新しい高齢者対応型交通手段と福祉のまちづくりに関する研究

文献情報

文献番号
199700647A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい高齢者対応型交通手段と福祉のまちづくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 哲男(東京都立大学大学院工学研究科土木工学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 三星昭宏(近畿大学理工学部)
  • 鎌田実(東京大学工学部)
  • 卯月盛夫(早稲田大学専門学校)
  • 木村一裕(秋田大学鉱山学部)
  • 藤井直人(神奈川県総合リハビリテーション事業団研究部)
  • 山田稔(茨城大学工学部都市システム工学科)
  • 飯田克弘(大阪大学工学部)
  • 坂口陸男(日本道路株式会社技術研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の社会参加を促進・支援するために外出環境の制約を取り除くことや,外出時の事故を減らすこと、つまりモビリティや安全性確保の問題はとりわけコミュニティにおいて重要な課題である。研究目的は以下のとおりである。
(1)新しい高齢者対応型交通手段の運用やシステム開発に関する基礎的研究:?コミュニティバスの評価に関する研究(秋山):自治体などの補助や計画等を前提とした新しいタイプのモビリティ確保を目指したものをコミュニティバスと呼ぶ。利用者によるコミュニティバスのサービスの質の評価を行った。?鷹巣町の高齢者の外出・身体機能調査(藤井・秋山・鎌田):中山間地域で、公共交通の過疎地域である鷹巣町では、自動車を使っての外出に大きく依存している。自動車の免許を持つ人と持たない人、虚弱な高齢者と健康な高齢者との間にどの様な差があるかを調査(高齢者の生活状況と外出の実態と身体機能を調査し、適切な移動システムのあり方を検討する基礎データを収集する。?鉄道ターミナルにおける乗換の移動負担と利用 者行動の関係評価(飯田):移動の不便さを軽減するために、乗換駅間経路の整備状況と行動との関係を検討すること。また不便と感じている原因を明らかにする。?新しい高齢者対応型車両開発の研究(鎌田・山崎):高齢者の積極的な社会参加を行うために、高齢者のモビリティ向上についての検討は必要不可欠である。そこで、高齢者の日常生活においての移動に関するニーズの把握と実態調査から、新しい移動媒体の提案を行う。
?高齢化社会における歩道整備に対する意識調査を用いた評価に関する研究(山田):施設整備を進めた場合に、利用者が整備の方向を理解し計画者の意図どおりの利用が促進されることが重要である。そこで、本研究では高齢者の意識に絞り、歩道に関連する各種の整備に対してどのように評価し、どのような意識を持っているのかを明らかにする。?車いすの混入時における歩行空間のサービスレ ベルの評価(木村・清水):車いす混入やスクランブル交差点など様々な状況における歩行空間のサービスレベルの設定方法について、サービスレベルが本来意味している歩きやすさという観点から、今後の歩道のサービスレベルや計画基準について検討する。?福祉のまちづくりの事例研究(卯月):海外の先進的な都市として、ドイツのシュトゥットガルト市を対象とし、福祉のまちづくりの位置付けを明らかにする。?視覚障害者の歩行特性と誘導ブロックの研究(坂口):利用者からみた誘導ブロックの問題点を整理し、歩行支援上の不足点を補完するための支援策について研究を行う。?信号交差点の高齢歩行者横断特性(三星、北川):高齢者の道路横断時事故を防ぐために、高齢歩行者の横断特性を知るために安全確認状況、歩行速度,車両右左折時の回避軌跡の分析を行う。
研究方法
