性嗜好障害への対応と治療の国内外の実態とアプローチの包括的分析のための研究

文献情報

文献番号
202306041A
報告書区分
総括
研究課題名
性嗜好障害への対応と治療の国内外の実態とアプローチの包括的分析のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23CA2041
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
繁田 雅弘(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 繁田 雅弘(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
性嗜好障害はICD-10では精神疾患に分類されているものの、現在のところこの疾患(もしくは状態)に関することの多くの事項が明らかになっていない。さらに、その対応法や治療法についても共通認識を得たものは非常に少ない。国によってもその法体系や医療制度の違いなどもあり共通した対応法や治療法が精神医学の教科書の中にも記載が明確になされておらず、知見の集積が必要である。本研究では、性嗜好障害の対応法や治療法の国内及び国外での実態、及び、それらのエビデンスレベルを把握することを目的とする。
研究方法
1. 国内外における対応や治療に関してのレビュー
性嗜好障害に対する国内外の対応や治療に関するレビューを、特に、生物学的、心理社会的観点から行った。検索エンジンはPubMed、Cochrane library(CENTRAL)、 医中誌を使用した。検索タームは、【性嗜好障害(sex abuse OR sex offences)】及び【治療(Therapy OR “medical treatment” OR treatment”)】を大分とし、各検索エンジンにおける詳細な検索式は別途記載した。検索期間を2010年1月1日から2023年12月31日までとした。

2. 国内のエキスパート支援者における支援の実際と今後の課題
性嗜好障害の治療と対応に関する日本の実態を深く理解するため、国内の医療専門家、心理学者等のエキスパートに対してインタビューによる質的調査を実施した。
民間の医療機関や研究機関のエキスパートは、書籍、論文、インターネット等による情報から、性嗜好障害、あるいは性加害者への医学的治療または心理学的支援に携わっている者を選出した。矯正施設や保護観察所におけるエキスパート支援者は、研究分担者が法務省に協力の依頼を行い、性加害者の処遇プログラムの十分な経験を有する者、およびその処遇の現場に詳しい者、法務省によって提供される医療に詳しい者がそれぞれ紹介された。いずれの参加者においても、本研究の内容、手続き、聴取内容の取り扱い等についての説明を行い、同意が得られた13名のエキスパートに対して意見聴取を行った。聴取の期間は2024年2月から3月とした。

3. 性嗜好障害への対応と治療の国外の実態とアプローチの包括的分析のための研究
性嗜好障害の治療と対応に関する国外の実態を深く理解するため、国外のエキスパートに対してインタビューによる質的調査を実施した。
米国及び英国の性嗜好障害の専門家2名に対する半構造化面接を行った。文書で事前に概要を説明し、口頭でインフォームドコンセントを得て、倫理面に配慮して面接を行った。
結果と考察
本研究結果から、性嗜好障害に対する治療方法は充分に確立されておらず、エビデンスが乏しいことが示唆された。本邦の性嗜好障害の治療においては、認知行動療法を中心とした全人的で包括的な心理社会的アプローチと薬物療法のあり方を検討し指針を作成すること、などが必要と考える。その上で、本人を中心に関係省庁や各機関が連携し、個々に応じた治療と社会復帰支援が連動した一貫性のあるシステム構築が必要である。今後、エビデンス構築のために、更なる研究の実践が望まれる。
結論
本研究結果から、性嗜好障害に対する治療方法は充分に確立されておらず、エビデンスも乏しいことが示唆された。エビデンスの構築のために、更なる介入研究の実践が望まれる。
 国内のエキスパート支援者においては、性嗜好障害の対応や治療として、CBTをはじめとする心理社会的支援が中心となって行われるということに対するコンセンサスが得られていることが明らかとなった。一方で、性加害の問題を精神医学的疾患としてとらえることや、薬物療法を適用することに対しては大きく意見が分かれている現状も明らかとなった。また、現状の課題として、性嗜好障害に対応する上での国としてのエビデンスの蓄積やガイドラインの整備が不足していること、医療の文脈において性加害の問題を支援する上での受け皿が不足していること、その背景には、さまざまな制度上の難しさが存在することがあげられた。今後、性嗜好障害の対応や治療において 改善が望まれる点として、「法務省が管轄する矯正および保護の枠組み」から「厚生労働省が管轄する医療的支援の枠組み」に支援が移行する際のシームレスな連携を担保するための制度設計や法的な整備が多くのエキスパート支援者からあげられた。
 国外では、治療者確保等の課題が残されているものの、性嗜好障害のガイドラインに基づく診断・アセスメント、治療が実施されていることが明らかにされた。本邦において、実証的な知見に基づいたガイドラインの作成と適用が今後期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-09-12
更新日
2024-12-24

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-09-12
更新日
2024-12-24

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202306041C

成果

専門的・学術的観点からの成果
性嗜好障害の対応や治療のエビデンスの集積がほとんど無いため、今後行われる研究の重要な基礎資料となる。また、多くの国内の治療者や支援者からの情報の集積が出来、さらに2カ国とはいえ海外の比較が行えた部分もあり、今後の課題も明確となった。
臨床的観点からの成果
国外のインタビュー調査によって、アメリカやイギリスでは、再犯防止が性的嗜好障害への対応・治療の中核的な目的と考えられていることが明らかになった。集団CBTは最も研究の数が多く、有効性が示されており、第一治療選択として推奨されており、包括的かつ構造化されたアプローチが望ましい。また、治療者の安全確保や養成、そして継続的なサポート体制も今後の重要な課題である。
ガイドライン等の開発
文献検索からは、性嗜好障害に対する治療方法は充分に確率されておらず、エビデンスも乏しいことが示唆された。エビデンスの構築のために、更なる介入研究の実践が望まれる。
その他行政的観点からの成果
本研究終了後に国会で成立した学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(こどもの性暴力防止法)の施行の際の参考となる基礎資料になると想定している。
その他のインパクト
特記事項はありません

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-12-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
202306041Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,664,000円
(2)補助金確定額
1,664,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,280,000円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 384,000円
合計 1,664,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2024-12-24
更新日
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