在宅サービスの利用を規定する要因に関する研究

文献情報

文献番号
199700644A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅サービスの利用を規定する要因に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
若林 健市(ダイヤ高齢社会研究財団常務理事)
研究分担者(所属機関)
  • 郡司篤晃(東京大学)
  • 武村真治(国立公衆衛生院)
  • 石橋智昭(ダイヤ高齢社会研究財団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口高齢化の急速な進展にともない長期にわたり在宅療養を必要とする高齢者が増加しつつある。高齢者の生活の質を維持し、在宅療養を円滑に進めるためには、公私の在宅サービスを適切に利用することが不可欠である。しかし実際には、在宅サービスの利用適格性を有する高齢者の相当数が、何らかの理由でサービスを利用していない。在宅サービスを利用していない(できていない)者の特性を明らかにすることは、サービスの利用を阻害する要因の特定を可能にし、阻害要因を除去してサービスを適切に利用した在宅療養を実現することに資するものと考えられる。
そこで本研究は、在宅サービスの利用者と非利用者の比較を通して、サービスの利用を規定している要因を解明することを目的とする。
研究方法
民間総合病院の協力を得て、調査期間中(平成9年9月~10年2月)に退院する60歳以上の高齢者を対象とした。但し、検査目的の一泊入院患者は除外した。
高齢者の入院中に、その介護者は世帯状況に関する自記式調査票に記入をし、病棟看護婦はMDS-HCを用いて退院時の高齢者の状態を評価した。在宅サービスの利用状況は、高齢者が退院したのちに来院する当該病院の外来で、外来看護婦が面接調査を行うか、来院しない高齢者の場合には電話で調査を行った。退院後在宅医療の対象になった高齢者には、訪問看護婦が調査を行った。
退院時の情報が得られた172名のうち、再入院や転院をした者(7名)と老人保健施設に入所中の者(5名)、その他の理由で連絡のとれなかった者(7名)を除いて153名の在宅サービスの利用状況が明らかになった。
153名の平均年齢は72.8歳(標準偏差7.1)であり、平均在院日数は、40.5日(標準偏差34.7)、退院日からサービス利用調査日までの平均日数は、97.4日(標準偏差45.5)であった。少なくとも1項目以上のIADLが障害の者は66.0%、少なくとも1項目以上のADLが障害の者は57.5%であった。
退院時に調査する内容の選定は、保健・医療・福祉サービスの利用を規定する要因を解明する際の概念的枠組みであるAndersenの行動モデルにならった。同モデルで提唱された3つの要因に準拠して以下のように選定した。(1)素因:基本的属性として性と年齢、社会的属性として家族構成と現在地居住歴、態度として在宅サービス有用性の認識、(2)利用促進要因:世帯要因として経済状態、主介護者の状況(同別居・就労・他に世話を要する人の数・主観的健康観・介護不安感・在宅サービスの知識)、高齢者の専有居室の有無、地域要因として近隣サポート、その他として退院前の在宅関連部署の関与(ケアマネジメント)の有無、過去の在宅サービス利用経験の有無、退院日からサービス利用調査までの日数、在院期間、(3)ニード要因:主観的ニードとして主観的健康観、客観的ニードとしてADL、IADL、認知機能、尿失禁、受けている医療行為。
対象とした在宅サービスは、ホームヘルプ・移送サービス・配食サービス・ショートステイ・デイサービス・訪問看護・訪問リハビリ・車椅子等の介護用品の利用とした。利用状況は、「利用を考えたことがない」「利用したいと思っている」「利用について問い合わせをした」「利用の申請をした」「利用している」の5段階で聴取した。
それぞれのサービスについて利用適格性を設定した。ホームヘルプでは少なくとも1項目以上のIADLが非自立であること、移送サービスでは交通機関の利用が非自立であること、配食サービスでは食事の支度か日常の買い物が非自立であること、訪問看護は医療行為を受けていること、デイサービス、ショートステイ、訪問リハビリ、介護用品については少なくとも1項目以上のADLが非自立であることとした。
結果と考察
利用適格者の在宅サービス利用率は、介護用品の利用が最も多く11.6%、次いでデイサービスが9.1%であった。配食サービスと訪問リハビリは、「利用したい」と「問い合わせをした」者はいたが、利用者はいなかった(表)。
利用者の実数が1名以下のサービスを除いた残り5つの在宅サービスについて、申請を含めた利用と非利用を従属変数、退院時に聴取した患者・家族の態様を独立変数としてロジスティック回帰分析(変数増加法)を行った。その結果ショートステイの利用に、主介護者の主観的健康観が低いこと、尿失禁があること(p< .05)、近隣のサポートがないこと(p<.10)が関連し、デイサービスの利用には、尿失禁があること(p< .01 )と近隣のサポートがないこと(p< .05)が関連した。介護用品の利用には、主介護者が別居していること(p<.10)、主介護者が在宅サービスの知識を有すること(p< .05)、高齢者の主観的健康観が低いこと(p< .05)、ADL・IADLの障害が重いこと(p<.10)が関連した。
高齢者在宅サービスの利用に関する研究を行うにあたって対象を地域の一般高齢者とすると、サービスの利用適格性を有する者が少数で解析が困難であることが知られている。このため、本研究では利用適格性を有する高齢者が多いと思われた退院高齢患者を対象とした。本研究の対象者のIADLとADLの障害頻度は、地域の高齢者と比して非常に高くなっており、在宅サービスの利用に関する研究の対象集団として適しているものと思われた。
Andersenの行動モデルは、サービスの利用に関連するさまざまな要因を系統的に整理することによって指標の選択を容易にし、結果の解釈を明快にする長所があるが、ニード要因の影響が相対的に大きくなる欠点が指摘されている。このため本研究では、サービスの種類によって利用適格性と考えられる条件を設定し、それらの条件を有する者に対象を限定したうえで分析を行った。その結果ADL・IADLのサービス利用への影響は小さくなり、ニード要因の中では、尿失禁と主観的健康観が利用と関連した。
利用促進要因に分類した変数では、世帯要因である主介護者の同居形態、主介護者の主観的健康観、在宅サービスの知識、地域要因である近隣サポートが、在宅サービスの利用と関連していることがわかった。
本研究の結果は、高齢者の在宅サービスの利用に関連する要因について一定の知見示すものであるが、サービス利用者の実数が少なかったため、すべてのサービスについての十分な分析ができなかった。今後調査を継続し、サービスの利用者を増やすことによって、より詳細な検討を行う必要がある。
結論
高齢退院患者の在宅サービスの利用には、ニード要因のほかに主介護者に関する要因と近隣のサポートの有無が関連していた。

公開日・更新日

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