文献情報
文献番号
202307049A
報告書区分
総括
研究課題名
小児・AYA世代のがん患者等に対する妊孕性温存療法のエビデンス確立を目指した研究―安全性(がん側のアウトカム)と有効性(生殖側のアウトカム)の確立を目指して
課題番号
21EA2004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 直(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 森重 健一郎(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター)
- 高井 泰(埼玉医科大学総合医療センター産婦人科)
- 古井 辰郎(岐阜大学大学院 医学系研究科)
- 小野 政徳(東京医科大学 医学部)
- 渡邊 知映(昭和大学 保健医療学部)
- 湯村 寧(横浜市立大学附属市民総合医療センター)
- 清水 千佳子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 病院 乳腺・腫瘍内科 兼 がん総合診療センター)
- 片岡 伸介(名古屋大学 医学部)
- 宮地 充(京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学)
- 山本 哲哉(横浜市立大学 医学部脳神経外科)
- 中山 タラントロバート(慶應義塾大学 医学部)
- 中島 貴子(京都大学 医学部附属病院 次世代医療・iPS細胞治療研究センター (Ki-CONNECT))
- 藤井 伸治(岡山大学病院 輸血部)
- 菊地 栄次(聖マリアンナ医科大学 腎泌尿器外科学)
- 梶山 広明(名古屋大学 大学院医学系研究科 産婦人科学)
- 堀江 昭史(京都大学 産科婦人科)
- 原田 美由紀(東京大学 医学部附属病院)
- 真部 淳(国立大学法人 北海道大学大学院 医学研究院 小児科学教室)
- 安岡 稔晃(愛媛大学 医学部)
- 桂木 真司(宮崎大学医学部附属病院)
- 銘苅 桂子(琉球大学 周産母子センター)
- 前沢 忠志(三重大学 医学部)
- 洞下 由記(奥津 由記)(聖マリアンナ医科大学 産婦人科学)
- 前田 尚子(国立病院機構名古屋医療センター小児科)
- 寺下 友佳代(北海道大学 大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
2,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本邦のがん・生殖医療における安全性(がん医療側のアウトカム)と有効性(生殖医療側のアウトカム)に繋がるエビデンスの集積 、適切な長期検体保存体制の検証ならびに構築 、がん・生殖医療に係わる全国の医療機関の医療の質向上を目的とする
研究方法
研究① 1)研究班のwebサイトの「妊孕性温存実施施設(研究協力施設)を探す」のページ更新業務を実施する。2)研究班参加施設の認定事業を実施する
研究② 1)日本産科婦人科学会臨床倫理監理委員会のがん・生殖医療施設認定小委員会、2)日本泌尿器科学会、3)日本がん・生殖医療学会JOFR管理運営委員会と連携し、本研究促進事業に参加する施設情報を共有する。適宜「妊孕性温存実施施設(研究協力施設)を探す」のページ更新を行う
研究③-1小児・AYA世代がん患者等に対する妊孕性温存療法研究促進事業に参加する、日本産科婦人科学会と日本泌尿器科学会の認定施設に調査票を郵送配布し、妊孕性温存療法及び温存後生殖補助医療にかかる患者支払い額を調査
研究③-2 43歳以上の凍結融解胚移植による妊娠の周産期転帰を明らかにすることを目的とし、日本産科婦人科学会ART登録事業データベースより2016年1月-2019年12月までの間に43歳以上で凍結融解胚移植によって妊娠し、妊娠22週以降の分娩に至った単胎症例を抽出し対象とした。一方、日本産科婦人科学会の周産期登録データベースを用いて、同期間に自然妊娠またはnon-ART妊娠し妊娠22週以降の分娩に至った43歳以上の単胎症例を対照群とした
研究③-3がん治療前の妊孕性温存療法ならびに温存後生殖補助医療に対する助成事業はエビデンス創出のための研究という側面があり、専用アプリを用いて年1回、患者から臨床情報等のデータ収集を行う。専用アプリの引継ぎには、生殖医療担当者のみならず小児がん治療医の協力があることが望ましいと考えられるため、研究の説明同意に関する小児がん治療医の意識調査を実施した
研究② 1)日本産科婦人科学会臨床倫理監理委員会のがん・生殖医療施設認定小委員会、2)日本泌尿器科学会、3)日本がん・生殖医療学会JOFR管理運営委員会と連携し、本研究促進事業に参加する施設情報を共有する。適宜「妊孕性温存実施施設(研究協力施設)を探す」のページ更新を行う
研究③-1小児・AYA世代がん患者等に対する妊孕性温存療法研究促進事業に参加する、日本産科婦人科学会と日本泌尿器科学会の認定施設に調査票を郵送配布し、妊孕性温存療法及び温存後生殖補助医療にかかる患者支払い額を調査
研究③-2 43歳以上の凍結融解胚移植による妊娠の周産期転帰を明らかにすることを目的とし、日本産科婦人科学会ART登録事業データベースより2016年1月-2019年12月までの間に43歳以上で凍結融解胚移植によって妊娠し、妊娠22週以降の分娩に至った単胎症例を抽出し対象とした。一方、日本産科婦人科学会の周産期登録データベースを用いて、同期間に自然妊娠またはnon-ART妊娠し妊娠22週以降の分娩に至った43歳以上の単胎症例を対照群とした
