文献情報
文献番号
202306031A
報告書区分
総括
研究課題名
日本専門医機構における医師専門研修シーリングによる医師偏在対策の効果検証
課題番号
23CA2031
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 毅(一般社団法人日本専門医機構 )
研究分担者(所属機関)
- 小野 孝二(東京医療保健大学 看護学部 大学院看護学研究科)
- 小池 創一(自治医科大学 地域医療学センター地域医療政策部門)
- 鈴木 昌(慶應義塾大学 医学部)
- 古川 博之(旭川医科大学 医学部 外科学講座 消化器病態外科学分野)
- 松浦 英治(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
- 松本 正俊(広島大学医学部)
- 小西 靖彦(順天堂大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
16,311,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本専門医機構が扱う基本領域専門研修は、医師法を根拠にした地域医療対策に基づき、厚生労働大臣の指導によって都道府県ごとの専門研修プログラム定員の制限を行っており、これを「シーリング」と称している。本研究の目的は、日本専門医機構がもつデータ、専攻医に対する網羅的なアンケ―調査、ならびに現時点で利用可能な公的データを用いて、現在行われているシーリングが医師の地域偏在に影響を及ぼしているか否かを検証することである。さらに専攻医がいかにして専門研修を行う都道府県や診療科を選択しているのか、その要因の分析を試みる。また、諸外国では、専門医の医師偏在対策としてどのような施策が行われているかを調査して報告を行う。これらにより、現状行われているシーリングについて検証する。
研究方法
(1) データベース解析:日本専門医機構のJMSB Online System+システムで、専攻医の応募・採用情報、採用された専攻医の研修履歴情報等をデータベース化された情報を匿名化して抽出し、卒業大学所在地、臨床研修実施病院所在地、専門研修プログラム期間中の研修施設所在地、専門研修後の勤務地について集計・分析を行った。
(2) アンケート調査:専攻医調査、責任者調査のいずれもWEB形式によるアンケート調査とした。
(3) 海外調査:わが国と同様に社会保険方式による医療保障制度を採用している、ドイツ及びフランスについて、専門医の偏在対策を調査した。
(2) アンケート調査:専攻医調査、責任者調査のいずれもWEB形式によるアンケート調査とした。
(3) 海外調査:わが国と同様に社会保険方式による医療保障制度を採用している、ドイツ及びフランスについて、専門医の偏在対策を調査した。
結果と考察
本研究では、専攻医及び専門研修プログラム統括責任者を対象に、初めての大規模アンケート調査を行った。
2020年度~2023年度の4年間に専門研修プログラムに登録した専攻医(修了者含む)15,876人の回答から得られた結果によると、必ずしもシーリングによる直接的な影響に限ったものではないことに留意する必要はあるものの、シーリングは医師偏在対策として、専攻医の都道府県・基本領域の選択行動に一定の効果があったと評価することが可能と考える。実際、シーリングのある領域では、シーリングのない領域と比較して、多数県での採用数が抑制されている。一方で、少数県の採用数の増加については、地域によってばらつきがあり、特に東北・東海・甲信越地方の医師少数県においては、シーリングによる医師配分効果が十分に発揮されているとは言えない。
診療科偏在については、シーリングによる効果の可能性が示唆されたものの、シーリング設定の対象となる都道府県の数やその性質、採用上限数等、シーリングの設定方法により大きく異なってくると考えられる。また今回のアンケート調査やデータ解析だけでは、その効果を十分に解析することは困難であったため、その効果測定は今後の課題と考えられる。
専攻医は、都道府県を変更してでも基本領域を優先する意向が強いことがうかがえるが、専門研修修了後には地域に定着せず希望していた都道府県に戻る場合もあると考えられる。シーリングの効果を専門研修期間での偏在対策として考える場合は効果があったともいえるが、より長期にわたる偏在対策を検討するのであれば、専攻医が専門研修修了後にその地域で定着するかどうかについても、今後分析を行った上でどういった取組が必要かを検討する必要がある。
責任者調査では、シーリングが地域偏在対策、診療科偏在対策上、効果があったかを尋ねたが、シーリングによる募集定員数が制限された都道府県・基本領域のプログラム責任者とそれ以外のプログラム責任者とでは評価が大きく分かれる可能性が示唆されており、より慎重な分析・評価が必要と考える。
2020年度~2023年度の4年間に専門研修プログラムに登録した専攻医(修了者含む)15,876人の回答から得られた結果によると、必ずしもシーリングによる直接的な影響に限ったものではないことに留意する必要はあるものの、シーリングは医師偏在対策として、専攻医の都道府県・基本領域の選択行動に一定の効果があったと評価することが可能と考える。実際、シーリングのある領域では、シーリングのない領域と比較して、多数県での採用数が抑制されている。一方で、少数県の採用数の増加については、地域によってばらつきがあり、特に東北・東海・甲信越地方の医師少数県においては、シーリングによる医師配分効果が十分に発揮されているとは言えない。
診療科偏在については、シーリングによる効果の可能性が示唆されたものの、シーリング設定の対象となる都道府県の数やその性質、採用上限数等、シーリングの設定方法により大きく異なってくると考えられる。また今回のアンケート調査やデータ解析だけでは、その効果を十分に解析することは困難であったため、その効果測定は今後の課題と考えられる。
専攻医は、都道府県を変更してでも基本領域を優先する意向が強いことがうかがえるが、専門研修修了後には地域に定着せず希望していた都道府県に戻る場合もあると考えられる。シーリングの効果を専門研修期間での偏在対策として考える場合は効果があったともいえるが、より長期にわたる偏在対策を検討するのであれば、専攻医が専門研修修了後にその地域で定着するかどうかについても、今後分析を行った上でどういった取組が必要かを検討する必要がある。
責任者調査では、シーリングが地域偏在対策、診療科偏在対策上、効果があったかを尋ねたが、シーリングによる募集定員数が制限された都道府県・基本領域のプログラム責任者とそれ以外のプログラム責任者とでは評価が大きく分かれる可能性が示唆されており、より慎重な分析・評価が必要と考える。
結論
現行の研修プログラムでのシーリングは、医師の地域偏在対策・診療科偏在対策において、専攻医の選択行動に一定の効果があると推察される。一方で、専攻医の中には医学部入学前から専攻領域を決めている場合や、それぞれ理想とする働き方があり、こうした専攻医の意向等も踏まえた適切な医師偏在対策を行うことが重要である。地域によって人口減少等による医療需要も異なる上、社会変化・技術変化が見込まれる中、それに適したシーリングの検討が求められる。
公開日・更新日
公開日
2024-07-02
更新日
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