(1)新しい高齢者対応型交通手段の運用やシステム開発に関する基礎的研究:?コミュニティバスの評価に関する研究:5つのコミュニティバスと比較のための1つの一般バスを対象に、利用者にアンケートを配布し安全性・快適性など9つの項目について満足度と重要度等のサービスの質を調査した。?鷹巣町の高齢者の外出・身体機能調査 :外出状況(目的、頻度、手段等)と身体機能について調査を実施した。さらに理学療法士が身体各部(関節の可動域、筋力等)の直接計測を行った。 ?鉄道ターミナルにおける乗換の移動負担と利用者行動の関係評価:阪急梅田駅を起点とし5駅に向かう乗り換え、その歩行速度、歩行経路、移動状態別負担度をアンケート調査した。:?新しい高齢者対応型車両開発の研究:高齢者の自立移動を行うための移動媒体に関する調査を行い、高齢者の意識や適応性、及び運転に関連する能力について検討する。40人程度の被験者に対してアンケート、コンピュータによる能力調査、電動三輪等の試乗を行う。
(2)福祉のまちづくりの研究: ?高齢者の歩道整備に対する意識の研究 :歩道に関し、通行幅員、歩車分離、横断部の段差切り下げ、休憩施設、などの整備状況について、同様の形式によりいくつかの代替案を評価してもらうアンケート票を作成し、約400人の高齢者に訪問配布・訪問回収による意識調査を実施した。 ?車いすの混入を考慮した歩道の計画基準に関す研究:実際の歩道上で車いすを1台および2台走行させ、VTRで歩行者流を記録して、速度・密度・交通量・回避行動を分析する。 ?福祉のまちづくりの事例研究:海外の先進的な都市として、ドイツのシュトゥットガルト市を取り上げ、都市計画、都市開発における福祉のまちづくりの位置付けやそのデザインについて考察する。?視覚障害者の歩行特性と誘導ブロックの研究:誘導ブロックについては色彩の観点から、視覚障害者の内約8割を占める弱視者による誘導ブロックの視認性評価と景観性の評価を行った。?信号交差点における高齢歩行者の横断特性:VTRで高齢者の横断状況を観測した。
結果と考察
(1)新しい高齢者対応型交通手段の運用やシステム開発に関する基礎的研究:?コミュニティバスの評価に関する研究:計画が良好な武蔵野市のケースの評価が高く、計画が不十分なケースの改善項目を明らかにすることができた。?鷹巣町の高齢者の外出・身体機能調査 :鷹巣町の高齢者の外出・身体機能調査生活状況と外出頻度の調査に参加した高齢者は、50歳から80歳までの41名で、平均年齢は67歳で、男性20名、女性21名であった。運転免許証は63%が所持していた。身体機能は、身体の体型と姿勢は、筋肉質型で高齢者に多い、上体が後方に流れている姿勢が多数を占めていた。関節可動域はほとんど差が無く、筋力では、背筋、腹筋と足関節の筋力に個人のばらつきが大きく出ており、筋力に関する「起きあがり」「立ち幅跳び」などにも同様な傾向が見られた。バランス機能と20m歩行にかかる時間に年齢との相関関係が強く現れた。生活状況と身体機能は、1週間の外出頻度と立ち幅跳びの記録とを比較すると、外出頻度が高い人ほど立ち幅跳びの記録が良い関係が見られた。要介護者の状況 は、介護の程度を6段階に分けて、それぞれに属する人たちの人数を確認した。そして、外出の能力を、「自力歩行」「介助歩行」「車いす」「寝たきり」と分類できた。?鉄道ターミナルにおける乗換の移動負担と利用者行動の関係評価:移動状態別負担度、乗換ルート別総負担度を定量化した。?新しい高齢者対応型車両開発の研究:自動車を運転していないグループでも、ジョイスティックによる運転はそれなりに受け入れられ、比較的短時間で運転することが可能であったことから、この方式の可能性、有効性は高いと考えられる。また、最高速度が6km/hである電動三輪車は、自動車を運転するしないに関わらず、その速度を含めて評価が高かったことから、移動の補助的な道具のニーズは高いことが確認された。
(2)福祉のまちづくりの研究 :?高齢者の歩道整備に対する意識の研究 :現在までに、計画者の視点が理解されているものとそうでないものとのにわかれることが概ね明らかになっており、今後さらに詳しく分析を進める。 詳細な分析結果が得られてから具体的な考察を行うが、歩行者に対しの交通安全教育の方向付けと、施設計画時の留意点という2つの側面から、得られた結果を考察する。また、現在あまり整備が進んでいない歩行者用の休憩施設に関し、整備を進めたときの利用動向や、整備によって新たに誘発される歩行交通需要についても考察する。 ?車いすの混入を考慮した歩道の計画基準に関す研究:車いす混合による速度低下は、車いすが混合しない場合1.45m/sec、1台混入で1.44m/sec、2台混入で1.41m/secであった。