社会参加頻度には9年間で有意な変化がみられなかった。以上から、加齢とともに身体的健康度は低下するものの、精神的あるいは社会的健康度は必ずしも低下するものではないことが示唆された。
2.9年後の健康度の予測要因:初回調査の保健行動の実施(非喫煙、運動、適度な飲酒、適性体重の維持)および社会的ネットワーク(対人接触頻度、社会参加頻度)が9年後の生命予後、日常生活動作能力、抑うつ症状をどの程度予測しうるかを検討した。生命予後に対しては非喫煙と社会参加頻度が、日常生活動作能力の維持に対しては適性体重の維持が、抑うつ症状の低下に対しては非喫煙が有意な予測効果をもっていた。中年期と比較した場合、高齢者においては健康の維持に対する生活習慣の効果が相対的に弱いことが伺えた。
3.追跡期間による予測要因の効果の差異:初回調査の保健行動・社会的ネットワークの各変数を独立変数として投入し、それらが第1次追跡調査(3年後調査)、第2次追跡調査(6年後調査)、第3次追跡調査(9年後調査)の健康度をそれぞれどの程度予測しうるかを検討した。社会参加頻度は3年後、6年後、9年後の生命予後いずれに対しても有意な予測効果をもっていた。非喫煙は6年後調査の認知能力と9年後の生命予後に対して有意な効果をもっていた。運動の実施は9年後の調査で評価された日常生活動作能力に対してのみ有意な効果をもっていた。すなわち、予測要因の効果は追跡調査の時期によって異なることが示された。
4.ライフイベントの効果:配偶者との死別および仕事からの引退を設定し、それぞれの健康度に与える影響を検討した。配偶者との死別に関しては、死別後1年未満では精神的・身体的健康度とも死別を経験していない者と比べて有意な低下がみられたが、1年以上ではこのような差が観察されなかった。引退については、精神的および社会的健康指標の面から、その健康影響を評価した。3年間に仕事から引退した者ではそうでない者と比較して精神的および社会的健康度には有意な変化がみられなかった。
5.高齢者の世帯構成の変化:6年間の追跡調査に基づいて、別居から同居へ、同居から別居へという世帯構成の変化の予測要因を、高齢者のニーズという視点によって検討した。高齢者のニーズとは経済面での満足感および日常生活動作能力の多寡であった。分析の結果、高齢者のニーズの多寡が子供との同別居と有意な関係がみられないことが示された。
6.健康度の日米比較:我が国の高齢者は米国と比較して、慢性疾患に罹患している者の割合および日常生活動作能力で測定された身体的健康度は良好であるが、社会参加や対人接触で測定した社会的健康度に関しては低位な状態にあった。精神的健康度の指標とした抑うつ症状に関しては日米で差はみられなかった。
7.社会的支援の日米比較:日本では米国と比較して「単独世帯」「夫婦二人世帯」に属する高齢者であっても別居子、近隣・友人からの支援や地域組織とのつながりに乏しいこと、また、米国では日常生活動作能力が低下した場合でも、低下しない高齢者と比べてほぼ同じ水準で地域組織や友人・知人などとの関係を維持しているが、日本では日常生活動作能力に障害をもった場合にはこのような人間関係が希薄であった。日本では伝統的な敬老精神および、年齢が上下関係を決定する重要な要素となるタテ社会によって、高齢者が尊敬され、社会からの離脱を強制されないとの指摘があるが、これを支持する結果を得ることができなかった。
8.社会的支援の多寡と精神的健康との関係の日米比較:社会的支援を続柄別に評価し、それらと抑うつ症状との関係を日米で比較した。「配偶者」「子供」「親戚・友人」のいずれからの支援も、高齢者の抑うつ症状の軽減に貢献していたことは日米で共通していた。しかし、その関連の強さには日米で違いがみられ、米国の方が「配偶者」および「親戚・友人」の影響が強かった。
結論
1.米国の高齢者と日本の高齢者とでは、生活と健康がかなり異なることが示された。
2.第4波追跡調査を実施した結果、死亡者を除く9年間の追跡率は88.9%で、高い割合でパネルを維持することができた。
3.高齢者の健康度の9年間の加齢変化は身体的・精神的・社会的な側面で異なることが示された。
4.高齢者の健康の維持・回復に対する生活習慣の効果が低いことが示された。
5.今後の課題として、このパネルをより長期にわたって維持することが指摘される。

公開日・更新日

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