研究③-3がん治療前の妊孕性温存療法ならびに温存後生殖補助医療に対する助成事業はエビデンス創出のための研究という側面があり、専用アプリを用いて年1回、患者から臨床情報等のデータ収集を行う。専用アプリの引継ぎには、生殖医療担当者のみならず小児がん治療医の協力があることが望ましいと考えられるため、研究の説明同意に関する小児がん治療医の意識調査を実施した
結果と考察
研究①1)本年度は13施設を新たに研究班参加施設として認定し、参加施設は計190施設となった。尚、日本産科婦人科学会、日本泌尿器科学会並びに日本がん・生殖医療学会と、本研究班の協力施設に関する情報を共有した
研究②各学会委員会と連携し、本研究促進事業に参加する施設情報を共有した。又、「妊孕性温存実施施設(研究協力施設)を探す」のページ更新を行った
研究③-1全国186施設中140施設から回答を得た(回答率:75.3%)。本邦では、妊孕性温存とそれに続く生殖補助医療にかかる費用は保険適用外であるが、一定の条件を満たせば、患者は助成金を申請することができる。各々の医療項目の費用の中央値では約2/3が助成で賄われ、約1/3は患者自身の負担する額となっていた。患者が関連費用のために必要な医療へのアクセスが出来ない自体を回避することが重要である。さらに、患者と医療施設にとって本医療を継続可能な価格設定と保険適用が、患者と施設の双方にとって重要であると考えられた
研究③-2 43歳以上の凍結融解胚移植妊娠は、周産期転帰の視点ではNA群と比べリスクは高くない可能性が示唆された。凍結融解胚を移植する際に、その女性が43歳以上であっても、更にがんサバイバーであっても、本研究結果をカウンセリングの際に情報提供できると考える。但し、がん治療による周産期アウトカムへの影響は今後の長期的な研究が必要である
研究③-3 249名中160名が長期フォローアップ(LTFU)外来診療に従事していた。小児がん治療医の多くは本事業の存在を知っていたが、助成金を受けるための「研究参加」とシステムについての認知度は低かった。又、回答者の2/3はLTFU外来診療に従事しており、妊孕性をはじめとする晩期合併症に関する関心が高い層であると推定されるが、そうした医師においても専用アプリを利用した研究について半数以上が知らなかった。今回の結果からは、小児がん治療に携わる医療者全体としては、未だ本事業や研究についての認知度はそれほど高くはないと考えられる。周知方法として講演会、パンフレットの作成・配布を実施していく方針とした
研究②各学会委員会と連携し、本研究促進事業に参加する施設情報を共有した。又、「妊孕性温存実施施設(研究協力施設)を探す」のページ更新を行った
研究③-1全国186施設中140施設から回答を得た(回答率:75.3%)。本邦では、妊孕性温存とそれに続く生殖補助医療にかかる費用は保険適用外であるが、一定の条件を満たせば、患者は助成金を申請することができる。各々の医療項目の費用の中央値では約2/3が助成で賄われ、約1/3は患者自身の負担する額となっていた。患者が関連費用のために必要な医療へのアクセスが出来ない自体を回避することが重要である。さらに、患者と医療施設にとって本医療を継続可能な価格設定と保険適用が、患者と施設の双方にとって重要であると考えられた
研究③-2 43歳以上の凍結融解胚移植妊娠は、周産期転帰の視点ではNA群と比べリスクは高くない可能性が示唆された。凍結融解胚を移植する際に、その女性が43歳以上であっても、更にがんサバイバーであっても、本研究結果をカウンセリングの際に情報提供できると考える。但し、がん治療による周産期アウトカムへの影響は今後の長期的な研究が必要である
研究③-3 249名中160名が長期フォローアップ(LTFU)外来診療に従事していた。小児がん治療医の多くは本事業の存在を知っていたが、助成金を受けるための「研究参加」とシステムについての認知度は低かった。又、回答者の2/3はLTFU外来診療に従事しており、妊孕性をはじめとする晩期合併症に関する関心が高い層であると推定されるが、そうした医師においても専用アプリを利用した研究について半数以上が知らなかった。今回の結果からは、小児がん治療に携わる医療者全体としては、未だ本事業や研究についての認知度はそれほど高くはないと考えられる。周知方法として講演会、パンフレットの作成・配布を実施していく方針とした
結論
研究班が本研究促進事業を牽引することで収集した臨床データ等を解析し、本邦におけるがん・生殖医療における安全性と有効性に繋がるエビデンスの集積が完遂されることになる。更に、10年を超える長期におよぶ検体保管と経過観察によって本邦のエビデンスがJOFRに集積されることによって、適切な長期検体保存体制の検証ならびに構築に繋がる。その結果、「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン」の質の向上と、「長期にかかる妊孕性温存検体保存のガイドライン」の作成に繋がり、最終的にがん・生殖医療に係わる全国の医療機関の医療の質向上に資することが期待される
公開日・更新日
公開日
2024-05-30
更新日
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