医薬品の投与により免疫が低下したあるいは低下が予測される患者における至適なワクチン接種のための調査研究

文献情報

文献番号
202306028A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の投与により免疫が低下したあるいは低下が予測される患者における至適なワクチン接種のための調査研究
課題番号
23CA2028
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
平山 雅浩(国立大学法人三重大学 大学院医学系研究科小児科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 菅 秀(独立行政法人国立病院機構三重病院)
  • 中野 貴司(川崎医科大学 医学部 小児科)
  • 豊田 秀実(三重大学医学部小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,880,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.乳幼児及び小児期に接種すべきワクチンを成人で接種した際の安全性。
2.不活化混合ワクチンを複数回接種した際の安全性。
3.乳幼児及び小児期に接種したワクチンについて、成人になっても抗体価が維持されているか。またどの程度抗体価が維持されていれば追加接種不要と判断されるか。
研究方法
1.乳幼児及び小児期に接種すべきワクチンを成人で接種した際の安全性の整理。
2.不活化混合ワクチンを複数回接種した際の安全性の整理。
3.乳幼児及び小児期に接種したワクチンについて、成人になっても抗体価が維持されているか、またどの程度抗体価が維持されていれば追加接種不要と判断されるか、海外のガイドラインの記載状況及び論文等の整理。
結果と考察
1.「乳幼児又は小児期に接種すべきワクチンを成人で接種した際の安全性」では、生ワクチンと不活化ワクチンに分けて情報収集を行った。MRワクチン、麻しん、風しん、おたふくかぜ、水痘の各生ワクチンは、成人に対する適応も有しており、定期接種の年齢を超えた場合や成人に接種しても、副反応の程度は小児に接種する場合と同等であるばかりか、むしろ一定の間隔をあけて複数回接種することにより、ブースター効果が働いてより強固な免疫を獲得できることも証明されている。一方、小児用三種混合ワクチンDTaPを含む不活化ワクチンは、規定回数を超えて接種したり、すでに免疫を獲得している成人に接種した場合、局所性及び全身性特定有害事象(reactogenicity)が強く発現する場合が指摘されている。しかし本研究により、DTaPだけでなく、IPVを加えた四種混合ワクチンDTaP-IPV、Hibを加えた五種混合ワクチンDTaP-IPV-Hibなどの乳幼児又は小児期に接種すべき不活化ワクチンは、過去にこれらの不活化ワクチンの接種歴があり抗体を獲得している成人に対しても、重篤な有害事象を発現することなく安全に接種できることが明らかになった。

2.「不活化混合ワクチンを複数回接種した際の安全性」に関しては、成人同種造血細胞移植後患者を対象とした海外の報告では、DTaP-IPV-Hib又はB型肝炎ワクチンを加えた六種混合ワクチンDTaP-HB-IPV-Hibを、移植後約12か月で複数回接種した場合でも、局所の軽微な有害事象を認めたのみで、重篤な有害事象はなかったとされている。さらに、国内における指針(造血細胞移植ガイドライン 予防接種[第4版])では、DTaPは移植後3~12 か月で開始し、計3 回の接種が推奨されている。海外の指針では、乳児期ワクチンの接種方法と同様、DTaP-IPV-Hib 又はDTaP-HB-IPV-Hibを複数回接種することを推奨している。これらにより、定期接種の年齢を超えた場合や成人に対し、不活化混合ワクチンを安全に複数回接種できると考えられた。

3.「乳幼児又は小児期に接種したワクチンについて、成人になっても抗体価が維持されているか。またどの程度抗体価が維持されていれば追加接種不要と判断されるか」に関しては、残存免疫能のマーカーとして血清抗体価を評価することは有用であるが、抗体価と感染予防との相関が明確でない場合や、低抗体価が必ずしも感染防御能の喪失を示しているとは言えないとする報告も多く、臨床現場では、ワクチン予防可能疾患に対する疫学状況、集団免疫の程度や各個人の罹患リスクも考慮した上でワクチン接種の必要性を総合的に判断することが必要と考えられた。
結論
1. MRワクチン、麻しん、風しん、おたふくかぜ、水痘の各生ワクチンと、三種混合ワクチンDTaP、四種混合ワクチンDTaP-IPV、五種混合ワクチンDTaP-IPV-Hibなどの乳幼児又は小児期に接種すべき不活化ワクチンは、過去にこれらの不活化ワクチンの接種歴があり抗体を獲得している成人に対しても、重篤な有害事象を発現することなく安全に接種できると考えられた。
2.五種混合ワクチンDTaP-IPV-Hib、六種混合ワクチンDTaP-HB-IPV-Hibは、定期接種の年齢を超えた場合や成人に対し、安全に複数回接種可能と考えられた。
3.治療により免疫抑制状態にある患者では、定期的な抗体価の測定を行い、抗体価が低下した場合はワクチンの再接種が望まれるが、低抗体価が必ずしも感染防御能の喪失を示しているとは言えないため、ワクチン予防可能疾患に対する疫学状況、集団免疫の程度や各個人の罹患リスクも考慮した上でワクチン接種の必要性を総合的に判断することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2024-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202306028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦において、免疫を低下させる薬剤を投与される患者においては、感染症予防のためにワクチンが接種される可能性があるが、小児期に定期接種したワクチンを成人で改めて接種される状況や、混合ワクチンを使用する場合、目的の病原体に対するワクチン以外のワクチンも同時に接種される状況が想定される。本研究の成果として、免疫が低下した、あるいは、することが予想される患者において、感染症予防を目的としたワクチン接種を行う際の有効性と安全性に関する指針与える上で有意義なものと考えられる。
臨床的観点からの成果
治療により免疫抑制状態にある患者に、感染症予防の目的でワクチン接種を行うにあたり、有効性と安全性に関わる情報が不足している。本研究は、本邦または欧米のガイドラインや論文等を踏まえて、ワクチン接種における有効性と安全性に関するエビデンスの整理及び情報収集を行い報告書として取りまとめた。本研究成果は、学会等がとりまとめるワクチン接種に係るガイドラインの参考資料となり、多くの臨床現場で活用されることが予想される。
ガイドライン等の開発
治療により免疫抑制状態にある患者を対象に、ワクチンを接種する際の有効性と安全性に関するエビデンスの整理及び情報収集を行い、報告書を作成した。本報告書は広く社会に公表され、全国の医療機関で治療により免疫抑制状態にある患者にワクチン接種を行う際の指針となるとともに、学会等がとりまとめるワクチン接種に係るガイドラインの参考資料となる。
その他行政的観点からの成果
治療により免疫抑制状態にある患者を対象に、感染予防を目的としたワクチン接種を判断する基準、使用するワクチンの種類、有効性、安全性、危険因子などを明らかにした。これらの成果は広く公表され、免疫抑制状態にある患者に対する五価または六価ワクチンの適応拡大を検討する際の資料として貢献すると予想される。
その他のインパクト
本研究成果は研究報告書としてまとめられ、広く社会に公表される予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
202306028Z