がん遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養の円滑な提供体制等の構築に資する研究

文献情報

文献番号
202307020A
報告書区分
総括
研究課題名
がん遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養の円滑な提供体制等の構築に資する研究
課題番号
23EA1011
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
山本 昇(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 先端医療科)
研究分担者(所属機関)
  • 下井 辰徳(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)
  • 角南 久仁子(関原 久仁子)(国立がん研究センター 中央病院 臨床検査科)
  • 柴田 大朗(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究支援センター 生物統計部)
  • 中村 健一(国立がん研究センター中央病院 国際開発部門)
  • 沖田 南都子(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 臨床研究支援部門 研究企画推進部)
  • 安藤 弥生(国立がん研究センター中央病院 臨床研究支援部門)
  • 森 幹雄(国立がん研究センター 中央病院 臨床研究支援部門 データ管理部 データ管理室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
11,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦ではがんゲノム医療が急速に広がり、保険診療下でがん遺伝子パネル検査(パネル検査)を実施された件数は2022年10月時点で4万件を超えていた。第4期がん対策推進基本計画においてはゲノム医療を更に推進するとされているが、パネル検査の結果に基づいて患者が受けられる治療は限られている。本邦ではパネル検査後に治療に結びついた割合は10%に満たない。そこで、エビデンスに基づいて患者が適応外薬の使用を希望した場合に速やかに薬剤に到達できるようにするための患者申出療養を2019年に開始した。がん種横断的、かつ複数の医薬品を対象としたバスケット型・アンブレラ型のデザインである。本研究では、引き続き、より多くの患者に治療機会が提供することを第一の目的とし、薬剤毎の有効性、安全性の解析も合わせて行う。
さらに、本試験は公的研究費を獲得しながら、患者申出療養費を基盤として運営している。医薬品コホート数の増加、実施医療機関の増加に伴い、資金や人的リソースについて持続可能な体制を検討する。
研究方法
既に承認された研究実施計画書に基づき、患者の申出に応じて適応外薬にアクセスできる機会を提供する。国立がん研究センター中央病院が研究代表医師および全体の調整事務局を担い、全てのがんゲノム医療中核拠点病院が参加する多施設共同研究である。
エンドポイントは以下としている。
• Primary endpoint:治療開始後16週時点の奏効割合
• Secondary endpoint:全生存期間、無増悪生存期間、病勢制御割合、有害事象
登録された患者数に応じて、がん種別、遺伝子異常別にサブグループ解析を行う。本試験ではBays流の推論を行うこととし、奏効割合の事後分布が閾値奏効割合60%を越える確率が95%を超えた場合には、当該医薬品の有効性が期待できると判断する。また、奏効割合に関して期待値が30%となるbeta(0.6、1.4)を事前分布として採用した。
さらに、本試験の持続可能な体制について検討するため、試験運営中に生じた種々の課題や事務局における業務量等を見直し、ゲノム医療の出口戦略としてバスケット型試験の在り方について検討した。
結果と考察
既に登録が満了し追跡が完了した3つのコホート(ダブラフェニブ/トラメチニブ、ニボルマブ、エンコラフェニブ/ビニベチニブ)においては主たる解析を実施し、ダブラフェニブ/トラメチニブにおいては、2023年度に海外の学会で発表し、論文化も行った。奏効割合は28%、病勢制御割合は84%であり、事前に設定した奏効割合の期待値(30%)と同様の結果が得られていた。
2024年度には続く2つのコホートについて外部発表を行う予定である。
さらに本試験の実施体制について、重篤な疾病等報告は約10%の確率で発生しており、大半が試験薬と因果関係のない事象ではあったものの、本試験の安全な施行のために、医療機関間の情報共有等を適宜行った。本試験はマスタープロトコールであるものの、複数の企業から無償で薬剤提供されており、必要に応じて個々の企業・薬剤毎に試験関連文書を作成する必要があった。そのため文書数が膨大な数になっており、適切な文書管理に尽力した。試験薬管理、安全性管理、各種文書の管理および必要に応じた審議体への報告等、事務局業務は体制の拡大に伴い増加し、人的リソースを増やす必要があった。適応外薬の使用に際して患者・医療者にとって重要となる安全性情報等の医療機関間の情報共有や、薬剤確保のための企業との事務的手続きを担う人的リソースの確保等は、個別医療機関ごとの診療の枠内でad hocに適応外使用を行う体制では実現困難であり、本試験の枠組みによりそれが可能となっている。この枠組みの運営資金については、患者申出療養費を基盤としつつ、患者ニーズに応えるための体制の拡大に必要な費用は研究費として公的資金を獲得してきた。しかし、本試験は適応外薬へアクセスできる唯一のバスケット型試験であり、前述のように個別医療機関ごとの対応が困難であることから本邦におけるゲノム医療の出口戦略の1つの基盤として政策的に本試験を維持する必要があると考えられ、体制の維持には有期的な研究費ではなく、持続可能な資金が必要である。ゲノム医療の拡大に伴う本邦における保険外併用療養制度の見直し等の議論もあることから、患者申出療養として継続する妥当性についても検討する必要があった。
結論
試験開始後4年半が経過し、2023年度は試験の成果として初めて解析結果を発表した。今後も発表するコホートが続き見込みである。本試験の運営について、現行の体制ではゲノム医療の1つの基盤としては維持することが難しくなってきており、社会保険制度の動きに注視しつつ、持続可能かつ効率的な在り方を引き続き検討する。

公開日・更新日

公開日
2024-07-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-07-10
更新日
2024-07-22

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202307020Z