口唇口蓋裂に関する実態把握、及び口唇口蓋裂を含めた育成医療の疾患全体の実態の推定を行う手法の検討のための研究

文献情報

文献番号
202306042A
報告書区分
総括
研究課題名
口唇口蓋裂に関する実態把握、及び口唇口蓋裂を含めた育成医療の疾患全体の実態の推定を行う手法の検討のための研究
課題番号
23CA2042
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
彦坂 信(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 形成外科)
研究分担者(所属機関)
  • 梅田 千鶴(大阪医科薬科大学 形成外科)
  • 今井 啓道(東北大学 医学系研究科)
  • 杠 俊介(国立大学法人信州大学医学部形成再建外科学教室)
  • 竹原 健二(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
  • 盛一 享徳(国立成育医療研究センター  研究所 小児慢性特定疾病情報室)
  • 上田 晃一(大阪医科薬科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
1,387,000円
研究者交替、所属機関変更
該当なし

研究報告書(概要版)

研究目的
 口唇口蓋裂は、口唇、口蓋、上顎骨に裂を認める先天異常であり、日本では500人に1人の頻度で出生するとされる。出生後早期から概ね成人に至るまで長期間にわたり治療を要する。自立支援医療(育成医療)は、児童福祉法第4条第2項に規定する18歳までの障害児を対象に、確実に治療の効果が期待できる者に対して医療費助成を行う制度である。18歳以後にも一定の要件を満たす場合には、自立支援医療(更生医療)による医療費助成が適応される。口唇口蓋裂は代表的な自立支援医療の対象疾患であるが、18歳を超えて治療を必要とする場合があり、更生医療の対象とならなかったときには、18歳までで治療を完了できた場合とで医療費助成の不均衡が生じているとの議論がある。この点に関する口唇口蓋裂における実態を把握するため、本研究では治療施設に対してアンケート調査を行った。
 また他の自立支援医療の対象疾患についても同様に、育成医療と更生医療の狭間にある患者が一定数いると考えられる。係る実態の把握が必要なため、その方法論について検討した。
研究方法
1:口唇口蓋裂に関する実態調査
 治療施設を対象にアンケートを実施した。収集した情報は以下の通りである。
① 治療が実施される時期:各施設における治療計画を聴取した。
② 患者数 :2022年1月~12月に初回の手術を施行した口唇口蓋裂患者の人数を、裂型別に聴取した。
③18歳以上で継続して身体障害を除去、軽減する治療(手術等)が必要な患者の人数(身体障害者として手帳を取得している人数、取得できない人数それぞれ)、およびその最高齢:2022年1月~12月に各施設で治療を施行した18歳以上の口唇口蓋裂患者の人数、治療内容を聴取した。さらにその中で、更生医療が適応となっている人数、なっていない人数を聴取した。また治療を行った患者の最高齢を聴取した。
④身体障害者手帳を取得できない(更生医療の対象とならない)事例、取得できない理由:2022年1月~12月に各施設で治療を施行した18歳以上の口唇口蓋裂患者のなかで、更生医療が適応とならなかった理由を聴取した。あわせて、育成医療が18歳よりも延長されることが望ましいかについての意見を収集した。
 アンケート対象は、口唇口蓋裂診療の実績のある施設とした。日本口蓋裂学会に所属し、過去5年間に発表歴がある、または同学会の認定師が所属する108施設にアンケートの依頼状を送付した。
 アンケート調査はオンライン回答・集計可能な専用フォームにより施行した。

2:口唇口蓋裂を含めた育成医療対象の疾患に関する実態把握手法の検討
 公開されている診療報酬明細書および福祉行政報告などをもとに、方法論について検討した。
結果と考察
1 口唇口蓋裂に関する実態調査
 対象108施設のうち73施設から回答を得られた。治療計画については、口蓋裂二次手術については1/3程度の施設で、口唇・鼻の修正術については2/3程度の施設で、顎骨骨切り術についてはほぼ全ての施設で、18歳を超えるまで治療を行う計画が策定されていた。2022年には18歳以上の口唇口蓋裂患者に対して751件の治療が施行されていた。一方、これら患者のうち、自立支援医療(更生医療)による医療費助成を受けているものは18%であり、大部分は育成医療の対象外となった後、自立支援医療の制度の対象外となっていた。対象外となっている理由は症状が不適格(52%)、所得が不適格(8%)、指定医がおらず手続きができない(8%)、不明(24%)などであった。

2 口唇口蓋裂を含めた育成医療対象の疾患に関する実態把握手法の検討
 施策の性質上、支援の対象可否が「病態」で評価されることから、制度を利用している者の「疾患名」を網羅的に把握することが困難と考えられた。また実施主体が市町村となっているため、1800以上ある市町村および区行政といった行政側に情報提供を求めることは現実的ではないと考えられた。
 今後は、自立支援医療に関わる診療科の専門家を対象とした全国規模のアンケート調査のほか、診療報酬明細書データなどを用いた探索といった調査が必要と考えられた。本課題の検討に当たっては、形成外科分野だけで無く、整形外科、歯科、小児外科、循環器外科、眼科、耳鼻咽喉科をはじめとする小児期外科系診療科と小児循環器科を含む小児内科領域の専門家集団の参集が求められると思われた。
結論
 自立支援医療に係る実態の把握には今後、関連するより広い範囲の専門家に対するアンケート調査に加え、レセプトデータなどを用いた複合的な手法により、詳細な情報を得る必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-06-04
更新日
2024-08-02

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202306042C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 研究成果:これまで明らかとなっていなかった、育成医療と更生医療の狭間にある口唇口蓋裂患者の実態を、治療施設を対象としたアンケート調査により明らかにした。対象となった施設では、2022年に18歳以上の口唇口蓋裂患者に対して751件の治療が行われており、そのうち更生医療が適用となっていたものは18%であり、大部分が制度の対象外となっていた。
(2) 研究成果の学術的・国際的・社会的意義:育成医療と更生医療の狭間にある患者に、途切れなく治療への支援を続ける施策を検討する基盤となる情報が得られた。
臨床的観点からの成果
(1) 研究成果:施設ごとに異なる口唇口蓋裂の一貫治療計画について、その詳細を一定程度明らかにすることができた。ほぼ全ての施設が、18歳をこえて治療を継続する一貫治療計画を設定していた。
(2) 研究成果の臨床的・国際的・社会的意義:口唇口蓋裂の一貫治療は、18歳を超えても継続する必要があるとの議論について、これを裏付ける情報を得ることができた。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
 本研究の成果は、令和6年5月9日に開催された第1回育成医療受給者の実態の把握及び支援に関する有識者会議で共有された。今後も開催予定の同会議において、検討の材料として活用される見通しである。
 また本研究の内容は、令和6年度の厚生労働省科学研究費補助金 障害者政策総合研究事業「育成医療対象疾患の実態把握に関する研究」に引き継がれ、口唇口蓋裂を含む全ての育成医療の対象疾患についての実態把握調査の目的・方向の設定に活用されている。
その他のインパクト
 本研究の成果は、口唇口蓋裂を診療する専門家からなる日本口蓋裂学会の学会誌に投稿予定である。広く会員に内容を周知することで、回答に協力いただいた会員への情報提供とするほか、今後検討される育成医療に関する施策について、専門家の見地から考察する機会を提供する意義がある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
令和6年5月9日に開催された第1回育成医療受給者の実態の把握及び支援に関する有識者会議で共有された。今後も開催予定の同会議において、検討の材料として活用される見通しである。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-06-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
202306042Z