文献情報
文献番号
202306026A
報告書区分
総括
研究課題名
大麻由来製品中に混在する微量Δ9-THCの試験法策定に資する研究
課題番号
23CA2026
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
- 田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
- 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 環境保健部)
- 土井 崇広(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 衛生化学部)
- 淺田 安紀子(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 衛生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,240,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」では,cannabidiol(CBD)含有製品等の大麻由来製品について,安全かつ適切な流通の確保のため,麻薬成分Δ9-Tetrahydrocannabinol(Δ9-THC)の残留限度値(Δ9-THC及びフェノールカルボン酸体Tetrahydrocannabinolic acid, Δ9-THCA-Aの総和)を設定することとなっており,この限度値が測定可能な分析法が必要とされている.本研究は,大麻由来製品中に混在する微量のΔ9-THCについて仮の残留限度値を設定し,限度値が測定可能な試験法を策定し,分析を行う際の留意点を取りまとめることを目的とする.
研究方法
大麻由来製品中に混在するΔ9-THCの分析法に関する海外公定法,論文等について文献調査を行い,本研究において仮の限度値として定めた濃度付近の定量分析を実施している文献における抽出法,測定法を精査した.一方,インターネット等において実際に流通が認められているCBD含有製品の製品形態を調査し,分析法検討において対象となりうる代表的な形態の製品を選択し入手した.調査した分析法について,Δ9-THCの仮の残留限度値付近の測定が可能な抽出法及び分離検出法となりうるか,予備検討を行い,問題点について検討を重ね,QuEChERS法により対象化合物の抽出/精製を行い,タンデム四重極型LC-MS/MSのMRMモードによる測定,もしくはLC-QTOF MSで精密質量測定を行う分析法案を作成した.作成した分析法案に基づき,研究分担者の機関において分析法妥当性評価を実施し,さらにCBD含有を表示していた代表的な3製品(オイル,グミ,クッキー)及び飲料(CBDウォーター)について,定量分析を実施した.結果をふまえて留意点を整理すると共に,最終的な分析法案を策定した.
結果と考察
薬物を含有しないことが確認されている市販の製品(オイル,グミ,クッキー),飲料(蒸留水)にΔ9-THC及びΔ9-THCA-Aを添加した試料を用いて,分析法案について分析法妥当性評価を実施した.LC-MS/MS, LC-QTOF MSによる測定での特異性,定量下限値,直線性,添加回収率,3濃度の真度及び精度を検討したところ,両測定ともに比較的良好な結果が得られた.本分析条件におけるΔ9-THC及びΔ9-THCA-Aの定量下限値は,LC-MS/MSによる測定で,飲料は各0.001 mg/kg及び0.0005 mg/kg、その他の製品では各0.05 mg/kg及び0.01 mg/kgであった.また,LC-QTOF MSによる測定では,飲料は各0.0025 mg/kg及び0.005 mg/kg,その他の製品ではΔ9-THC及びΔ9-THCA-A共に0.25 mg/kgであったが,オイルのΔ9-THCA-Aについては1 mg/kgであった.また,インターネットより入手した代表的なCBD含有製品について分析法案を用いて定量分析を実施した結果,総Δ9-THC量の限度値として設定した値を超える含有の有無についての判定が可能であった.しかし,本検討に供した製品は,オイル・グミ・クッキー・飲料のコントロール試料とそれらの実試料がそれぞれ1製品ずつのみであり,その中でもクッキーの実試料でΔ9-THCのピークの妨害となる未知ピークが確認された.様々な要素によって定量値が影響されることを鑑みて,標準添加法で定量分析を行う,使用する分析機器で適宜分析条件の最適化を図る等の検討が必要と考えられた.また,今回検討を行った製品と異なる性状の製品にも対応可能な分析法とするには,引き続き慎重な検討が必要と考えられた.測定において,限度値付近のΔ9-THCが検出された場合には,例えば「食品中の食品添加物分析法の妥当性確認ガイドライン」(健生食基発0308第1号,令和6年3月8日厚生労働省健康・生活衛生局食品基準審査課長通知)等を参考に,それぞれの製品について,分析法の妥当性を確認する必要があると考えられる.なお,Δ9-THCをはじめとして大麻関連化合物の標準品は,現時点で日本において入手が困難なものが多い.Δ9-THC,Δ9-THCA-A,また内標準物質として用いることが想定されるそれら化合物の重水素標識体,さらには異性体や類縁化合物等,十分な種類の標準品を整備しうる環境づくりが望まれる.
結論
大麻由来製品中に混在する微量のΔ9-THC(Δ9-THC及びΔ9-THCA-Aの総和)について,LC-MS/MS又はLC-QTOF MSを用いた標準的な大麻製品中のΔ9-THC分析法を策定し,分析を行う際の留意点を取りまとめた.大麻由来製品の安全かつ適切な流通の確保のため,分析機関において,適切な分析が行われることが期待される.
公開日・更新日
公開日
2024-08-01
更新日
-