がん対策の年齢調整死亡率・罹患率に与える影響と要因に関する研究

文献情報

文献番号
202307018A
報告書区分
総括
研究課題名
がん対策の年齢調整死亡率・罹患率に与える影響と要因に関する研究
課題番号
23EA1009
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所データサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 ゆり(大阪医科薬科大学 医学研究支援センター医療統計室)
  • 川合 紗世(愛知医科大学 公衆衛生学講座)
  • 福井 敬祐(関西大学 社会安全学部)
  • 秋田 智之(広島大学 大学院医系科学研究科疫学疾病制御学)
  • 平林 万葉(国立がん研究センター がん対策研究所予防研究部)
  • 堀 芽久美(静岡県立大学 看護学部)
  • 十川 佳代(国立がん研究センター がん対策研究所データサイエンス研究部)
  • 上田 豊(大阪大学 大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実効性のあるがん対策の実現のため、がんの記述疫学分析、がん対策の効果のエビデンス収集、ロジックモデルに基づくがん対策の効果の推定を実施し、日本のがん対策の有効性、課題、地域差の要因を解明することを目的とした。
研究方法
①がん統計の視覚化ツール作成
75歳未満年齢調整死亡率、がん検診受診率、喫煙率などを都道府県別に整理し、視覚化ツールを作成、Web上で地域別、性別、がん種別に各指標の年次推移を折れ線グラフで示し、地域別の指標は棒グラフで表示した。
➁胃がん
2020年の日本人人口をベースラインに設定し、2040年までの各年の20歳から85歳を対象とした年齢階級別胃がん罹患数および罹患率を男女別に推計した。
➂大腸がん
経時変動分析手法としてMøller et al., (2003)において提案されたNordpredモデルおよびIshiara et al., (2024)において提案された変化係数モデル型のAge-Period-Cohortモデルを使用し、大腸がんの経時変化として、将来推計と、変動要因の分析を行った。
④肝癌
男女・都道府県別に1970年から2021年における肝癌死亡標準化死亡比を算出し、疾病地図を作製した。また、全国の肝癌死亡率の解析を男女別に行い、年齢効果、時代効果、コホート効果を推定した。
⑤すい臓がん
2005年時点での糖尿病有病率と肥満(BMI23以上)を用いて、2015年のがん罹患・死亡のうち糖尿病、肥満がなければ防げたかもしれないがん罹患・死亡を①糖尿病と肥満が独立したリスクと想定した場合のシナリオ、②糖尿病と肥満の病態生理は重なっていると仮定した場合の保守的なシナリオ、2つのシナリオを用いて推計した。
⑥乳がん
40歳代女性を対象として、ARIMAXモデルにより乳がん罹患率を推計した。ARIMAXモデルから1993年のリスク因子の分布を基準として、2015年までの各リスク因子分布の変動が乳がん罹患率に与えた影響を推計した。
⑦肺がん
2012年から2022年までの年齢調整死亡率データ(75歳未満)を用い、「気管、気管支及び肺(C33-C34)」を分析対象とした。対数線形モデルを用いて、全国および47都道府県の性別平均年変化率を推計した。
⑧子宮頸がん
ARIMAXモデルを用いて推計を行った。現状の傾向が持続する場合をベースラインとして、上記変数の変動により、子宮頸がんの年齢調整罹患率・死亡率においてどの程度の変化が期待されるか推計した。
結果と考察
①がん統計の視覚化ツール作成
都道府県別がん統計ダッシュボードを、Webサイトにおいて公開した。Topページはダッシュボード形式になっており、各ブロックに数値が表示されている。自身の都道府県とがん種の選択が可能である。
➁胃がん
ピロリ菌感染を考慮した胃がん罹患数および罹患率について長期予測を行った。ピロリ菌感染率が高い年齢層にピロリ菌除菌対策を行うことで、より効果的に胃がん罹患者を減らすことが可能であることが示唆された。
➂大腸がん
大腸がん罹患率の年次推移について、高齢層で1990年以降の増加が見られた。要因分析のための基礎データおよび研究成果の妥当性検証への活用が可能であり、より詳細な研究への発展が期待される。
④肝癌
肝癌では、時代が進むほど死亡率が減少する時代効果と、1930年代生まれをピークに減少するコホート効果が観察された。都道府県別の標準化死亡比の推移を合わせて検討し、西日本が高い傾向が弱まり、北海道・東北地方が高い傾向にシフトしつつあることが明らかになった。
⑤すい臓がん
疫学研究から日本人において、糖尿病、肥満はすい臓がん罹患の10.1%、すい臓がん死亡の10.5%に寄与していることがわかった。適正体重を維持し、糖尿尿の治療を受けることががん予防、早期発見に重要であることを示唆している。
⑥乳がん
1993年から2015年までの乳がん罹患推移はリプロダクティブ因子の変動に大きく影響された。乳がん検診受診率は一貫して乳がん罹患推移を増加させる方向に寄与していたが、リプロダクティブ要因と比較すると小さかった。また日本における肥満者の少なさから、BMIが乳がん罹患率推移へ与えた影響も小さかったことが示唆された。
⑦肺がん
わが国の肺がん死亡率はほとんどの都道府県で減少傾向がみられたが、性別平均年変化率には幅があった。肺がん死亡率が高い、または減少幅が小さい都道府県では、喫煙状況やたばこ対策の実施状況を見直し、肺がん死亡の減少を加速させる方法を検討することが重要である。
⑧子宮頸がん
利用可能なデータベースの探索を行った。地域・全国がん登録データ動態統計、国民生活基礎調査等が利用可能であることを確認した。
結論
がん統計の視覚化ツールについて将来的にはより詳細なデータを組み込んで改善し、がん対策担当者のニーズに応えていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2024-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202307018Z