小児・AYA世代のがん経験者の健康アウトカムの改善および根治困難ながんと診断されたAYA世代の患者・家族の生活の質の向上に資する研究

文献情報

文献番号
202307026A
報告書区分
総括
研究課題名
小児・AYA世代のがん経験者の健康アウトカムの改善および根治困難ながんと診断されたAYA世代の患者・家族の生活の質の向上に資する研究
課題番号
23EA1017
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
清水 千佳子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 病院 乳腺・腫瘍内科 兼 がん総合診療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 一戸 辰夫(広島大学原爆放射線医科学研究所 血液・腫瘍内科研究分野)
  • 小澤 美和(聖路加国際病院 小児科)
  • 川崎 優子(兵庫県立大学 看護学部)
  • 菅家 智史(福島県立医科大学 医学部地域・家庭医療学講座)
  • 小島 勇貴(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)
  • 坂本 はと恵(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 サポーティブケア室)
  • 桜井 なおみ(キャンサー・ソリューションズ株式会社)
  • 下村 昭彦(国立国際医療研究センター病院 がん総合内科診療科 兼 乳腺・腫瘍内科)
  • 鈴木 直(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 中田 佳世(山田 佳世)(大阪国際がんセンター がん対策センター 政策情報部)
  • 前田 尚子(国立病院機構名古屋医療センター小児科)
  • 丸 光惠(東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科 国際看護開発学)
  • 向井 幹夫(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター 成人病ドック科)
  • 森 雅紀(聖隷三方原病院 放射線治療科)
  • 多田 雄真(大阪国際がんセンター 血液内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
9,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
思春期・若年成人(AYA)世代のがんは希少性、多様性、変化を特徴とし、がん診断から治療期、サバイバーシップ期、終末期に至るまで世代特有、かつ個別性の高いニーズがある。
なかでも小児・AYA世代のがん経験者の長期的健康管理の体制整備と、根治困難な病状にあるAYA世代がん患者が介護保険制度を利用できないことによって生じる経済的な負担の軽減については、当事者等からの要望もあり、具体的な取り組みが求められている。そこで、本研究では必要な施策の検討に向けて、I. 成人期の小児がん経験者(CCS)およびAYA世代がん経験者(AYA-CS)の包括的な健康管理のあり方、II. 根治困難ながんと診断されたAYA世代患者・家族の療養と生活の質の向上について、政策提言に向けた多角的な調査研究を行う。
研究方法
今年度はそれぞれのテーマ毎に各種調査研究を立案、開始した。また、班会議において多職種・他領域で研究の進捗を共有、必要な施策の検討に向けて議論を行った。
結果と考察
I. 成人期の小児がん経験者(CCS)およびAYA世代がん経験者(AYA-CS)の包括的な健康管理のあり方に関する研究
CCS, AYA-CSの長期的な健康管理のあり方を検討するため、特に複数の晩期合併症の管理を要するCCSの移行モデル構築に着手した。今回、小児がん治療施設を対象に行った調査では、多くの施設で成人医療への移行準備の取り組みがなされているものの、リソースの不足もあって、体系的なプログラムの実践は行われていないことが示唆された。今後好事例の検討を通して、小児医療、成人医療側においてそれぞれどのような実践や体制があることが望ましいかを探索する。先行研究および本研究において実施した医療従事者へのアンケート調査からも、CCSの移行支援を実装する際には、team-to-teamの移行が望ましいとの声が多かった。今後抽出する好事例において、どのような職種がどのように関わっているのか、検証していく必要がある。
また、高度な医療を要しない晩期合併症およびそのリスクの管理は、通常、成人医療の枠組みの中では地域医療が担う。この点において、成人医療移行後にプライマリケア医/家庭医と連携しながら長期的な管理を行うスキームを実装していく必要がある。本研究ではモデル構築を行いながら、CCSおよびAYA-CSの長期的健康管理における地域連携の促進・阻害要因を検討し、具体的な対策を示す予定である。
なお、各種ガイドラインにおいてがんサバイバーシップ期のモニタリングが推奨されているが、小児・AYA世代は40歳以降にがん検診(子宮頸がんを除く)や特定健診が開始されるまでに医療の空白期間があり、頻繁な受診や検査はCCS, AYA-CSにとって時間的・経済的な負担となり得る。財源、患者教育、リスク・コミュニケーション、意思決定支援などの議論も必要であり、長期フォローアップや移行期医療の概念、医療制度について関係者が共通の理解と問題意識を持ったうえで、将来像を描く必要がある。
II. 根治困難ながんと診断されたAYA世代患者・家族の療養と生活の質の向上に必要な施策の研究 
全国がん登録のデータより、転移をもつAYA世代の全悪性固形腫瘍患者の2年生存率は54.0%であった。予後不良な癌種における治療開発の推進は当然のこととして、地域格差や経済格差の影響についても精査を要する。地域医療に関わる訪問看護ステーションの看護師への調査では、病院から在宅へ移行するタイミングの遅れ、支援サービスの不足、ケア提供者の不足、情報不足とともに、介護にあたる家族の負担が課題として指摘された。遺族調査においても、AYA世代のend-of-life discussionが他世代よりも困難な状況がうかがわれ、家族が正確な予後認識をもっていない、遺族のグリーフが大きいなど、家族に焦点をあてた対策を要することが示唆される。
 なお、小児・AYA世代の長期的健康管理、終末期の在宅療養のいずれにおいても、がん治療施設と地域の医療やその他のリソースとの連携が重要であり、その連携ネットワークのなかでAYA支援のスキルを持つ人材がケアにコミットしやすい環境を作ることが求められる。今後、AYA支援チームの要件化に向けて、長期的健康管理や、治験・臨床試験へのアクセス、家族支援、地域ネットワークという観点でAYA支援チームが果たすべき役割を念頭に置きながら、構成員や機能等の要件を具体化していく必要がある。
結論
小児・AYA世代がん経験者の長期的な健康管理と、根治困難ながんと診断されたAYA世代患者・家族のニーズに対する具体的な施策について政策提言を行うことを目標に、政策提言に向けた基礎資料となる個別研究に着手した。

公開日・更新日

公開日
2024-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202307026Z