文献情報
文献番号
202307046A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報に応じたがん予防にかかる指針の策定と遺伝性腫瘍に関する医療・社会体制の整備および国民の理解と参画に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23EA1037
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
平沢 晃(国立大学法人 岡山大学 学術研究院医歯薬学域 臨床遺伝子医療学分野)
研究分担者(所属機関)
- 吉田 玲子(埼玉県立がんセンター 腫瘍診断・予防科)
- 桑田 健(国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 病理・臨床検査科)
- 平田 真(国立がん研究センター 中央病院 遺伝子診療部門)
- 岩谷 胤生(岡山大学病院 乳腺・内分泌外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
9,230,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
がんの約5-10%は遺伝因子を原因とする遺伝性腫瘍である。遺伝性腫瘍の病的バリアント保持者は複数の臓器においてがん罹患リスクを持つことが多く、がんの早期発見(二次予防)のためサーベイランスや、新たながん発症の予防(一次予防)としてリスク低減手術等が選択肢となる。海外では2014年頃より、特定の遺伝性疾患に対する遺伝学的検査(syndrome specific genetic testing; SSGT)よりも、多数の候補遺伝子を包括的に調べる多遺伝子パネル検査(multi gene panel testing: MGPT)が主流となっている。一方でわが国の遺伝性腫瘍に関する診療ガイドラインは臓器や症候群の立場から記載されており、MGPTを念頭に置いた指針類は整備されていない。
このような背景のもと本研究では 遺伝性腫瘍領域におけるMGPTの医療実装を念頭にエビデンスのとりまとめと診療手引きを策定し、国民の一人一人が自ら保持する遺伝情報のもつ意義を理解してがん予防や治療に役立てるためのしくみを育むとともに、より効果的ながん対策につなげることで、がん未発症者も含めた遺伝性腫瘍に関する診療体制・社会体制を構築するための課題を明らかにすることを目的とした。
このような背景のもと本研究では 遺伝性腫瘍領域におけるMGPTの医療実装を念頭にエビデンスのとりまとめと診療手引きを策定し、国民の一人一人が自ら保持する遺伝情報のもつ意義を理解してがん予防や治療に役立てるためのしくみを育むとともに、より効果的ながん対策につなげることで、がん未発症者も含めた遺伝性腫瘍に関する診療体制・社会体制を構築するための課題を明らかにすることを目的とした。
研究方法
【課題1】 MGPT診療指針の策定: MGPTの保険診療導入を念頭に、診療指針の策定、がん未発症者も含めた検査適応基準等を行った。【課題2】 遺伝性腫瘍関連遺伝子のエビデンス評価およびがん遺伝子パネル検査における生殖細胞系列所見への対応:MGPT対象遺伝子の臨床的エビデンス評価を行うとともに、がん遺伝子パネル(CGP)検査で検出されたpresumed pathogenic germline variant(PGPV)に関する検討を開始した。【課題3】全ゲノム解析における生殖細胞系列所見への対応:全ゲノム解析における生殖細胞系列所見に対して、データ管理、評価、結果開示、リスク管理等に関する適切な対応策について検討を開始した。【課題4】 MGPTの医療経済評価:MGPTを臨床に実装することのscientific valueの検証と合わせて、その医療経済評価を行うことでsocial valueの検証も行った。【課題5】遺伝性腫瘍に関する医療体制・社会体制の整備に関する検討: MGPTや全ゲノム解析の導入にあたっては医療体制の整備と並行して、国民が自らのゲノム情報の意義を理解して健康管理に活用することが可能な社会体制が必要であり、それらの課題と解決策にかかる検討を開始した。
結果と考察
【課題1】「遺伝性腫瘍に関する多遺伝子パネル検査の手引き」の令和6年度中の発刊を目指してとりまとめを開始した。【課題2】MGPT対象遺伝子の抽出と文献検索によるエビデンス評価を実施した。厚労科研小杉班「CGP検査二次的所見(SF)検討資料」改訂準備を開始した。【課題3】がんの全ゲノム解析における生殖細胞系列所見に対する提言に向けた協議体制を構築し、PPIの取り組みを計画した。【課題4】MGPTの費用対効果についてスコーピングレビューを行い、医療経済面での課題の抽出を行った。【課題5】がんゲノム医療コーディネーター養成においてMGPTに関する情報提供を追加するとともに、がん専門相談員のための学習の手引き改訂作業に参画してMGPTの情報を追記する準備を行った。遺伝性腫瘍に関する公開セミナーの実施および班研究HPを開設した。遺伝性腫瘍に関する看護体制、エキスパートパネル、遠隔遺伝カウンセリング、協議体等に関する検討、およびMGPT同意・説明文書の作成準備を行った。
結論
【課題1】令和6年度に指針の発刊ならびに解説WEBセミナーを開催予定である。【課題2】本邦におけるMGPT臨床導入とがん遺伝子パネルPGPVへの対応基盤が構築するため、臨床実装で利用可能な遺伝子リファレンスを作成した。【課題3】関連学会・団体と協力し、がんの全ゲノム解析における生殖細胞系列所見に対する提言に向けた協議・検討を開始し、さらにPPIの取り組みを計画した。【課題4】様々なゲノム検査手法が開発され活用方法も多岐にわたる状況の中、システマティックレビューによると、MGPTの結果を乳癌スクリーニングに用いることが最も費用対効果に優れる可能性が示唆された。【課題5】関連学会・団体と協力し、MGPTの臨床実装に対する提言に向けた協議・検討体制を構築した。
公開日・更新日
公開日
2024-07-08
更新日
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