社会サービス利用に対する高齢者の意識と行動の研究

文献情報

文献番号
199700645A
報告書区分
総括
研究課題名
社会サービス利用に対する高齢者の意識と行動の研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
前田 大作(立正大学社会福祉学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
制度改革に伴って、社会サービス多元化が進行しているが、これに対する高齢者の対応意識と行動を体系的に把握する必要がある。今回調査対象とした北九州市は、産業構造転換と保健・福祉サービスが多元化している都市である。1997年度には、本研究は、この市にすむホームヘルプ・サービス利用の高齢者とその家族介護者、並びにホームヘルパーを対象として、サービス多元化についての意識調査を実施した。特に今年度は、サービス多元化が利用者の意思を尊重した継続的介護 Continuum of Care に寄与するか、寄与するとすればその条件は何か、について研究することを目的とした。サービス多元化は地方分権や市場経済や民間非営利組織の動きとともに進行するために、いい意味では地域の個性化、悪い意味では地域間格差が生じる。本研究では、社会サービス・アプローチを利用者のサービス利用についての解放と選択と創造の観点からとらえ直すことを目標とした。
研究方法
調査対象地域は、昨年度の調査を受けて北九州市若松区、八幡東区、八幡西区とした。調査対象は、この地域にすむ高齢者で、北九州市福祉サービス協会のホームヘルプ・サービスを利用している本人(983人)とその家族介護者(418人)、ならびに北九州市福祉サービス協会の登録ヘルパー(560人)から無作為抽出した200人である。利用者本人と家族介護者には、調査協力依頼書、調査票、調査協力同意書を事前に送付し、調査協力同意書を返送してくれた人を対象に調査員が個別に訪問面接し、調査票を点検して回収した。調査票の回収数・回収率は、利用者本人453(46.1%)、家族介護者137(32.8%)、ホームヘルパー179(89.5%)であった。 調査研究の仮説は、大要以下のようなものであった。現在、先進諸国ではほとんど例外なく保健福祉サービスについて供給組織の多元化がすすめられているが、その理由は社会サービスの多元化によって、以下のような「好ましい変化」がおこると考えられているからである。今回の調査では、日本でもそのような変化がたしかに起こりつつあるかどうか、を検証することを主要なねらいとした。このような「好ましい」変化がおこっていない、もしくは逆に、下記のような「好ましくない変化」がおころうとする兆候がみられるとすれば、それはどういう理由によるものかの推測を可能にするようなデータをできるだけ収集することを試みた。 <好ましい変化> 多元化による競争によって、サービスの質は向上し、一方その相対的価格は低下することが期待できる。 <好ましくない変化> ニーズの顕在化が進まず、あるいはまたサービス提供のための公的財源不足により、サービス需要の発生が不十分である一方、経済の停滞による潜在的失業者が増加して、サービス提供職員の間での過度の競争がおこると、その賃金水準は低下して、それに伴って職員の質の低下がおこる可能性がある。労働者間の競争に加えて、サービス需要の不足によるサービス機関の間の過当競争により、賃金の低下に加えて、研修費用の削減、指導監督体制の手抜き、中間管理者の質の低下などの問題の発生も予測される。どちらの変化が起ころうとしているかを知るために、サービス提供職員の調査票に以下のような項目を含めた。教育歴、福祉意識、専門職としての意識、疲労、勤続意欲、など。また、質問紙調査とは別のヒアリングにおいては、上記のような情報に加えて、ワーカーの所属するサービス提供機関は、自治体か、自治体の委託を受けた民間機関か(非営利、営利か、など)についても調査した。また複数のサービス間の調整問題については好ましい変化の発生を予測することが難しく、以下のような好ましくない変化を仮説とした。すなわち、
サービスの多元化が極端に進むと、たとえば家事援助・訪問介護というサービスの中でも多元化が進み、ある機関は家事援助のみ、ある機関は介護のみ、ある機関は24時間の訪問介護専門というように分化してゆく可能性がある。また、公的介護保険の給付では利用者の希望するだけのサービスを供給できない場合に、その需要に有料サービスで対応することを目的とする専門のサービス機関が作られる可能性もある。そうなると、一人の在宅介護サービス利用者に、複数のサービス職員、さらには複数のサービス機関が同時期に関与するという事態が予想される。このような事態に対応するためには、複数のサービス間の連携を図るサービス(ケースマネジメント・サービス)が不可欠となるが、それだけでは不十分であり、それに加えて、それぞれの職員が積極的に、相互の連携、協力につとめる必要がある。このような事態は、一部ではすでに発生している可能性があり、このことについての第一線現場職員の現状認識や問題意識を把握する必要がある。なお、提出した総括報告書では、スペースの制限のため、サービス多元化に対するホームヘルパーと利用者本人の意識、態度についての調査結果に限定して分析し、その結果を報告した。
結果と考察
?サービス多元化は、前年度に調査した一般中高年市民だけでなく、サービス利用者本人にも、またサービスを提供するホームヘルパーにも広く受け入れられている。?しかし、一方で競争が、ストレートに、やすくて質のよいサービスをもたらすとは限らないと危惧する人、あるいはよくわからないと回答を保留する人が、利用者本人にもホームヘルパーにもかなりいる(4割前後)。?ホームヘルパーの7割以上、利用者本人の5割以上が、サービス多元化が進めば、訓練や研修が充実されると期待している。?サービス多元化の結果として、労働条件の劣化などの好ましくない変化が起こることを危惧するホームヘルパーが6割を越えている。?サービス多元化の方向によっては、サービス供給機関の間での調整が難しくなると危惧するホームヘルパーが非常に多い(7割強)。上記の分析の結果を総括し考察すると、?サービス多元化について、ホームヘルパーは「利用者にとって選択の幅ができてよい」、と支持するものが4分の3を越えており、否定的な見解のものは1割以下であって、サービス多元化を支持する者が圧倒的に多い。また、サービス多元化がサービス価格の低下、サービスの質の向上をもたらすかどうかについても、過半数は肯定的である。?しかし一方で、利用者の要求のみの増大、労働条件の悪化、諸サービス間の調整の困難の増大、などの好ましくない変化が起こる可能性を危惧するものも全体としてみると過半数を超えている。サービスの第一線に働くホームヘルパーたちの危惧するようなことがおきないよう、できるだけの努力をする必要がある。?利用者本人の調査結果を概観してみると、好ましくない変化についての危惧がホームヘルパーほど強くないという違いはあるが、全体としてホームヘルパーの回答と傾向としては一致する。
結論
今年度の調査研究の結果、サービス多元化についての社会的、政策的方向について第一線の現場ワーカーも、またサービスの利用者もはっきりと支持の態度を表明していることが明らかとなった。また、調査結果は、ホームヘルパーも利用者本人も、ホームヘルプ・サービスの現状とサービス多元化がもたらすであろう結果について、かなりよく理解していることを示している。現場ワーカーとサービス利用者に関しては、意識啓発の必要性は必ずしも高くはなく、今後の政策課題は、むしろ彼らの危惧をしっかりと受け止め、質の高い多元的サービス市場を形成するための政策をどう立案し、実現するか、であるといえよう。

公開日・更新日

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