無回避行動率は、車いすが混入しない場合80-70%、1台混入で20~45% 、2台混入で31-55%であった。車いす混入による速度低下はみられたもののその差は大きくなかった。しかし、回避行動ではかなりの影響があった。 ?福祉のまちづくりの事例研究:都心部の活性化という大きな目標のなかで、交通計画、公園リクリエーション計画、住宅計画、業務施設計画、福祉施設計画が総合的に展開され、そのすべての事業に福祉のまちづくりの視点が組み入れられている。郊外部では、70年代歩車の立体的分離のコンセプトで計画された住宅地が、現在バリアフリーの町としてかなり機能しており、評価が高い。このような実績の背景には、福祉団体を統合するDIPBという非営利組織があり、官民両方の計画に大きな影響を与えている。安全で快適な歩行者空間の計画は、都心部の活性化という目標と共に福祉のまちづくりの立場からも、極めて重要である。様々な福祉団体が存在するが、福祉のまちづくりをより効果的に進めるためには、それらをネットワークしかつ建築や都市計画の専門家が加わる事が重要である。 ? 視覚障害者の歩行特性と誘導ブロックの研究:誘導ブロックの色彩に関する研究については晴眼者の景観性には色相差が影響していることが明らかとなった。音声については、十字路など必要箇所の手前4m以上必要なことが明らかとなった。 ?信号交差点における高齢歩行者の横断特性:高齢者は若年者と比較すると横断スピードは低下してしいた。左右の安全確認が少なく、危険予測をせずに横断している。また。右左折車が接近しているとき、高齢者は全く回避行動をとらないこと等がわかった。
結論
(1)新しい高齢者対応型交通手段の運用やシステム開発に関する基礎的研究:?コミュニティバスの評価に関する研究:コミュニティバスのサービスの質の調査方法によって各システムの評価が可能であることが分かった。?鷹巣町の高齢者の外出・身体機能調査:外出頻度の高い人たちは、筋力評価の点でも良かった。外出の頻度が高いから、筋力が衰えずに済んでいるのか、筋力すなわち、体力があるから外出できているのかこの点を確認する必要がある。要介護の人たちの外出を考慮すると、家の近くまできめ細かく路線を設定し、デイケアセンターや町の中心部(商店街)まで、低床式の小型バスを定時運行させると、2/3までの対象者が利用できる可能性があることが確認できた。
?鉄道ターミナルにおける乗換の移動負担と利用者行動の関係評価:心理的負担が無視できないこと、負担の感じ方が属性によって大きく違うこと。?新しい高齢者対応型車両開発の研究:高齢社会において、高齢者の移動に関するニーズは確実に高まり、それに応え、それを受け入れられる社会の整備が必要である。運転能力は、加齢により低下するが本人の自覚は視覚ぐらいで、判断ミス等による事故が懸念される。このため簡易操作のできる車両と、その走行環境の整備が重要である。
(2)福祉のまちづくりの研究:?高齢者の歩道整備に対する意識の研究 :高齢者の意識面からの、現在の歩道整備に対する評価を明らかにした。さらに安全教育や施設整備での課題を明らかにする。 ?車いすの混入を考慮した歩道の計画基準に関す研究:車いす混入時の歩行空間のサービスレベル設定方法を提案できた。 ?福祉のまちづくりの事例研究:福祉のまちづくりは都市計画、都市開発行政の中でこそ、位置付けが明確になされなければならない。福祉のまちづくりの推進のためには、当事者参加および専門のNPO等の参加が不可欠である。?視覚障害者の歩行特性と誘導ブロックの研究:誘導ブロックの晴眼者の景観性を左右する条件は色相差が影響していること、また音声については、4m以上手前で提供することが必要であることが分かった。?信号交差点における高齢歩行者の横断特性:高齢者は若年者と比較すると横断スピードは低下、左右の安全確認が少ないこと、危険予測をせずに横断していること、右左折車が接近しているとき、高齢者は全く回避行動をとらないこと、などから高齢者の歩行は事故危険が大きいことが明らかとなった。

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