新型コロナウイルス感染症の流行によるがん検診及びがん診療の受診状況等に対する中・長期的な健康影響の解明に向けた研究

文献情報

文献番号
202307010A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症の流行によるがん検診及びがん診療の受診状況等に対する中・長期的な健康影響の解明に向けた研究
課題番号
23EA1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所検診研究部検診実施管理研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 大内 憲明(東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座乳腺内分泌外科学分野)
  • 後藤 温(国立がん研究センター 社会と健康研究センター 疫学研究部 代謝疫学研究室)
  • 佐藤 靖祥(東京大学医学部附属病院 外来化学療法部・腫瘍センター)
  • 田淵 貴大(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
  • 中山 富雄(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 検診研究部)
  • 石井 太祐(国立がん研究センター がん対策研究所)
  • 町井 涼子(国立がん研究センター がん対策情報センターがん医療支援部検診実施管理支援室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
7,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、がん検診やがん医療は国内・国外において大きく影響を受けた。本研究においては、日本におけるがん検診の受診状況や、がん医療の受療行動における、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる中・長期的な健康影響を検討し、公衆衛生学的危機に対応しうるがん検診およびがん診療の対策マニュアルを作成することを目的とする。
研究方法
がん検診の受診状況や、がん医療の受療行動における、新型コロナウイルス感染症の影響を把握するために、1)がん検診受診者数、2)がん罹患者数、3)受療行動について検討する。研究統括は高橋が行う。
1)がん検診受診者数
地域住民検診によるがん検診受診者数は、地域保健・健康増進事業報告で把握するが、集計に1年程度の時間がかかり即時性に欠けるため、がん検診受診者数の月次データを計上できる検診実施機関に協力を募り、前年同月比を算出する。すでに、本研究の前身となる厚生労働科学研究班「新型コロナウイルス感染症によるがん診療及びがん検診などの受診状況の変化及び健康影響の解明に向けた研究」班において、これらデータの提供を受けている日本対がん協会、全国労働衛生団体連合会から協力への同意を得ており、引き続き連携体制を維持する。(大内、町井)
2)がん罹患者数
がん罹患・診療への影響を迅速に把握するため、全国がん登録よりもより早くデータが収集され、日本のがん患者の約70%をカバーする院内がん登録を集計することにより、検診での発見例の割合、UICC TNM 分類による病期分布等のがん罹患者数について把握を行う(石井)。
3)受療行動
がん研有明病院の外来患者数や手術件数について年次推移の評価を行う(佐藤)。受診行動や受療行動の変化については、Web によるJACSIS 研究を解析することにより評価を試みる(田淵)。さらに、JMDC レセプトデータやDPC データにより受療行動の比較を行う(後藤)。
結果と考察
令和5年度は班会議を2回開催し、新型コロナウイルスががん検診に対して与えた影響を、がん検診受診者数、がん罹患者数、受療行動について評価した。(詳細は研究分担者の研究報告書参照)
〇がん検診受診者数
地域保健・健康増進事業報告のデータを解析し、以下の結果を確認した。
・ がん検診受診者数は2020年に大きく減少、2021年度は回復傾向にある
・胃がん検診の減少幅が最も大きく、エックス線よりも内視鏡が増加した
・精検受診率は大きな変化はなし
・プロセス指標等は今後精査予定
全衛連のデータを解析し、以下の結果を確認した。
・住民検診は2020年に23%減少、21年に半分戻し、22年にさらに若干増加した
・職域検診は2020年前半に減少したが、後半増加したため通年では変わらず、21年はさらに若干増加し、22年は21年と変わらず
・がん種別では住民検診はすべてのがん種で増加、職域検診は継続して子宮頸がんと乳がんは増加、胃がんは横ばいから微減、大腸がんと肺がんは減少
〇がん罹患者数
院内がん登録データを解析し、以下の結果を確認した。
・2018年から2022年にかけての、患者数、部位別、発見経緯・部位別、stage・部位別、治療・部位別の推移をデータから考察した
・コロナ禍前までがん登録数は漸増傾向にあったが、2020年に大幅に減少し、21年にコロナ禍前まで戻したものの、22年はほぼ横ばい
・減少時に診断されなかった症例の動向については十分注視する
〇受療行動
JACSIS のアンケートに基づいた大腸がん検診の受診動向についての解析し、以下の結果を確認した。
・2022 年は21 年よりも受診率は向上しているが、年齢、性別、就労状況等の社会的素因による固定化と、受ける人・受けない人が固定化しているのはコロナ禍でも変わらず
・「今後も受診しない」と答えた人たちへのアプローチ方法の検討と、受ける意思があるが受けていない人たちがなぜ受けられていないのかの要因をさらに特定することが必要
結論
新型コロナウイルス感染症によるがん検診やがん医療は、感染者数の増加よりも、第1回目の緊急事態宣言ならびにそれによる対策により大きな影響を受けた。この影響は2020年に大きく、2021年2022年と年を経るにつれてコロナ前の水準に戻りつつあることが確認されたが、胃エックス線検査数などは回復が遅れる傾向にあった。コロナ禍に危惧されていた、がん患者や死亡者数のリバウンド増加などの傾向は明らかではなかった。今後は、引き続きモニタリング及びデータの解析を行うことにより、中長期的な影響ならびに来るべき有事への対応策の検討などが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2024-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202307010Z