小児がんの統合病理診断体制に関する研究

文献情報

文献番号
202307009A
報告書区分
総括
研究課題名
小児がんの統合病理診断体制に関する研究
課題番号
22EA1007
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
義岡 孝子(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 病理診断部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 達也(国立研究開発法人 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター)
  • 谷田部 恭(国立がん研究センター中央病院 病理診断科)
  • 中澤 温子(中川 温子)(埼玉県立小児医療センター臨床研究部)
  • 大喜多 肇(慶應義塾大学医学部)
  • 井上 健(大阪市立総合医療センター 病理診断科)
  • 柳井 広之(岡山大学病院 )
  • 小田 義直(九州大学大学院 医学研究院 形態機能病理学)
  • 加藤 元博(国立大学法人東京大学 医学部附属病院 小児科)
  • 木下 伊寿美(小倉記念病院 病理診断科)
  • 里見 介史(杏林大学 医学部病理学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
15,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児がんの病理診断については、十分な経験と専門的な知識を有する病理診断医が少ないため、大学病院やがんセンターなどの専門医療施設であっても、迅速な病理診断とそれに基づく最適かつ早期の治療開始が困難な状況にある。また小児がんの治療は化学療法が主体で、治療の層別化の根拠となるリスク分類には遺伝子解析を含めた病理診断が不可欠である。現状では、日本小児がん研究グループ(JCCG)の研究として行われている中央診断が、小児がんのエキスパート病理医による質の高い病理診断として、治療方針の決定に役立っている。しかしながら、研究として行われている中央病理診断には、後継者不足や運営基盤、必要な特殊補助診断法(専門的な免疫染色・遺伝子解析)のための試薬・技師・医療機器の資金不足など、様々な問題があり、永続性が危ぶまれている。本研究では、JCCGで構築された中央病理診断システムを医療経済的な観点から見直し、より効率的で精度の高い統合的な病理診断に向けた具体的な体制を提案し、「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」にエビデンスを提供し、小児がん拠点病院等の整備指針の策定に活用することを目標とする。
研究方法
1)小児がんの病理診断の現状を把握するため、小児がん中央機関・拠点病院・連携病院の実務責任者と病理診断責任者に対する無記名のWebアンケート(Google form)を作成した。2)JCCG中央病理診断に係る経費、診断の迅速性の調査および中央化することの利点と問題点の検討を行った。対象はJCCG小児固形腫瘍観察研究に登録された症例で、腫瘍グループ別に件数、中央病理診断に掛かる経費を求めた。3)国立がん研究センター中央病院にて、次世代シークエンサーを用いた診断用小型ホットスポットパネルを用いた小児がんの病理診断について検討した。4)小児脳腫瘍の病理診断のあり方について、JCCG中央病理診断における遺伝子検査について検討した。5)日本病理学会小児腫瘍組織分類小委員会、JCCG病理診断委員会の委員を中心に、一般病理医にも利用可能な「小児腫瘍病理診断の手引き」を作成した。6)JCCG中央病理診断の利点と問題点を検討し、分担研究者からがんゲノムプロファイリング検査と中央病理診断の連携、日本病理学会と国立がん研究センターが共同で行っている病理診断コンサルテーションシステムの現状、小児がん中央機関としての病理診断支援についての情報・コメントを収集した。診療施設が求めている診療に必要な病理診断を迅速かつ効率的に行うことを目的とした、病理診断支援システムの原案を作成し、診療施設、中央機関、拠点病院の役割、行政に相談すべきことなどについて検討するため、関係者とのミーティング、面談を開始した。
結果と考察
2019年以降は概ね1200例前後の中央病理診断依頼があり、各腫瘍が占める割合も概ね同様であった。1件あたりに掛かる試薬等の消耗品費は腫瘍によって異なり、RT-PCRがほぼ全例に行われる横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨軟部腫瘍や、FISHを行う脳腫瘍、リンパ腫で試薬等の消耗品費が高くなっている。試薬等の消耗品費と事務員の人件費は公的研究費および中央機関機能強化事業費で賄っているものの、医師、臨床検査技師、研究補助員の人件費や機器の購入費・保守料などは補填されていない。中央集約化により、全国レベルのレジストリー研究には貢献しているが、もともと研究における中央病理診断で、病理医にとっては診療行為ではないため、業務として認められない。さらに深刻な病理医不足もあり、診療に必要な病理診断を速やかに診療施設に返すことが十分にできていないのが現状である。エキスパートによる精度の高いかつ迅速な病理診断を実現するためには、診療としての病理診断をエキスパート病理医が業務として行える体制、エキスパートの育成などの病理医の問題と保険収載されていない遺伝子検査などの分子診断をどこでどのように行うかという問題の解決が喫緊の課題と考えられた。精度の高い統合病理診断のためには従来のHE染色、免疫染色、FISH検査に加えて、病理医による小型ホットスポットパネルの活用が望まれる。病理診断支援は小児がん中央機関の機能であり、小児がん対策の一環として、病理診断支援を充実させていくことが望まれる。
結論
質の高い小児がんの病理診断は、小児がん専門病理医が免疫染色・RT-PCR・FISH・小型ホットスポットパネルなどの分子診断の結果を併せた統合診断を行うことで、効率的に行うことができる。JCCG中央病理診断は研究であり、診療行為ではない点が専門病理医などの人的資源の不足に繋がり継続性が危ぶまれている。持続可能な小児がんの統合病理診断体制を構築するためには、小児がん中央機関の機能強化や拠点病院整備など行政による病理診断支援の強化策が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202307009Z