誰一人取り残さないがん対策における格差のモニタリングと要因解明に資する研究

文献情報

文献番号
202307043A
報告書区分
総括
研究課題名
誰一人取り残さないがん対策における格差のモニタリングと要因解明に資する研究
課題番号
23EA1034
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 ゆり(大阪医科薬科大学 医学研究支援センター医療統計室)
研究分担者(所属機関)
  • 祖父江 友孝(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 社会医学講座環境医学)
  • 藤 也寸志(国立病院機構 九州がんセンター)
  • 鈴木 達也(国立研究開発法人 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター)
  • 中谷 友樹(東北大学 大学院環境科学研究科)
  • 澤田 典絵(倉橋 典絵)(国立がんセンター がん対策研究所 コホート研究部)
  • 田中 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 データサイエンス研究部 サーベイランス研究室)
  • 西岡 大輔(大阪医科薬科大学 医学研究支援センター医療統計室)
  • 福井 敬祐(関西大学 社会安全学部)
  • 久村 和穂(石川 和穂)(金沢医科大学  医学部 公衆衛生学)
  • 片岡 葵(神戸大学 医学研究科未来医学講座分子疫学分野)
  • 本多 和典(愛知県がんセンター 薬物療法部、がん予防研究分野)
  • 藤阪 保仁(大阪医科薬科大学 医学部 内科学講座腫瘍内科学)
  • 釆野 優(京都大学 医学部付属病院 腫瘍内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
6,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第4期がん対策推進基本計画では「誰一人取り残さないがん対策」に取り組むことが掲げられた。多様な背景を持つ患者、家族、国民に対し、予防・検診・医療・共生の各分野のがん対策において、アウトカムの格差を縮小し改善を行うということを目指すものである。これまで、困窮度の高い地域でがん死亡率が高く、全死因における格差に占める各死因別の寄与度もがん死亡が最大であり、日本の健康格差対策はがんにおける格差への対応が肝要であることが明らかとなった。
本研究では第4期がん対策推進基本計画において、国・都道府県が評価していくロジックモデルの各指標を社会経済的要因ごとにモニタリングし、格差の状況を把握する。また、各種社会環境指標やアウトプット指標との関連によりアウトカム指標の格差の要因分析を行い、「取り残されている集団」を特定し、介入につながる分析を行う。第4期計画の中間評価、最終評価時に格差が縮小し、全体として指標が改善しているかをモニタリングする上で、評価指標および目標値の設定も検討する。
研究方法
I. 格差のモニタリング
A. 現状で計測可能なモニタリング
死亡率、罹患率、生存率などの最終アウトカム指標について、人口動態統計および全国がん登録を使用して格差のモニタリングを行う。国民健康栄養調査や国民生活基礎調査、院内がん登録+DPC、患者体験調査、NDBなどに関しても二次利用により個別データを入手し、分析を行う。
B. 今後計測が必要な指標の提案
医療分野における標準治療実施割合や、がんゲノム医療の普及、緩和医療関連の指標など、院内がん登録+DPCや全国がん登録、NCD、また自治体の保有するレセプトデータなどを有機的に活用することにより計測可能になる指標について整理を行い、データを入手次第、必要なものを計測する。
共生の分野では、現行の患者体験調査を精査し、海外でValidateされた測定指標(COST)などを用いた計測や就労に関する独自調査の必要性について検討・提案する。

II. 格差の要因分析
A. 格差の大きいサブグループの同定
格差モニタリングを地域、性別、年齢等により層別解析を行う。関連研究班や協議会メンバー、自治体関係者と結果を共有した。次年度以降、機械学習などの統計手法(SIDES法など)を用いて、格差が大きい集団や介入に対する反応の異質性を検討する。
B. 関連要因の探索
上記、結果を踏まえて、各種指標と地域の社会環境指標や自治体の取り組みと格差の変化に関しての関連を分析する。これらの指標間の関連に関して、アウトカムに関連する各種要因の寄与度に関して、媒介分析(Mediation analysis)や樹木構造接近法などを適用し、格差を説明する要因を特定し、格差縮小に向けた介入の提案につなげる。格差縮小に関する介入に関しては海外事例を日本での実施可能性も含めて紹介・検討を行う。
結果と考察
第4期がん対策推進基本計画のロジックモデルにおいて測定する指標に関し、格差のモニタリングと要因分析が行うために、健康格差指標の考え方について論点整理を行い、各種指標の計測可能性について検討した。アウトカム指標の格差の計測を行うための、地域指標別の人口や生命表などの整備を行った。また、既に入手したデータにより、死亡率や罹患率、生存率の格差について報告を行った。予防分野においては、HPVワクチン接種割合について、地域の困窮度が高いほど接種割合が低い傾向が示された。検診受診率については市区町村別の公開データでは関連性は大きく出なかった。今後、さらなる検討が必要である。医療分野では乳がん、肺がんについて、生存率や治療内容に関する格差の分析が行われた。今後、全国がん登録を活用し、拠点病院へのアクセシビリティや時間などとの関連を検討する研究計画を行った。共生分野においては、緩和ケアに関するリテラシーの格差計測に関する研究計画を行った。検討結果に関し、関連研究班や団体との連携し、学会やセミナーで成果や考え方が共有された。
 格差に関して、個人の属性と地域の指標など多様な視点があるため、どの視点で格差を評価し指標として提示していくのかについて、海外での事例なども通して、検討を行う必要がある。行政担当者や一般市民、患者・家族の立場の方に、提示する指標のわかりやすさやスティグマにつながらないかなどの視点をフィードバックしてもらう必要がある。
結論
令和5年度は、第4期計画における各種指標において、格差の計測が可能な指標の案について整理を行い、データの入手が必要なものについて、利用申請の手続きを行った。また、格差の測定ができていないものについて、測定方法を検討した。入手済のデータを用いた各種指標の格差のモニタリングおよび要因分析を行った。今後関連のデータベースや情報を入手し、複合的な検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2024-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202307043Z